2020年3月26日木曜日

猫村たたみ×熊沢健児 トークセッション


書評コンクール2020春 猫村たたみ×熊沢健児 トークセッション


猫村 センター構成員の皆さま、ご機嫌いかがですかにゃ。センター三文庫の守り猫、猫村たたみですにゃ。
熊沢 どうも、名誉研究員の熊沢健児です。
猫村 書評コンクール2020春にご参加くださった皆さま、参加はしなくても、いつも温かく見守ってくださっている皆さまに、心よりのお礼を申し上げますにゃ。ありがとうございましたにゃ!
熊沢 ありがとうございました。作品数は前回に比べて少し減ったけれど、「たまご」というテーマに合わせた本選びと、テーマに沿って書かれた書評、面白かったね。
猫村 「たまご」の書評、難しかったのにゃ~。
熊沢 そうだね。でも、君の書評、今回は奇跡の1票が入っていたね。
猫村 そうなのにゃよ。前回はゼロ票だっただけに、嬉しくて、私…泣いちゃう…んなぁ~ごぉ~!!
熊沢 (おお、猫またの雄たけびだ…)はいはい、じゃ、トークセッション、始めようか。
猫村 ぐすっ、ぐすっ…うん(涙声)、始めるのにゃ…。

熊沢 さて、昨年夏の第1回書評コンクールでは特にテーマは定めなかったけれど、今回は時期的にイースター(復活祭)が近いことにちなんで、「たまご」をテーマにしたのだったね。「たまご」が出てくる本だけでなく、「たまご」を連想させる本だったらなんでもOK、というテーマ設定でやってみた。
猫村 そうにゃね。今回、優秀作品に選ばれたしあわせもりあわせさんの『ぎょらん』(書評番号5)は、ちょっとひねりの効いた選書が面白かったのにゃ。
熊沢 私も同感だ。「ぎょらん」という、イクラに似た不思議な赤い珠に関わった人々を描く、6編を集めた短編連作だったね。
猫村 「魚卵」ではなく、「ぎょらん」にゃね。人が亡くなる直前に強く願ったことが赤い珠になってこの世に残るのにゃ。生きている人へのお土産みたいな珠にゃね。葬儀屋さんたちの間では「みやげだま」と呼ばれているのにゃ。口に入れてつぶすと、死者の願いを知ることができるそうにゃ。
熊沢 大事な人が亡くなる直前に何を願ったか、もちろん知りたいことだけれど、知るのはちょっと怖いことでもある。この本には、ぎょらんを口にしたことでずっと苦しむ人も登場するんだね。
猫村 自殺した親友のぎょらんを口にした青年にゃね。6編の物語はいずれも女性の一人称で語られるということなのにゃけど、それらの短編を読んでいるうちに、脇役のはずの青年の物語が浮かび上がってくるのにゃって。凝った作りも、そそられるのにゃ~。
熊沢 そうだね。内容とともに作品の構成もきちんと伝えてくれる、素敵な書評だね。
猫村 納得の一等賞にゃ!
熊沢 うん。
猫村 そして、イクラを食べたくなるのにゃ!
熊沢 うん?(そういう話だったっけ?)
猫村 にゃ!
熊沢 (うーん、何か違う気がするけれど、ここは気を取り直して…)ぎょらんのちょっと複雑な味わいに対して、ただただ幸せで、美味しそうなオムレツが登場するのは、深民麻衣佳さんの『童話物語』だね。
猫村 思いやりのかたまりみたいなオムレツにゃ!
熊沢 そうだね。物語の舞台はクローシャという架空の世界。過酷な環境で、虐げられながら生きてきた主人公のペチカが他人の親切に触れる、印象的なシーンに、オムレツが登場する。おなかと心が満たされてようやく、彼女は相棒である妖精フィツと心を通わせ始める。
猫村 オムレツが幸せな記憶や、見返りを求めない他人の優しさの象徴となって、物語を動かしているのにゃ~。
熊沢 この作品は上下巻によって構成される、読み応えのあるハイ・ファンタジーで、続きは実際に本を読んでお楽しみあれ、なのだけれど、象徴としてのオムレツの魅力もさることながら、書評の構成もいいね。冒頭と結びのところに、深民さんご自身の思い出が書かれている。きっちりオチがついている。
猫村 「なんかちがう」っていうところで、私、笑ってしまったのにゃ。
熊沢 うん。私も面白いと思ったよ。これ、フィクションの面白さと通じるところがあるね。
猫村 にゃ?
熊沢 深民さんの場合は食物アレルギーだけど、何かの理由で食べることを禁じられている食べ物って、実際の味は想像するよりほかない。架空の存在と同じようなものだろう?
猫村 あ、そうにゃね。
熊沢 想像力によって、本物よりもずうっと美味しそうに感じてしまう。
猫村 にゃ~む…これこそフィクションの魔法、物語の旨味にゃね。
熊沢 うん。白百合の森のキィローさんが紹介する『夢見る人』(書評番号4)も、フィクションだけど、ちょっと毛色が違うかな。
猫村 実在した詩人、パブロ・ネルーダの子ども時代をもとに書かれた物語なのにゃ。作りも凝っているのにゃね。
熊沢 ネルーダが緑色のインクを愛用していたということで、深緑のインクで印刷されている本だって。
猫村 出版社のホームページで表紙を見てみたのにゃ。森や宇宙を連想させる、きれいな表紙絵だったのにゃ~。
熊沢 そうだね。それと、この書評は「です、ます」調で書かれているよ。
猫村 確かにそうにゃね。文体もお話を語り聞かせるようなスタイルなのにゃ。
熊沢 文体の工夫も、大事なポイントだよね。
猫村 文体と言えば、遠藤さんの紹介する『お噺の卵』(書評番号4)はこれと対照的なのにゃ。
熊沢 そうだね。その場のノリなんて言うとちょっと語弊があるけれど、思いついたことを思いついた順番にぽんぽん書き連ねている感じだね。
猫村 お噺の卵って、どんな卵なのかにゃ~。
熊沢 うん、気になるね。ただ、大阪の国際児童文学館も神奈川近代文学館も臨時休館中なんだよね。再開したら調べ物のついでにぜひ見てみたい。
猫村 児童文化研究センター内の冨田文庫に講談社文庫版(IDT03097)があるのにゃ! センター構成員の皆さまは、まず三文庫へカモン!! 
熊沢 1923年目白書房版と完全に同じではないけれど、ぜひ、いらしてください。
猫村 新型コロナウイルスの騒ぎが収まったら、三文庫をよろしくにゃ。
熊沢 君、ちゃっかり宣伝しているね。
猫村 三文庫は私の愛にゃ!
熊沢 君は三文庫の守り猫だからね。
猫村 にゃ!
熊沢 さて、私は1票も入らなかったが、自分の一番好きな本をここで紹介できて満足している。
猫村 書評番号2のゴンブリッチにゃね。
熊沢 うん。家で過ごす時間が増えるだろ? これくらい分厚いのがちょうどいいと思う。
猫村 もっと勉強したい人向けの文献も紹介してくれて、本当に親切な本にゃよね。
熊沢 そう、初学者にとことん優しい。だからこの本は私の夢の卵なんだ…。
猫村 熊沢君が珍しく自分の世界に浸っているのにゃ。ちょっと怖いのにゃ。
熊沢 いいじゃないか、たまには。君が書評を書いていた『美学入門』も、初学者の味方だよね。紹介してくれてありがとう。面白かったよ。
猫村 にゃにゃ~ん。やっぱり熊沢君向きだったのにゃ。
熊沢 自分が読むだけではなくて、本と人とのマッチングを考えるのも楽しいよね。
猫村 そうにゃね。一人で読むのももちろん楽しいのにゃけど、誰とシェアしたいかを考える時間も、すごく幸せなのにゃ!

