2023年12月26日火曜日

冬期閉室のお知らせ

 児童文化研究センターは、2023年12月28日(木)から2024年1月8日(月)まで、閉室とさせていただきます。

 ご不便をおかけいたしますが、なにとぞご了承くださいませ。

 皆様どうぞよいお年をお迎えください。

2023年12月8日金曜日

ミニ展示 12月8日~15日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行なっております。


時の扉をくぐり

甲田天 作 太田大八 絵 BL出版 2008年


 展示期間中も貸し出しをすることができます。

 どうぞお気軽にご利用ください。

クリスマスの時期になるとセンターに飾られる
フェルトの羊。名前は、左からヴィンセント、
テオ(テオドルス)、ヨー(ヨハンナ)、
ヴィンセント(テオとヨーの子ども)です。
今回展示中の本には、画家のヴィンセント・
ヴァン・ゴッホが登場します。

2023年11月24日金曜日

ミニ展示 11月24日~12月8日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行なっております。

ゲイル・カーソン・レヴィン
さよなら「いい子」の魔法
三辺律子 訳 サンマーク出版 2000年

 本学OGで非常勤講師の三辺律子先生の訳書です。
展示期間中も貸し出しをすることができます。
どうぞお気軽にご利用ください。


2023年11月16日木曜日

今年も吉祥草が咲きました

 今年も吉祥草(キチジョウソウ)が咲きました。 

草陰にひっそりと咲いています。

熊沢健児氏曰く「並んで咲く姿はグリム童話
『おどる12人のおひめさま』のようである」。

 吉祥草の花期は秋。白百合女子大学のキャンパス内では、毎年11月になるとこの花の姿を見ることができます。まだ蕾のものもありましたので、もうしばらくの間は咲いていてくれそうです。

2023年11月10日金曜日

ミニ展示 11月10日~11月24日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行なっております。

展示中の本
ピーター・パンの場合
児童文学などありえない?
ジャクリーン・ローズ 著
鈴木晶 訳 新曜社 2009年

展示期間中も貸し出しをすることができます。
どうぞお気軽にご利用ください。


2023年10月27日金曜日

ミニ展示 10月27日~11月10日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行なっております。


展示中の本

ピーター・S・ビーグル

最後のユニコーン

旅立ちのスーズ

井辻朱美 訳 早川書房 2023年

 

本学教授、井辻朱美先生の訳書です。井辻先生がご寄贈くださいました。


※展示期間中も貸し出しをすることができます。
どうぞお気軽にご利用ください。


2023年10月13日金曜日

ミニ展示 10月13日~27日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行なっております。

 

小林夏美

『「語る子ども」としてのヤングアダルト

現代日本児童文学におけるヤングアダルト文学のもつ可能性』

風間書房 2023

 

先日、ご紹介いたしました通り、児童文学専攻OGでセンター研究員の小林夏美さんが、この本の出版によって第47回日本児童文学学会奨励賞を受賞されました。改めまして、センター一同、心よりお祝いを申し上げます。

こちらの本は、2020年度、白百合女子大学に提出された博士論文がもととなっております。博士論文執筆を目指す院生の皆さん、ぜひ、お手に取ってご覧ください。

※展示期間中も貸し出しをすることができます。遠慮はご無用、どんどんご利用ください。
※本の題名をクリックすると、本書を読んだ助手の感想文のリンクが開きます。

2023年10月5日木曜日

センター構成員とセンター所長の受賞

 センター構成員の小林夏美さんが『「語る子ども」としてのヤングアダルト――現代日本児童文学におけるヤングアダルト文学のもつ可能性』(風間書店、2023年5月15日)の出版で第47回日本児童文学学会奨励賞を、そして、センター所長の浅岡靖央先生が『「日本少国民文化協会」資料集大成』(全8巻・別冊、金沢文圃閣、2021年12月~2022年12月)の編集および解題で第47回日本児童文学学会特別賞を受賞されました。おめでとうございます!


 小林さんのご著書は2020年度に提出された学位請求論文(博士論文)がもととなっており、論文構成や書き方を学びたい院生の皆さんの間で人気💕です。センターでも所蔵しておりますので、ぜひ、ご利用ください。

 浅岡先生が編集と解題を手がけられた『「日本少国民文化協会」資料集大成』は、大学図書館で所蔵しています(センターには別冊があります)。戦時期の重要な資料が全8巻・別冊にぎゅぎゅっと詰め込まれています。児童文学とアダプテーション研究プロジェクトでもさっそく活用しました! まだご覧になっていない方は是非お手に取ってご覧ください。


 センター助手一同、心よりお祝いを申し上げます。

2023年9月22日金曜日

ミニ展示 9月22日~10月13日

センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。展示期間中も貸し出しをすることができます。どうぞお気軽にご利用ください。


展示中の本 

森下みさ子

『娘たちの江戸』

筑摩書房 1996


本学教授、森下みさ子先生のご著書です。森下先生がご寄贈くださいました。

ブックカバーのデザインや、朱色の粋な帯にもご注目ください。

2023年7月27日木曜日

夏期閉室のお知らせ

 児童文化研究センターは、7月28日(金)から9月21日(木)まで、閉室とさせていただきます。
 ご不便をおかけいたしますが、なにとぞご了承くださいませ。

 暑さ厳しき折、くれぐれもご自愛ください。

リレー展示「本について話そう」⑧7月27日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。今回は、全8回の連続展示の最終回です。

 

マンロー・リーフ おはなし ロバート・ローソン え

『はなのすきなうし』

光吉夏弥 やく 岩波書店 1954年

 書誌情報をクリックすると、キャプションの代わりとなるテキストのリンクが開きます。展示期間中も貸し出しをすることができます。どうぞお気軽にご利用ください。

2023年7月21日金曜日

リレー展示「本について話そう」⑦7月21日~7月27日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。今回は、全8回の連続展示のうちの7回目です。

 

松本育子編集

『田島征三 アートのぼうけん展』

NHKエンタープライズ出版、2022年


 書誌情報をクリックすると、キャプションの代わりとなるテキストのリンクが開きます。
 展示期間中も貸し出しをすることができます。どうぞお気軽にご利用ください。

2023年7月14日金曜日

リレー展示「本について話そう」⑥7月14~20日

センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。今回は、全8回の連続展示のうちの6回目です。

 

成相肇・ちひろ美術館・日本経済新聞社文化事業部編

『生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。』

日本経済新聞社、2018

 

 書誌情報をクリックすると、キャプションの代わりとなるテキストのリンクが開きます。

 ※展示期間中も貸し出しをすることができます。どうぞお気軽にご利用ください。

2023年7月13日木曜日

研究会のお知らせ「第69回研究会 児童文化研究センター研究会 前期発表会」 ※終了いたしました

 2023度より、これまでの「構成員研究発表会」が「児童文化研究センター研究会 前期/後期 研究会」に生まれ変わります。

おかげさまで、前期研究会は無事終了いたしました。


第69回研究会 児童文化研究センター研究会 前期発表会

日時:2023年7月24日(月)13:00~17:00

場所:クララホール(11号館3階)


