2019年6月27日木曜日

センターブログ 投稿募集



センターブログ、実は投稿できます。

児童文学・文化関連の新刊書、映画、展覧会、講演会の紹介や感想、
プロジェクトの活動紹介、日々の研究活動の様子、近況報告・・・等々、
内容は自由です。

人に読んでもらう文章の練習だけでなく、情報交換にも利用できますし、
同じ児童文学・文化を研究する仲間たちとつながる場として活用することもできます。

難しく考える必要はありません。

調べ物に行った先で見た夕焼けがきれいだったら、
それを投稿したっていいんです(※)。

「発信」は、研究者にとって大事なスキル。
まずは、何かひとつ、発信してみんなと共有してみませんか?

※画像はJPG, GIF, PNG形式のファイルをご使用ください。

2019年6月21日金曜日

熊沢健児、美術館の旅 『松本俊介展 ―4つのテーマ―』Vol.3 子どもの時間

群馬県桐生市にある大川美術館は、住宅地の中にある。幼稚園脇の近道を通り、長く続く坂道を上っていくと、さらに険しい坂があって、そこをさらに行くと美術館の入り口にたどり着く。

 大川美術館では松本竣介没後70年と大川美術館開館30周年を記念して、昨年10月から今年の12月まで4つのテーマに分けて松本竣介展を開催している。

 私が訪れたのは、「vol.3 子どもの時間」。竣介が描く子どもの絵や、当時45歳ほどだった息子の莞が描く絵、竣介が莞の絵に刺激されて描いた絵や、莞をモデルに描いた絵などを展示していた。また、戦時中、妊娠していた妻(莞から見たら母)禎子とともに疎開中の莞に、竣介が書き送った手紙や葉書も見ることができた。今回展示された全21通の手紙には、これまで未公開だったものも含まれている。
 手紙や葉書はカタカナで書かれており、「カンボーヘ オトーサマカラ」と、絵を交えて語りかける言葉遣いが目に温かい。

莞の描く絵に触発されて、その描線を、絵の具を塗り重ねたカンヴァスの上に再現して描いた《牛》(1943-46年頃、油彩・カンヴァス)や《電気機関車》(1943-46年頃、油彩・カンヴァス)や《せみ》(1948年、油彩・板)も、もちろん、心ゆくまで見ることができた。
 
ミュージアムカフェでは、松本竣介の《青の風景》(1940年、油彩・板)をイメージしたシャーベットを味わうことができる。重厚でありながら透明感のある、竣介のやや緑がかった青を再現するのは、グリーンスムージー、豆乳、メープルシロップ、バナナを使い、ヘルシーかつさわやかに仕上げた氷菓である。しかも期間限定。
食べたい…しかし、帰りの電車の時間を考えると断念せざるを得なかった。

重たい曇り空のもと、駅までの道を早足で歩いた。北関東は暑かった。

熊沢健児(ぬいぐるみ・名誉研究員)

展覧会情報 「松本竣介展―4つのテーマ―」 於 大川美術館
 Vol.1 アトリエの時間 20181013日~122
 Vol.2 読書の時間   2019122日~324
 Vol.3 子どもの時間  2019416日~616
 Vol.4 街歩きの時間  2019108日~128

※「子どもの時間」の展示は終了してしまったが、図録でその内容を知ることができる。

※大川美術館ホームページの「松本竣介資料室」では、大川美術館所蔵作品・松本竣介年譜・没後主要展覧会・大川美術館所蔵関連資料・松本竣介作品所蔵館一覧を見ることができる。さらに、東京文化財研究所の総合検索や美術図書館横断検索などのデータベースにもリンクを張っている。なんと親切な。松本竣介愛に満ち溢れた美術館である。

2019年6月14日金曜日

創作(お話)


木蓮と月

 ある晴れた朝、白い小鳥が鴉に追いかけられて、木蓮の枝に逃げ込みました。
 木蓮は花盛りでした。小鳥はいまにも飛び立ちそうな枝先の白い花のあいだをすり抜け、幹の近くにふくらむ蕾の隣にうずくまりました。
 鴉は木蓮の枝から枝を歩いて巡り、くちばしで花と花のあいだをさぐっていましたが、やがて、少し離れたところで蕾をつけている、桜の木の枝へと飛んでいきました。

 小鳥は蕾のかげからちょっと頭を出して、明るい朝の空を見ました。空には糸のように白くて細い月がありました。そして、その月のしたには小さな家がありました。小鳥はその家で生まれ育ち、暮らしていました。ところが二日ほど前、家の人がドアを閉める大きな音に驚き、つい、窓を飛び出してしまってからというもの、しつこい鴉に狙われ、帰れなくなっていたのです。
思い切ってあの窓へ飛んでいこうかしら――小鳥は考えました。しかし、いまこの木蓮の枝を離れたら、きっと鴉に見つかり、追いかけられることでしょう。次こそは捕まって、食い殺されてしまうに違いありません。
もう、追いかけられるのは嫌だ。このままずっと、ここに隠れていよう――小鳥は決めました。