熊沢 いや~、今回も楽しかったね。優秀作品に選ばれたしあわせもりあわせさん、おめでとうございました。
猫村 おめでとうございますにゃ。そして、私、イクラは大好きなのにゃ!
熊沢 いや、ぎょらんはイクラじゃなくて…ま、いいか。そろそろおなかもすいてきたことだし、晩御飯は海鮮丼にしようか。
猫村 にゃった~! 一緒に作ろうにゃ~。
熊沢 うん。君、お料理の前にはちゃんと手を洗うんだよ。
猫村 もちろんにゃ。どんぶりに彩を添える卵焼きは、私が焼くのにゃ。
熊沢 よろしく。
猫村 それでは皆さま、ごきげんようにゃ~。※猫村、食材を求めいなげやのある方角へと走っていく。
熊沢 (あー、行っちゃったよ…)皆さま、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。書評コンクールは来年度も行います。ぜひ、ご参加ください。

書評コンクール 投票結果発表

書評コンクールの投票結果を発表いたします。
・書評番号1 猫村たたみ(三文庫の守り猫)    得票数1
・書評番号2 熊沢健児(ぬいぐるみ・名誉研究員) 得票数0
・書評番号3 遠藤知恵子(その他)        得票数1
・書評番号4 白百合の森のキィロー(その他)   得票数1
・書評番号5 しあわせもりあわせ(一般)     得票数2
・書評番号6 深民麻衣佳(学生)         得票数1