発表スケジュール

13:00~14:30 修士論文中間発表会

14:35~14:30 博士論文構想発表会

15:20~16:50 構成員研究発表会


構成員研究発表会 発表題目

①はやみねかおる作品の独自性

②鏡写しの登場人物たち―『ねずみの騎士 デスペローの物語』―

③イタリア語版ちりめん本について


申し込み方法

どなたでもご参加いただけます。

在学生・教職員の皆様はお申し込みは不要です。会場に直接お越しください。

※諸事情により、発表順が変更される場合がございます。そのため開始・終了時刻も変更されることがございますので、あらかじめご了承ください。

2023年7月7日金曜日

リレー展示「本について話そう」⑤7月7~13日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。今回は、全8回の連続展示のうちの5回目です。


大竹聖美『植民地朝鮮と児童文化―近代日韓児童文化・文学関係史研究』社会評論社、2008年


 書誌情報をクリックすると、キャプションの代わりとなるテキストのリンクが開きます。

 展示期間中も貸し出しをすることができます。どうぞお気軽にご利用ください。

2023年6月29日木曜日

リレー展示「本について話そう」④6月29日~7月6日

センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。今回は、全8回の連続展示のうちの4回目です。

 

山口博監修、正道寺康子編

『ユーラシアのなかの宇宙樹・生命の樹の文化史』

勉誠出版、2018

 書誌情報をクリックすると、キャプションの代わりとなるテキストのリンクが開きます。

 展示期間中も貸し出しをすることができます。どうぞお気軽にご利用ください。

2023年6月23日金曜日

リレー展示「本について話そう」③6月23~28日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行なっております。今回は、全8回のうちの3回目です。

齋木喜美子『沖縄児童文学の水脈』関西学院大学出版会、2021年

 書誌情報をクリックすると、キャプションの代わりとなるテキストのリンクが開きます。

 展示期間中も貸し出しをすることができます。どうぞお気軽にご利用ください。

2023年6月16日金曜日

第6回書評コンクール 猫村たたみ×熊沢健児トークセッション

猫村たたみ
(センター三文庫の守り猫)
猫村:皆さま、ご機嫌いかがかにゃ? センター三文庫の守り猫、猫村たたみですにゃ!

熊沢:どうも、熊沢健児です。書評コンクールの投票結果が出たね。

猫村:にゃ! 今回も個性豊かな書評が集まったのにゃ。コンクールにご応募くださった皆さま、投票に参加してくださった皆さま、そして、参加はしなくとも関心をお寄せくださった皆さま、ありがとうございますにゃ!
熊沢:いつも見守って下さる皆さまにも、心よりお礼申し上げます。

熊沢健児
(ぬいぐるみ・名誉研究員)

猫村:第6回書評コンクールの振り返りを始めるのにゃ! 

熊沢:最初の書評は桐江さんが書いてくださった、『パールとスターシャ』の書評だね。

猫村:アウシュビッツ絶滅収容所という実在の場所、そして、実在の人物をモデルとしたキャラクターが出てくる物語にゃって。私、この作品は読んだことがないのにゃけど、興味を持ったのにゃ。舞台が収容所だということから、目を覆いたくなるような出来事が起きていることは容易に想像がつくのに、「美しい物語」ってどういうことかにゃ~って思ったのにゃ!

熊沢:そうだね。それから、主人公である双子の人物像を中心に作品概要を紹介した上で、「希望ある結末が待っている」という一言で、この作品に興味を持ち始めた人の背中をそっと押してくれる。執筆者の観点がはっきりしていて分かりやすいだけでなく、優しさがあっていいなと思った。

猫村:にゃ! 愛ある書評にゃ!

熊沢:うん。私もこういう書評を書けるようになりたい。

猫村:愛といえば、しあわせもりあわせさんが紹介する図鑑も、愛に溢れているのにゃ。

熊沢:監修者の昆虫愛を読み取って、しあわせもりあわせさんもちゃんとそれに反応している。

猫村:コール・アンド・レスポンス!

熊沢:いいこと言うね。ある書物が読まれるとき、その書物の作り手とその受け取り手との間には目に見えない心の交流が生まれている。普段は目に見えない心の交流が、書評という形で可視化されると、なんだかすごく励まされるような気がするよ。

猫村:そうにゃね。

熊沢:特に図鑑の類は、その図鑑が扱っている分野が好きで好きでたまらない子どもたちが、それこそ隅から隅まで余すところなく熟読して、写真を見つめる。図鑑って、実はものすごく愛されている書物なんじゃないだろうか。

猫村:児童書界の人気者にゃ!

熊沢:そうかもね。

猫村:クマのプーさんも人気者にゃ。

熊沢:西大條さんの書評だね。展覧会の図録だから、展示風景にも触れてくれている。いいなあ、私も行きたかったよ。展示空間って、大事だよね。作品をどう見るかって、展示空間の設計次第だもの。まっさらな気持ちで観客を展示品に向かわせようとする白い壁も、テーマパークみたいに気分を盛り上げるための装飾や演出も、どちらも私は好きだな。

猫村:にゃ~む。PLAY! MUSEUMは気分を盛り上げてから原画に向わせてくれる展示にゃったみたい。

熊沢:うん。書物という形自体が独自の空間表現だから、展示がどんなだったのか気になるな。

猫村:にゃ! 西大條さんの書評を読むと、図録のデザインも展示空間のデザインと連動していることが分かってさらに興味深いのにゃ。

熊沢:遊び心たっぷりの図録。いいなあ。私も少し、遊びたい。

猫村:にゃにゃ! 何して遊ぶのにゃ? おはなし会で良ければ、いますぐにでも私が開くのにゃ。

熊沢:君が書評で取り上げた『いちじくのはなし』は、いちじくのおはなし会だったね。

猫村:そうなのにゃ。面白かったのにゃ~。

熊沢:人に読んであげたり、人から読んでもらったりするといいって?

猫村:私はそう思ったのにゃ。

熊沢:それってつまり…いちじくが語る本編とは関係のない、ということは、言語化されていない、絵による細部の描写から、さまざまな小さな物語を想像することができる…そういうこと?

猫村:そうなのにゃ!

熊沢:いいね。この振り返りが終わったら、ふたりで1話ずつ『いちじくのはなし』を読み合おう。

猫村3話あるからそのうちの2話は私が読んであげるのにゃ。熊沢君には息抜きが必要にゃ!

熊沢:あはは…確かに。私はマンガが好きでよく読むけど、自分から好んで読む作品は、息抜きにはなりそうにない、重たい作品が多いかもしれない。

猫村:今回、熊沢君が取り上げた『光の子ども』もそうだったのかにゃ?