木蓮は大きくて立派な樹でした。なんて頼もしい幹だろうかと、小鳥はつくづくと木蓮を見ました。木蓮の幹にはおじいさんの顔のようにしわが寄っていて、小鳥にはそのしわが、だんだんと本当の年取った人の顔のように見えてきました。
ああ、あの家の人たちはどうしているだろう――小鳥の胸はひんやりとした寂しさでいっぱいになりました。
すると、どうしたことでしょう。
木蓮の幹に浮かび上がるおじいさんの顔が、ぱっちりと目をひらき、そのぎょろりとした大きな目で小鳥のことを見たのです。小鳥はびっくりして飛び上がり、木蓮の枝といわず花といわずぶつかりながら、ぴちぱち、ぴちぱち…と、あの小さい家の窓をめがけて一直線に飛んでいきました。

さあ、大変です。小鳥が木蓮の枝を飛び立つところを、桜の木から鴉が見ていたからです。鴉はいまこそ小鳥をつかまえようと、枝から躍り出てきました。小鳥は鴉に気がつきません。ぴちぱち、ぴちぱちと翼をばたつかせ、わきめもふらずに小さい家の窓へと飛んでいきます。
しかし、鴉の速いことといったら、あっという間に小鳥に追いついてしまいそうです。
ああ! 小鳥は鴉に食べられてしまうのでしょうか。

いいえ、小鳥は無事でした。鴉の鉤爪が樹の枝を離れたのとちょうど同じとき、木蓮の枝から、花たちがいっせいに飛び立ったのです。みな、白い花びらをはためかせ、すみやかに小鳥に追いつくと、ひとつの大きな群れとなり、小さい家の窓へと飛んでいきました。
木蓮の花の群れのどこに小鳥がいるのか、もう分かりません。みな一様に朝の光を受けてかがやきながら、飛んでいきます。
鴉は小鳥を追うことをやめ、もといた樹に戻っていきました。

小鳥と花の群れは、小さな家の窓の前までくると、木蓮の花のうちでも一番大きくて立派なものが、窓ガラスをとんとん、とんとん、と叩きました。
小さい家の人たちは宙を飛ぶ木蓮の花たちを見てびっくりしましたが、そのなかに白い小鳥がいるのに気がつくと、窓をあけてやりました。

こうして、小鳥は家に帰ることができたのでした。そして、もう二度と、窓から飛び出すようなことはしませんでした。

小鳥を家まで送りとどけた花たちも、もちろん、帰っていきましたよ。でも、花たちが帰ったところは、木蓮の枝ではないのです。
木蓮の花たちが帰ったのは、月です。糸のように白くて細い、朝の月に、花たちはひとつ残らず帰っていったのです。
じつは、小鳥が家を恋しく思い、寂しがっていたのと同じように、木蓮の花たちもそろそろ月に帰りたいなあと、恋しく思っていたところだったのです。

木蓮の白い花たちは夢のようにかがやきながら、明るい朝の空を昇っていきました。


(児童文化研究センター助手 遠藤知恵子)

2019年6月7日金曜日

熊沢健児の気になる企画展 ☆図面にときめく「子どものための建築と空間展」☆

 大都会のビル1フロアを占めるコンパクトなパナソニック汐留ミュージアムと、三内丸山遺跡に程近い広々とした青森県立美術館。「子どものための建築と空間展」は、対照的な二つの会場で順に開催される展覧会である。
 春に行われた東京会場での展示には不覚にも行きそびれてしまった。以下、図録を見ながらこの展覧会の予習をしよう。

 学校は学びの場であると同時に、子どもたちの生活を容れる空間でもある。この展覧会では日本各地の際立った特徴のある学校建築を紹介する。また、その学校空間で子どもたちが触れ、親しんだ教具や玩具、出版物も展示し、子どもたちをめぐる空間の歴史を振り返る。
日頃から「コンテンツ(中身)」としての児童文学・児童文化を研究している私たちにとって、「容れ物」である建築はそれほど強く意識される領域とは言えないのだけれども、解説を読んで歴史を理解しながら図面を見ていると、不思議と胸がときめいてくるものである。このときめきが、未来の子どもたちのための「空間」を創造するエネルギーになるのかもしれない。

 青森会場の展示は夏休み期間中に行われる。東京から青森は遠いが、行けばあおもり犬君に会える。

熊沢健児(ぬいぐるみ・名誉研究員)

展覧会情報
「子どものための建築と空間展」
東京会場 パナソニック 汐留ミュージアム 2019/1/12-3/24
青森会場 青森県立美術館 2019/7/27-9/8

図録の書誌情報
『子どものための建築と空間展』
長澤悟/監修、パナソニック 汐留ミュージアム+青森県立美術館/編
鹿島出版、2019 ※白百合女子大学大学図書館蔵書(523/Ko21

 読みやすく、楽しい図録である。折り丁を糸でかがって綴じてあり、180度きれいにページが開いて戻りにくい。さらに、カバーを外し、折りたたまれた表紙を広げると雑誌『コドモノクニ』の表紙と、表紙と同じ図柄の塗り絵が出現する仕掛けもある。