 優勝は、書評番号5、『ぎょらん』の書評を書かれた、しあわせもりあわせさんに決定いたしました。おめでとうございます。

 ご参加くださった皆様に、心よりお礼を申し上げます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

2020年3月10日火曜日

熊沢健児の気になる美術館

十和田市現代美術館 ~開館前の記~


 七戸十和田駅からバスで35分ほど。十和田市現代美術館は十和田市官庁通りに面した美術館である。張り切り過ぎて、つい、開館前に到着してしまった。

ガラス張りの開放的な…というか、かなり太っ腹な建物だ。通りに面した展示室の作品は、開館前でも外から見ることができた。建物の外壁に描かれた絵も実は巨大なドローイング作品だし、美術館エントランスに続く小道のわきに配された立体作品も華やかだ。入館しなくても自由に眺めることができる作品がとにかく多いのだ。通りを挟んだところにある「アート広場」にも立体作品が設置されており、この広場がまた、フォトジェニックなのである。
最初に目を引くのは、草間彌生の立体作品群《愛はとこしえ十和田でうたう》。人口芝生を色分けした水玉模様の地面に、やはり水玉模様の少女とカボチャと3匹の犬、それにキノコが配置されている。少女は着ているワンピースだけでなく、腕や顔の肌も水玉模様になっていて、見ているうちにこちらの肌が痒くなってくるようだ。3匹の犬のうち、2匹は少女に向って吠え、残りの1匹はキノコに向って吠えている。犬の顔の横から、犬の視線で公園の景色を見ると新鮮で楽しい。ちなみに、カボチャは中に入って遊ぶことができる。
立体作品はオブジェや遊具以外にも、広場の公衆トイレの屋根にのっている《アンノウン・マス》という立体作品が、だらりと垂れるような格好で、窓の中を覗き込んでいる。そして、その覗き込んでいる《アンノウン・マス》の横から、白いシーツを頭からすっぽりかぶったような姿の《ゴースト》が覗き込んでいる。《アンノウン・マス》も《ゴースト》も、暗い穴の目をしているのだが、力の抜けた垂れた形や、尖ったところがどこにもない風貌のせいか、そんなに不気味な感じはしない。この二つは、1992年にベルリンで結成されたユニット、インゲス・イデーの作品である。
決まった時間(午前9時から午後19時)に内部を公開するオブジェは、エルヴィン・ヴルムの《ファット・ハウス》と、RSie(n)の《ヒプノティック・チェンバー》。《ファット・ハウス》はその名の通り、よく肥えてぶよっと膨らんだ家で、隣にやはり太った車《ファット・カー》が駐車してある。《ヒプノティック・チェンバー》は仮想都市の物語に見物人を誘い込むために作られた、白い立体作品である。
また、今回、帰りの電車の都合で見ることができなかったが、広場中央にあるジャウメ・ブレンサの《エヴェン・シェティア》(ヘブライ語で創造の石)は、日没から夜の9時まで、空に向って光線を放つのだそうだ。
ひとしきり広場の立体作品の間を歩き回り、アート作品に囲まれる幸福に浸ったあと、開館前に十和田の官庁街通りをぶらぶらと歩く。道端のベンチ(ストリートファーニチャー)も面白いのだ。以下、箇条書きしてみる。

・太い針金でできた雲形のベンチ(日高恵理香《商店街の雲》)
・花瓶の役割を兼ねたスツール(近藤哲雄《pot》)
・風景を映す鏡の座面(マウントフジアーキテクツスタジオ《イン・フレークス》)
・ポップな色合いと柔らかな曲線の群れから成るベンチ(ライラ・ジュマ・A・ラシッド《虫-A》)
・腰かけるだけでなくテーブルにも使えそうな四角の集合体(マイダー・ロペス《トゥエルヴ・レヴェル・ベンチ》)
・頭の跡がついた巨大枕(リュウ・ジャンファ《マーク・イン・ザ・スペース》)

 腰掛けたくなる面白いベンチばかりで、お尻が一つしかないことが悔やまれる。迷った末に私が選んだのは、巨大枕の《マーク・イン・ザ・スペース》。朝からはしゃぎすぎて疲れた体を、枕にダイブさせた(※)のだった。
さて、この紹介文を書くにあたり、十和田市現代美術館ホームページのコレクションのページ( http://towadaartcenter.com/collection/ )で作品情報を改めて確認した。アート広場とストリートファーニチャーのほか、美術館建物内(有料スペース)の常設展示作品の概略もこれで知ることができる。

※断っておくが、私は手のひらサイズのテディベアである。鶏卵2個ほどの体重しかないため、巨大枕にダイブしてもお行儀が悪いだけで怪我をする気遣いはない。しかし、人間である皆様は、あまり大胆な振る舞いは控えておいた方が良いと思う。

2020年3月6日金曜日

友を偲ぶ


夭折した友が
夢に出てきた

久しぶりに会えたのがうれしくて
楽しく語らっていたのだが
ふと 気がついた
現実では二度と会えないことに

わたしは泣き
友は困った顔をした

目が覚めて知る
嘆いてはいけなかったのだと

思い出話を肴に
旨いお酒でも飲んでと
友ならきっとそう言うだろう



作詩:しあわせもりあわせ