熊沢:う~ん。それは、読む人によると思う。

猫村:そうにゃね。感じ方は人それぞれにゃ。『光の子ども』読書会もしてみたいのにゃ~。

熊沢:そうだね。ほかの人がこの作品を読んでどう感じるか、知りたいな。

猫村:にゃ~む、してみたいことがたくさんあるのにゃ。

熊沢:うん。そうそう、遠藤さんが取り上げた『ちいさな労働者』だけど、この本に収められているのと同じ写真を、大学図書館の本で見ることができるよ。PHOTO POCHEシリーズのLewis W. Hine. (Centre National de la Photographie, Paris, 1992)という本。『ちいさな労働者』ではトリミングされていた写真もあるから、こうしてもう1冊、別の本を確認するとまた見え方が変わって面白いね。

猫村:インクの濃さによってだいぶ印象が変わってくるのにゃ~。

熊沢:ところで、以前、君は写真が好きだと言っていたよね。それなのに、どうして君のプロフィールはセンターの助手さんが描いた似顔絵なの? 写真にすれば良いのに。

猫村:私、猫またにゃから、写真にはもやっとした靄しか写らないのにゃ。にゃから、プロフィールは念写か、似顔絵にするしかないのにゃ。

熊沢:…え? 念写って、実在するの? 

猫村:妖怪仲間のみんなと風流踊りツアーに行ったときの集合写真を見せてあげるにゃ。(猫村、鞄から小さなアルバムを取り出す。)昔懐かしのレンズ付きフィルムで撮ったのにゃよ。

熊沢:ねえ、念写って実在するの?(お願い、答えて!)

猫村(猫村、写真に夢中で聞いていない。)このオレンジ色っぽい靄が私、その隣の緑色っぽい靄が女学校からのお友達のろくろっくびさん、そのまた隣の青っぽい靄がお向かいのお家に住んでいる一つ目小僧君で、その上の紫色っぽい靄がぬりかべ先輩で…

熊沢:心霊写真(生まれて初めて見た…!)。

猫村:心霊写真にゃなくて、妖怪写真にゃ!

熊沢:…。

猫村:みんな、いいひとたちにゃよ。

熊沢:そうか…。

猫村:そうなのにゃ!

 

皆様、「児童文化研究センター主催 第6回書評コンクール」に最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました。次回の書評コンクールは来年、春頃に開催する予定です。皆様のご参加を、心よりお待ちしております。

第6回書評コンクール 結果発表

第6回書評コンクールの投票結果を発表いたします。


書評番号1 桐江さん(教職員)       得票数5

書評番号2 しあわせもりあわせさん(一般) 得票数2

書評番号3 西大條優香さん(学生)     得票数2

書評番号4 猫村たたみ(その他)      得票数2

書評番号5 熊沢健児(その他)       得票数0

書評番号6 遠藤知恵子(教職員)      得票数0

 

 最も得票数が多かったのは、書評番号1の『パールとスターシャ』の書評を書いた、桐江さんでした。おめでとうございます!

 ご参加くださった皆様、ありがとうございました。

2023年6月8日木曜日

リレー展示「本について話そう」②6月8~21日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行なっております。今回は、全8回のうちの2回目です。


 書誌情報をクリックすると、キャプションの代わりとなるテキストのリンクが開きます。

 展示期間中も貸し出しをすることができます。どうぞお気軽にご利用ください。

2023年6月2日金曜日

熊沢健児の気になる収蔵品展

 宮城県仙台市にある宮城県美術館が、改修工事のためしばらく休館となることを知り、新幹線のチケットを予約して朝いちで行った。本館1階で今月18日まで開催される、「リニューアル直前!宮城県美術館の名品勢ぞろい!」展である。

どうしても見ておきたかったのは、昨年亡くなられた山脇百合子さんの原画作品の展示「ありがとう山脇百合子さん」である。展示室に入ってすぐ、『いやいやえん』や『ぐりとぐらとすみれちゃん』、『やまのこぐちゃん』、『ブラウニーものがたり』など、絵本や紙芝居、挿絵の原画をいくつも見ることができた。「ぐりとぐら かるた」の原画も堪能した。

原画の展示なので、言葉はもともと絵にかき込まれているものと、展示室の壁にキャプションとして添えられた必要最小限の説明のみ。でもこれが良かった。なまじ文字が読めてしまうと、言葉に気を取られて充分に絵を注視するということが難しくなる。ほとんど文字無しの状態で原画と向き合っていると「あれ? こんなところにこんなものが…」という発見がある。もちろん、原画に書き込まれた指示や、絵を構成する要素の異同(切り取って少しずらして貼りつけた雲など)といった、作品制作のプロセスを知る手がかりも満載である。

あああぁぁぁ…いつまでも見ていたい、いっそこの部屋に住みたい! そんなことを思いながら、一点一点、惜しみつつ見て歩き、結局2往復した(昼近くなってだんだんお客さんが増えてきたので、3往復目は断念した)。この美術館は絵本原画を収集対象としていて、『こどものとも』の初期の原画を中心におよそ550タイトルを収蔵している。

また、宮城県美術館といえばクレーとカンディンスキー。日本国内の美術館では最大のクレー・コレクションを有しており、収蔵作品数は35点。カンディンスキーの初期の作品〈商人たちの到着〉(1905年)はぱっと見た感じ後年のコンポジションシリーズとはだいぶ印象が異なるが、黒い下地の上に置かれた色彩が目に心地よく響く。バウハウスでは同僚だった彼らの作品が、一つの展示室に仲良く並んでいるのを見るにつけ、「友達っていいな…」などと思うのだった。

宮城県にゆかりの作家や東北出身の画家の作品、佐藤忠良(言わずと知れた絵本『おおきなかぶ』の原画作者である)の彫刻やドローイング、それに具体美術協会の人たちの作品など、個性的なコレクションを有する宮城県美術館だが、その中でも特にユニークなのは、「洲之内コレクション」ではないだろうか。「買えなければ盗んででも自分のものにしたい絵なら、まちがいなくいい絵である」という物騒な名言を残した画廊経営者、洲之内徹が収集した絵画を、この宮城県美術館が収蔵している。

洲之内コレクションが展示されている展示室の一角は、なんだか美術館ではないような不思議な空間である。いつまでも眺めていたいし、なんならこの部屋のこの場所に棲みついてしまいたい。絵本原画の部屋では興奮度MAXのアドレナリンに浸りきった脳で「この部屋に住みたい」と思ったのだが、洲之内コレクションを前にしたときは、静まり返った気持ちで同じことを思った。最初に絵を見たときの「あぁ、いいなぁ」という呟きが、絵から離れた後もいつまでも頭の中に響き続けるような、忘れがたい魅力を湛えた絵が並ぶ。

 

さて、いつまでも絵を見ていたいけれど、ここは東北。定刻通りに新幹線に乗らないと、明日の仕事に間に合わない。また会おう、宮城県美術館!


熊沢健児(ぬいぐるみ・名誉研究員)

久々の遠出を終えて、センターに
帰って来たところ。ポシェットの
羊羹を補充している。


武井武雄展、神奈川近代文学館で開催!

 今月3日より、横浜・山手の「港の見える丘公園」で武井武雄(1894-1983)の刊本作品が展示されることとなりました。展示会のタイトルは「本の芸術家 武井武雄展」です。

 12年前に武井武雄刊本作品全139点が寄贈された神奈川近代文学館では、それら全てを閲覧室で手に取って見ることができます。武井の一連の刊本作品は、毎回、武井が一から企画し、デザインと本文を手がけたうえで、必要に応じてその道の達人である人たち(たとえば、伝統工芸の職人さんなど)と連携して制作していました。

 私の研究対象とする武井武雄の作品が、それも、地元神奈川で展示されるのですから、これはもう、いてもたってもいられません。この展示に関しては全くの部外者ではありますが、いつかどこかで叫びたいと思っていた武井の面白さについて、「ぜひチェックしていただきたいポイント」として、とりあえず三つだけ紹介させてください。

 

ポイント1 武井武雄はMr.几帳面

 

 武井武雄は児童書の挿絵や絵本の絵を手がけ、自らも物語を書いた作家です。郷土玩具蒐集が嵩じて分厚い本を書いていますし、さまざまな技法を用いて版画での表現を楽しんでもいます。そんな多才な人物でしたが、強いてただ一言で創作者としての武井を形容するならば、「几帳面」。

刊本作品をつくるときには、創作ノートに本のデザインや下図を記すだけでなく、制作費もきっちり計算し、1冊当たりの制作費を割り出していました(Mr.明朗会計)。亡くなる直前まで、几帳面にコツコツと作り続けた成果がこの一連の刊本作品です。ぜひ、創作ノートとともにじっくり楽しんでください。

 

ポイント2 実験的な試み

 

 刊本作品は様々な素材と技法を組み合わせて制作、部数限定で会員向けに頒布された、一連の造本美術作品です。異素材の組み合わせや、当時としては斬新な印刷方法(静電気を使った特殊な印刷など)、さまざまな創意工夫を凝らした版画の技法などを用いて制作しているところも、ぜひチェックしてください。ただし、制作過程が面白いのに、見た目が地味な作品も実はあります。

 見た瞬間に「うわー、綺麗!」と感嘆してしまうような作品もある一方で、ちょっと見ただけではその新しさや凄さが伝わらない作品もありますから、展示をみて、もしご興味をもっていただけたら、武井の『本とその周辺』(1960年/文庫版1975年)で確認してみてください。この本に、技法の一部が紹介されています。

 

ポイント3 表現者と鑑賞者の交流

 

武井は刊本作品友の会会員のことを「親類」と呼び、「親類通信」で刊本作品の頒布や制作プロセスなどについての情報発信をしていました。また、刊本作品のコレクションをきっかけに、一部の会員の間では親しい交流が生まれました。

1955年発行の『ARIA』は抽象的な版画の連作で構成されている本ですが、武井は「親類」たちにこの本に寄せて詞文を書いてもらい、『ARIAに寄せる』というもう1冊の本を制作しています。作者の意図は鑑賞者にどこまで伝わるだろうかという実験です。ただつくって満足するのではなく、その表現を他人にどこまで受け取られるものかということを気にかけていました。

 

以上、「ぜひチェックしていただきたいポイント」を、「本の芸術家 武井武雄展」開催直前にお伝えいたしました。

 

遠藤知恵子(センター助手)

2023年6月1日木曜日

リレー展示「本について話そう」① 6月1~7日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行なっています。展示期間中も貸し出しをすることができます。どうぞお気軽にご利用ください。

国岡晶子「ブックトーク『原発と放射能』

——確かな本を選びとるために」


 今回から、全8回の連続展示(リレー展示)を始めます。毎回、1冊ずつ展示します。書誌情報をクリックするとテキストのリンクが開きます。テキストでは、その本を展示することについての説明をしています。

2023年5月31日水曜日

ミニ展示予告「本について話そう」―「戦争と平和について考える」をテーマに―

 6月から7月にかけて、「本について話そう」というタイトルのもと、センター蔵書(通称Z本)のリレー展示を行います。児童文化研究センター設立から31年が経ち、内外からのご寄贈によって構成されるセンター蔵書は、かなりの冊数になります。そろそろ、テーマごとの連続展示も可能なのではないかと考え、この展示を企画しました。場所はセンター入り口です。
 リレー展示「本について話そう」第Ⅰ期のテーマは、「戦争と平和について考える」です。深刻なテーマを扱った展示にはなりますが、1冊1冊の本がもつ魅力を大切にして、全8回のリレー展示を行おうと考えています。皆様、どうぞお付き合いください。

リレー展示概要 PDFファイルはこちら

2023年5月26日金曜日

第6回書評コンクール 応募作品を公開します


 第6回書評コンクールの応募作品を公開いたします。
 今回は6本のご応募がありました。ご応募、ありがとうございます。

【書評番号1】
アフィニティ・コナー著、野口百合子訳『パールとスターシャ』東京創元社、2018

【書評番号2
丸山宗利総監修『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』、学研プラス、2022

【書評番号3】
『クマのプーさん展公式図録 百町森のうた』E. H. シェパード [画] 、安達まみ監修、ブルーシープ、2022年 

【書評番号4】
しおたにまみこ『いちじくのはなし』ブロンズ新社、2023年

【書評番号5】
小林エリカ『光の子ども』第1部、全3巻、リトルモア、2013年/2016年/2019年

【書評番号6
フリードマン、ラッセル『ちいさな労働者 写真家ルイス・ハインの目がとらえた子どもたち』千葉茂樹訳、あすなろ書房、1996


 優秀作品は投票で決定いたします。

 投票方法:GoogleForms 

 投票できる人:児童文化研究センター構成員と本学学生

 投票締め切り:2023年6月15日(木)

 結果発表:6月16日(金)

 投票は書評の執筆者名を伏せた状態で行い、結果発表のときに各書評の執筆者を発表いたします。

 ぜひご参加ください!

【書評番号1】 アフィニティ・コナー著、野口百合子訳『パールとスターシャ』東京創元社、2018年


 家畜運搬車の扉が開く。中にはやせ細った老人と女性、そして背丈も顔立ちもそっくりな二人の少女。警備兵が居丈高に祖父に質問し、母と娘たちは震えている。

 一家のすぐそばで、三つ子の少年たちが白衣の男に安全を請け合われ、他の人々とは別の場所へ進まされる。怯えていた母親の目に光が戻り、兵士に詰め寄るように尋ねる。

「ここでは−−双子なのはいいことなんですか?」


 家族が連れて来られたのはアウシュビッツ絶滅収容所。双子や三つ子を選別していた白衣の男はヨーゼフ・メンゲレ。ナチスで非道な人体実験を繰り返し、戦後も逃亡して罪を償うことのなかった人物である。

 主人公の双子の姉妹、12歳のパールとスターシャはメンゲレの手に引き渡され、「動物園」と呼ばれる施設へ入れられる。実験材料として保護されるとはいえ、その環境は悲惨だ。衛生面は酷く、食事も十分ではない。息を引き取る者がいれば、周囲は悲しむのではなく我先にと身ぐるみをはがしにかかる。

 物語は姉妹のそれぞれの視点から交互に語られる。過酷な状況だが、二人の語りは決して暗いものではない。互いへの愛情。収容者との間に芽生える絆。人が人として扱われない環境でも、人間性までは奪えない。

 特に妹のスターシャは想像力が豊かで、現実に空想を重ねることで自分を保つすべを知っている。人体の標本を見たショックを蝶の標本を連想することで和らげたり、ジャッカルになりきって苦境を凌いだり、スターシャの想像はしばしば動物と結びつく。これらの発想の源になっているのは全て、生物学者だった祖父から教わった知識だ。スターシャにとって空想は離れ離れになった家族との繋がりを確認する手段でもある。

 一方で、現実主義のパールは空想に逃げることができず、残酷な状況を直視し、疲弊していく。姉を自分の「最良の部分」と考え、全く同じ存在でありたいと願うスターシャの思いとは裏腹に、パールは収容所を生き延びられる可能性が高いのは妹だと判断し、彼女を生かそうと画策するようになる。

 そしてついに、姉妹が離れ離れになる日が来る。引き離された二人はどんな運命を辿るのか。つらく長い道のりになるが、希望ある結末が待っているので、ぜひ実際に読んでみてほしい。

 なお、パールとスターシャは架空の人物だが、物語には実在の人物がモデルとなったキャラクターも多数登場する。特に、多くの妊婦を苦渋の選択によって助けたユダヤ人女医のジゼラ・パールがモデルとおぼしきミリ医師の悲嘆は、我が子を奪われた全てのユダヤ人女性の嘆きが凝縮されているかのようで胸が引き裂かれる。

 この本を読み終えたときに覚えたのは、なんて美しい物語だろうという感動だ。被害者を美化しているわけではなく、描かれているのはおぞましい所業ばかり。それでも、パールとスターシャの目を通して見える世界は光に満ちている。人間の「最良の部分」を信じようと思わせてくれる力強い作品である。



***第6回書評コンクール 投票方法***

センター構成員の方と本学学生の方は、投票にご参加いただけます。

投票は、Google Formsでお願いいたします。

皆様のご参加を、心よりお待ちしております。


【書評番号2】丸山宗利総監修『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』、学研プラス、2022年


 読んでいてこれほど胸の熱くなる、図鑑の監修者前書きもそうそうあるまい。昆虫への思いはもちろん、図鑑というものに対する思いがひしひしと伝わってくる。優れた図鑑は子どもたちを夢中にさせ、ボロボロになるまで毎日くり返し読まれるものなのだ。本書は明確にそれを目指している。


 出版界において、学習図鑑は長らく小学館と学研の二強体制が続いていた。だが、2000年から小・中学校と高等学校で「総合的な学習の時間」がはじまると、新しい様相を見せるようになる。最新情報や写真図版の収録に力を入れた「小学館の図鑑NEO」や「ポプラディア大図鑑WONDA」、家庭の本棚に収まりやすいサイズで動画のDVDを付録とした「講談社の動く図鑑MOVE」など、出版各社が工夫を凝らした新シリーズを展開する中、学研はどうにも出遅れている感じが否めなかった。


 しかし、本書はあまたある昆虫図鑑の中で群を抜いてすばらしい。収録されている昆虫などの種類が他社の学習図鑑よりも圧倒的に多いだけでなく、生きたものの写真だけを使っているところが、これまでの昆虫図鑑と異なっている。


「昆虫がいちばんきれいに見え、みなさんが手にとってみたときの印象で調べられるよう、生きたものだけをのせることにしました」


 さらっと書いてあるが、2,800種以上を収録している昆虫図鑑でそれを実現するには、どれほどの時間と労力がかかったことだろうか。死後の標本の写真で済ませれば、もっと楽であったろうに。約50名もの研究者たち(助手や学生を含めると、何百人にもなるだろう)が手分けして虫を探し、写真を撮影する日々。さらに友人・知人に広く声をかけ、情報や生体などを提供してもらって、この図鑑はできあがっているのだ。


 例えば、「カマキリのなかま」のページを見てみる。どのページのカマキリも、同じ角度で、同じポーズをとっている。きっと、カマキリの生態が一番よくわかり、一番美しく見える角度とポーズなのだろう。その瞬間になるまで、撮影チームはカメラを構え、固唾をのんで見守っていたのだ。逃げられない工夫も必要だっただろう。相手は生きているのだから。


 自分は昆虫にはさほど興味のない人間だが、この図鑑は面白い。何気なく開いたページを眺めているだけで、「オオセンチコガネは生息する地域によって色がこんなに違うのか。嘘みたいに違うな」など、思いもよらなかった知識が入ってきて、「昆虫ってすごいな」「生き物ってすごいな」「もっと知りたいな」という気持ちにさせられるのだ。昆虫好きな子どもなら、貪るように読むだろう。できれば本書を子どもの頃の自分に見せてやりたいという総監修者の言葉には、納得と尊敬と感動しかない。



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【書評番号3】『クマのプーさん展公式図録 百町森のうた』E. H. シェパード [画] 、安達まみ監修、ブルーシープ、2022年


 また、会えたね。

 子どものころ『クマのプーさん』を読みふけった人も、そうでない人も、ついそう口に出してしまうような空間が、2022年の夏、立川に広がっていた。赤い布張りの表紙が金文字で飾られ、プーとなかまたちが慰労会をしている場面が描かれた、豪華な装丁のこの本は、2022年7月16日から10月2日まで東京・立川のPLAY! MUSEUMで、次いで10月8日から11月27日まで名古屋市美術館で開催された「クマのプーさん」展の公式図録である。

 私は立川のほうにしか足を運んでいないのだが、PLAY! MUSEUMでの展覧会は、3部構成になっていた。まず、「Pooh A to Z」と題された、AからZまで順にプーのぬいぐるみや、クリストファー・ロビンの防水マントや長ぐつといったちょっとした展示とともにプーとなかまたちに関する紹介がなされたものがあり、次に、ぐるりと一周するスクリーンに物語の舞台であるアッシュダウンの森の景色が映されたインスタレーションを見ることができる。そしてそれからやっと、まるで昨日描かれたかのように鮮やかなシェパードの原画と向き合うのだ。

 本書は、本の性質上シェパードの絵が中心となるわけだが、展覧会での「A to Z」の展示は、展覧会を監修した安達まみによる「プー辞典」として引き継がれている。「もっとプーが好きになる50のお話」と題されたそれは、展覧会と同じくAから、ただし展覧会よりも分量を増やして、AはAlice、ミルンの詩「バッキンガムきゅうでん」に登場する乳母の名前、Zはzoo、ウィニー=ザ=プーの由来になった本物のクマの話、といったように丁寧に綴られている。終盤にあるたった15ページほどのもので、一見おまけのように見えなくもないのだが、これらのことを知ってからお話と絵に向き合うと、また違った景色が見えてくる。本当に辞典として、気になる項目を探して読んでもおもしろい。

 昨年展覧会には足を運べなかったという人も、この夏は本書を通して、プーとなかまたちに会いに、百町森に足を踏み入れてみてはいかがだろうか。



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【書評番号4】しおたにまみこ『いちじくのはなし』ブロンズ新社、2023年


 皆さまは、「おはなし会」はお好きかにゃ? 私はおはなし会を開くのも、聴きに行くのも、どっちも同じくらい大好きですにゃ。

 しおたにまみこさんの『いちじくのはなし』では、くだものかごのいちじくさんがおはなし会を開催するのにゃよ。いちじくさんのお話を、台所のみんなが聴きにいくのにゃ。三夜連続のスペクタクル、楽しみにゃね~。前作『たまごのはなし』の主役、たまごさんも、お友達のマシュマロさんと一緒にこのおはなし会に行くのにゃって。

 夕方、果物かごの前に蝋燭を灯したら、大冒険の、はじまりはじまり〜! キッチンのみんなの前で、いちじくさんが話す冒険譚、もちろん主人公はいちじくさんなのにゃ。いちじくさんは自分の大活躍を自信たっぷりに話すのにゃけど、さてさて、これってほんとのお話かにゃ?

 たまごさんやいちじくさんたちが暮らしている台所は、タイルに汚れがはねていたり、小さくひびが入っていたり、台にはちょっぴりごみが散らばっていたりして、生活感があるのにゃ。ぴっかぴかに綺麗で新しそうにゃった前作から、だいぶ時間が経ったように見えるのにゃ。たまごさんもマシュマロさんも、台所のみんなとすっかり打ち解けてお友達になっているみたいなのにゃよ。本に書かれた物語は終わっても、物語の中の時間は流れ続けているのかにゃ~?

 でも、変わっていないこともあって、第一作でたまごさんにかじられたマシュマロさんの頭、歯の跡がそのまま残っているのにゃよ。細部まで丁寧に描きこんであるから、一通り物語を辿り終えたら、ぜひ再読してにゃ。じっくりと絵だけ観察してみたり、前作と読み比べて違いを探したり、遊んで欲しいのにゃよ(私、家の間取りを想像してお絵描きをしたのにゃ!)。

 絵が繊細で細かいぶん、集団での読み聞かせに向いているとは言えないのにゃけど、二人か三人くらいでの読み聞かせにはおすすめにゃ。誰かに読んでもらうと、絵をじっくり見る余裕ができて楽しさ百倍にゃし、いちじくさんや台所の仲間たちになり切って読んであげるのも良い感じにゃ。

 ちなみにこの本、淡いいちじく色のジャケットを外すと、表紙見返しに船の舳先に立って望遠鏡を覗くいちじくがいるのにゃ。ということは、裏表紙の方は…にゃふ〜ん、教えてあげないのにゃ!



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【書評番号5】小林エリカ『光の子ども』第1部、全3巻、リトルモア、2013年/2016年/2019年


 1896年、日本では北海道から宮城にかけて大地震と津波が襲い(明治三陸地震津波)、ヨーロッパではヴィルヘルム・コンラート・レントゲンが発見したX線の存在に人々が夢中になった。それから115年後の日本に、このマンガの主人公、光が生まれる。東日本大震災と津波による福島第一原子力発電所の事故が起きた年に生まれた光に、母親は「ほんとうに、あなたは光みたいだったの」(第1巻、11ページ)と言う。光には「光」が見えた。

 「光」を帯びた雨が街に降り注ぐある日、光は猫のエルヴィンを追って1900年のパリに行き、マリ・キュリーとピエール・キュリーの娘、イレーヌと出会う。このときから、現在と過去、日本とヨーロッパを行き来して「光」を追う旅が始まる。

 12年前の震災を覚えている私たちは、光が見る「光」とはおそらく放射能のことだとすぐ気づくことができるのだが、物語のいわゆる設定に関する言及が極端に少ないため確かなことは言えない。この作品の作者が読者に示すものはおもに事柄の断片、歴史的事実に関する説明や図版、図表といったものであって、それらの資料の合間を縫うように、光と「光」の物語が進み、100年前を生きた実在の人々の物語が同時並行で進んでいく。それら、いくつもの物語を一冊の本の中に「まとめ上げよう」とする意思は、この作品からは感じ取れない…というより、「まとめてたまるか」という反骨精神すら、あるような気がする。複雑なことを一つの大きな物語に統合するような野蛮な真似はせず、十分に複雑であるように物語る。

 同じ時代に、異なる地域でどんなことが起きていたのか。その時代・その地域を生きた人々はどんな一生を送ったのか。世界を覆う大きな出来事である戦争や科学の進歩に、彼ら・彼女ら、一人一人、どんな意味を見出していたのか。1900年代初頭の人々は、存在を確認されたばかりの放射性物質が人類にもたらすかも知れない「進歩」に胸を躍らせ、放射能の危険性を理解している光はキュリーらの研究をなんとかして止めたいと願う。二つの願いは物語の中でぶつかり合う。

 物語の中で放射能を暗示する「光」にも、二面性がある。作者の小林は「光」に「過去の時間を伝えてくれる」(第1巻、12ページ)という能力を与えている。物語の登場人物を死に至らしめるかも知れない危険な「光」に、この物語のプロットを可能にする重要な役割を持たせているのだ。高村光太郎や吉本隆明、あるいは手塚治虫ならまだしも、21世紀の作家がこのような「光」のメタファーを用いて物語を書くとは。レントゲン博士やキュリー夫妻による研究は後続の研究者たちに引き継がれ、医療やエネルギー、そして軍事に「応用」された。その推移は私たちも知っている通りであるが、小林は既に知っていることを新鮮な物語にして語り起こしてくれる。第2部はどうなるのか、続きが気になる。



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【書評番号6】 フリードマン、ラッセル『ちいさな労働者 写真家ルイス・ハインの目がとらえた子どもたち』千葉茂樹訳、あすなろ書房、1996年


 豊富な写真図版が特徴である本書は、写真家ルイス・ハイン(Lewis Wickes Hine. 1874-1940)の生涯を、彼の代表的な仕事のうちのひとつ―働く子どもたちの姿を写し、児童労働の実態を告発した写真群―を中心に紹介する、ノンフィクション作品である。図版の1枚1枚が、見る者を見つめ返す力に満ちている。

 カメラマンとしてのハインの仕事は、いくつかの職業を経て師範学校と大学で学んだあと、ニューヨーク市立エチカル・カルチャー・スクールの教師として、地理と科学を教えていた頃に始まる。きっかけは、学長フランク・マニーに、学校の記録写真を撮影するよう説得されたことだった。学校行事を写したハインの写真が評判を呼ぶようになると、マニーは写真を教材として利用することに決め、移民局があるエリス島で移民の家族を撮影するようハインに指示する。ハインはそこでの200枚を超える写真撮影を通じ、撮影者としての心構えや撮影技術を身につけると、児童福祉連盟、全米消費者連盟、全米児童労働員会などの仕事を引き受け始める。そして教師を辞め、全米児童労働委員会の専属カメラマンとなる。

 ハインの撮影は、それまで隠されてきた児童労働の現実を白日のもとに晒し、当時のアメリカ全体に児童労働禁止の機運をもたらした。本書に収録された写真はどれも力強く、「ハイン式」とでも呼びたくなるような一定の調子を帯びている。本書によるとハインは被写体となる子どもたちの名前、年齢、労働時間、賃金、就学状況などを克明に記録したという。撮影者の意図を明確に押し出したイメージと正確無比なデータの組み合わせが当時のアメリカ人にもたらした衝撃は大きかったに違いない。また、ハインは児童労働についてのパンフレットやブックレットをデザインしたり、写真展を企画したりするにあたり、写真につける説明文も自分で書いていた。このときに用いた、写真と文章を組み合わせる表現方法を、彼は「フォトストーリー」と名付けたという。

 写真を文章と組み合わせて伝達する表現方法は汎用性が高く、分かりやすい説明を必要とするさまざまな場面で用いられている。もちろん児童書も例外ではなく、そうした表現を効果的に用いた読み物や写真絵本などを数多く見ることができる。

 膨大な取材データや、表現者の内部に構築された確かな手触りのある世界観を前提とする、写真と言葉による表現の最前線にいた人物としても、ハインは興味深い。本書は子どもの人権や労働問題などについて知りたい中学生・高校生に適しているだけでなく、児童書における写真の表現について学びたい大人の初学者にも示唆を与えてくれる。子どもの本について共に学ぶ仲間たちと、ぜひとも共有していたい1冊である。



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2023年5月19日金曜日

ミニ展示 5月19日~6月2日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。展示期間中も貸し出しをすることができます。どうぞお気軽にご利用ください。


展示中の図書

Kutze, Stepp'n on Wheat

Translated by David Karashima

Thames River Press 2014

Kuhtse, der Weizenstampfer: Roman

übersetzt von Thomas Jordi

Bebra Verlag 2013


いしいしんじ『麦ふみクーツェ』の英語版とドイツ語版です

2023年5月12日金曜日

ミニ展示 5月12日~19日

センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。事典ですので貸し出しはしておりませんが、センターにお立ち寄りの際には、ぜひお手に取ってご覧ください。


展示中の図書

新版 オックスフォード

世界児童文学百科

The Oxford Companion to Childrens Literature

ダニエル・ハーン 編著

白井澄子 西村醇子 水間千恵 監訳

原書房 2023

 

本学の先生方や先輩方が多数参加されています!

ムナーリとレオーニ(31)

1948

 

 今回も、ムナーリとレオーニ、それぞれの年譜を読んでいこう。

 1948年、ムナーリは、春にニューヨークで個展を開催。船で輸送した「《役に立たない機械》などが破損し、ロメオ・トニネッリの事務所での小規模な展示」(p.345)になったとある。しかし、作品の破損という災難はあったけれど、3つの個展を開催し、5つのグループ展に参加。おもにミラノでコンスタントに作品発表を続けている。

 ムナーリの年譜をレオーニのそれと比べたとき特に印象的なのは、やはり芸術運動への参加だ。前回、1947年の年譜を読んだときにはあまり注目していなかったのだけれど、この年にミラノで開催された具体芸術の展覧会「抽象芸術・具体芸術」に、ムナーリも参加していた。この展覧会には、マックス・ビル(1908-1994。スイス生まれの画家・彫刻家・デザイナー)や、ジャン・アルプ(1887-1966。シュトラスブルク出身。画家・彫刻家・詩人)も出品していたそうだ。194812月には、ムナーリはアタナージオ・ソルダーティ(1896-1953)やジッロ・ドルフレス(1910-2018)らとともに、「MACMovimento Arte Concreta/具体芸術運動)」設立に加わっている。未来派の一員だったころ、宣言に署名したといったたぐいの記載をたまに目にしたけれど(例えば、1941年の「未来派原始宣言」第2版)、戦後も、ムナーリはグループでの芸術運動に参加していた。一方のレオーニの年譜には、1932年に未来派の作品展に参加したことが記されていたけれど、ムナーリのように芸術運動に参加したことを示す記述は、ほかに見当たらない。

 ところで、レオーニの1948年は節目の年になった。N.W.エイヤー(フィラデルフィアの大手広告代理店)を退社。勤め人としての生活に終止符を打った。

 

【書誌情報】

奥田亜希子編「ブルーノ・ムナーリ年譜」『ブルーノ・ムナーリ』求龍堂、2018年、pp.342-357

「レオ・レオーニ 年譜」『だれも知らないレオ・レオーニ』玄光社、2020年、pp.216-219 ※執筆担当者の表示なし


遠藤知恵子(センター助手)

2023年5月11日木曜日

小林将輝先生講演会 参加申し込み受付中 ※終了いたしました

 7月8日開催予定の小林将輝先生講演会のポスターを公開いたします。

 おかげさまで、無事終了いたしました。ご参加くださった皆様、誠にありがとうございました。

 こちらの講演会は、児童文学にご興味のある方なら、お申し込みの上、どなたでもご参加いただけます。



児童文学研究を志す人だけでなく、こんな人たちにもおすすめです

😄児童書の翻訳に興味がある人
😄「美しい日本語ってなんだろう?」と思ったことのある人
😄白百合女子大学大学院(児童文学専攻)への進学を考えている人
😄進学はともかく、児童文学の世界にいちど触れてみたいと思っている人

皆様のご参加を、お待ちしております。

2023年4月28日金曜日

ミニ展示 4月28日~5月12日

センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。展示期間中も貸し出しをすることができます。どうぞお気軽にご利用ください。

展示中の図書

ランプシェード

「こどもとしょかん」連載エッセイ 19792021

松岡享子 東京子ども図書館 2023

 

 「おまけの索引」が可愛いです。栞を挟んでありますので、センターにお立ち寄りの際にはぜひお手に取ってご覧ください。

【作品募集】第6回書評コンクールのお知らせ

 6回書評コンクール(書評コンクール2023)を開催いたします。


 書評コンクールは、ブログ上で開催するコンクールです。児童書、絵本、ヤングアダルト文学、ライトノベル、または関連する研究書などの書評を書いて、児童文化研究センターまでお送りください。お送りいただいた書評はブログにて公開し、優秀賞を投票で決定いたします。構成員であれば、どなたでもご応募いただけます。
 
【応募要項】
応募資格:応募時点で白百合女子大学児童文化研究センターの構成員であること
書評の分量:8001200
応募方法:Wordファイルで作成した書評を、センター宛てのメールに添付して送信
 
送り先: jido-bun@shirayuri.ac.jp
 
メール本文には次のことを記載してください。 
1. 応募者氏名(ペンネームでも可。本名に併記してください)
2. 応募区分(学生/一般/教職員/その他から一つ選んで記入してください)
3. 取り上げる本の書誌情報(タイトル・著者名・訳者名・出版社・出版年など)
4. 冊子収録の可否(在学院生および翌年の新入院生に配布)
 
応募締め切り 525日(木)正午
※センター構成員と本学学生の投票により、優秀賞を決定します。投票方法については、追ってお知らせします。
 
応募された書評の公開・使用範囲  
     ブログに公開・保存。
     (あらかじめ了承を得た分のみ)冊子にして、児童文学専攻の教職員・応募者・在学院生・翌年の新入院生に配布。
     冊子はセンターに保存し、閲覧もセンターのみ。
※書評の著作権は執筆者に帰属します。

2023年4月26日水曜日

小林将輝先生講演会のご案内 ※終了いたしました

第68回研究会 小林将輝氏講演会「矢崎源九郎と児童文学-言語学者としての翻訳者-」

おかげさまで、無事終了いたしました。ご参加くださった皆様、誠にありがとうございました。

 児童文化研究センター主催の講演会についてご案内いたします。
 元本学非常勤講師でもある、駿河台大学准教授の小林将輝先生をお招きし、言語学者で翻訳家としても活躍した矢崎源九郎についてご講演いただきます。
 矢崎は、ポール・アザールの『本・子ども・大人』の翻訳で知られていますが、アンデルセン童話やグリム童話、『ニールスのふしぎな旅』『クオレ』など、短い生涯の中で、言語の異なる児童文学を多数翻訳しました。
 グリム兄弟などを研究されているドイツ文学者の小林先生に矢崎の翻訳についてお話しいただきます。

<講演会詳細>
日時:2023年7月8日(土)、13:00~15:00(終了時間は予定)
場所:白百合女子大学  R.9012(本館地下1階)
参加ご希望の方は、2023年7月7日(金)12:00までに、申込フォームからお申込みください。
申し込みフォーム〔 https://forms.gle/wPLfvx7eKSMMknPP6 〕

ぜひご参加ください!

2023年4月21日金曜日

猫村たたみの三文庫(非)公式ガイド

(17)三文庫クイズ(冨田文庫・冨田先生ってどんな人?編)にゃ!

 

センター構成員の皆さま、ご機嫌いかがかにゃ? 三文庫の守り猫、猫村たたみですにゃ。

新年度が始まってまだひと月も経たないうちに、キャンパスは初夏の陽気ですにゃ。お散歩が楽しい季節にゃね~。スギ花粉も落ち着いたことにゃし、明るいお日さまのもとで新鮮な空気を吸って歩き回りたいのにゃ~。

お散歩で体を動かしたら、今度は頭の運動ですにゃ。今日は三文庫クイズ(冨田文庫の冨田先生ってどんな人?編)をいたしますにゃ。

クイズは全部で3問! 全問正解できるかにゃ~?

 

それでは、第1問。(にゃにゃ~ん!)

まずは復習にゃ。請求記号がTから始まる冨田文庫。そのもとの持ち主、冨田博之先生は、「○○」と「○○」を理論化し、児童演劇運動の推進に貢献した方なのにゃ。ふたつの「○○」に当てはまるものを答えてにゃ~。

 

2問。(にゃにゃ~ん!)

冨田先生は、白百合女子大学の先生をしていた方なのにゃけど、研究や執筆活動に専念するようになる以前は、いろいろなお仕事をしながら活動していたのにゃよ。さて、冨田先生がしていたお仕事は、次のうちどれかにゃ?

 

(1)お蕎麦屋さん

(2)小学校の先生

(3)歌手

(4)月光仮面

 

3問。(にゃにゃ~ん!)

冨田先生は、ある研究領域の確立を目指し、その関係資料の復刻にも取り組まれていたのにゃよ。その研究領域とは何かにゃ?

 

【クイズの答え】

1問。

正解は、「児童演劇」と「演劇教育」にゃ。

冨田文庫の約16,000冊の蔵書は、児童演劇や演劇教育を中心に構成されておりますにゃ。

 

2問。

正解は、「(2)小学校の先生」ですにゃ。

ほかには新聞記者や出版社勤務などをしていたのにゃって。

 

3問。

正解は、「児童文化」にゃよ。

ちょっと、簡単すぎたかにゃ?

 

 クイズはお楽しみいただけましたかにゃ?

冨田文庫には、児童書や研究所のほか、手作り感のある演劇台本や、パンフレットやちらしといったエフェメラルな資料(散逸しやすいので、残っている資料はとっても貴重なのにゃ)にも注目にゃ! ここでしか見られない資料がたくさんあるから、ぜひ、ご活用いただきたいですにゃ。

 

それでは皆さま、ごきげんようにゃ~。

 

【参考】

上地ちづ子編「冨田博之年譜」(副島功・上笙一郎編『冨田博之追悼文集』有楽書房、1995年、157-161ページ)

佐々波明子「冨田 博之」(大阪国際児童文学館編『日本児童文学大事典 第一巻』大日本図書、1993年、513ページ)

 

猫村たたみ(三文庫の守り猫)

〈猫村たたみプロフィール〉

三文庫の守り猫(猫又)。三文庫の利用方法を優しくガイドする。

趣味は時間旅行。妖怪トンネルを使い、時空を超えて旅をするのが何よりの楽しみである。

祖先は歌川国芳の「荷宝蔵壁のむだ書」でセンターを務める猫又さま。


2023年4月14日金曜日

ミニ展示 4月14~28日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。展示期間中も貸し出しをすることができます。どうぞお気軽にご利用ください。


展示中の図書

世界一のパンダファミリー

和歌山「アドベンチャーワールド」のパンダの大家族

神戸万知 文・写真 講談社青い鳥文庫 2017


「何故パンダ?」とお思いになった皆様、
神戸先生は優浜(ゆうひん)の名付け親です。