2020年3月10日火曜日

熊沢健児の気になる美術館

十和田市現代美術館 ~開館前の記~


 七戸十和田駅からバスで35分ほど。十和田市現代美術館は十和田市官庁通りに面した美術館である。張り切り過ぎて、つい、開館前に到着してしまった。

ガラス張りの開放的な…というか、かなり太っ腹な建物だ。通りに面した展示室の作品は、開館前でも外から見ることができた。建物の外壁に描かれた絵も実は巨大なドローイング作品だし、美術館エントランスに続く小道のわきに配された立体作品も華やかだ。入館しなくても自由に眺めることができる作品がとにかく多いのだ。通りを挟んだところにある「アート広場」にも立体作品が設置されており、この広場がまた、フォトジェニックなのである。
最初に目を引くのは、草間彌生の立体作品群《愛はとこしえ十和田でうたう》。人口芝生を色分けした水玉模様の地面に、やはり水玉模様の少女とカボチャと3匹の犬、それにキノコが配置されている。少女は着ているワンピースだけでなく、腕や顔の肌も水玉模様になっていて、見ているうちにこちらの肌が痒くなってくるようだ。3匹の犬のうち、2匹は少女に向って吠え、残りの1匹はキノコに向って吠えている。犬の顔の横から、犬の視線で公園の景色を見ると新鮮で楽しい。ちなみに、カボチャは中に入って遊ぶことができる。
立体作品はオブジェや遊具以外にも、広場の公衆トイレの屋根にのっている《アンノウン・マス》という立体作品が、だらりと垂れるような格好で、窓の中を覗き込んでいる。そして、その覗き込んでいる《アンノウン・マス》の横から、白いシーツを頭からすっぽりかぶったような姿の《ゴースト》が覗き込んでいる。《アンノウン・マス》も《ゴースト》も、暗い穴の目をしているのだが、力の抜けた垂れた形や、尖ったところがどこにもない風貌のせいか、そんなに不気味な感じはしない。この二つは、1992年にベルリンで結成されたユニット、インゲス・イデーの作品である。
決まった時間(午前9時から午後19時)に内部を公開するオブジェは、エルヴィン・ヴルムの《ファット・ハウス》と、RSie(n)の《ヒプノティック・チェンバー》。《ファット・ハウス》はその名の通り、よく肥えてぶよっと膨らんだ家で、隣にやはり太った車《ファット・カー》が駐車してある。《ヒプノティック・チェンバー》は仮想都市の物語に見物人を誘い込むために作られた、白い立体作品である。
また、今回、帰りの電車の都合で見ることができなかったが、広場中央にあるジャウメ・ブレンサの《エヴェン・シェティア》(ヘブライ語で創造の石)は、日没から夜の9時まで、空に向って光線を放つのだそうだ。
ひとしきり広場の立体作品の間を歩き回り、アート作品に囲まれる幸福に浸ったあと、開館前に十和田の官庁街通りをぶらぶらと歩く。道端のベンチ(ストリートファーニチャー)も面白いのだ。以下、箇条書きしてみる。

・太い針金でできた雲形のベンチ(日高恵理香《商店街の雲》)
・花瓶の役割を兼ねたスツール(近藤哲雄《pot》)
・風景を映す鏡の座面(マウントフジアーキテクツスタジオ《イン・フレークス》)
・ポップな色合いと柔らかな曲線の群れから成るベンチ(ライラ・ジュマ・A・ラシッド《虫-A》)
・腰かけるだけでなくテーブルにも使えそうな四角の集合体(マイダー・ロペス《トゥエルヴ・レヴェル・ベンチ》)
・頭の跡がついた巨大枕(リュウ・ジャンファ《マーク・イン・ザ・スペース》)

 腰掛けたくなる面白いベンチばかりで、お尻が一つしかないことが悔やまれる。迷った末に私が選んだのは、巨大枕の《マーク・イン・ザ・スペース》。朝からはしゃぎすぎて疲れた体を、枕にダイブさせた(※)のだった。
さて、この紹介文を書くにあたり、十和田市現代美術館ホームページのコレクションのページ( http://towadaartcenter.com/collection/ )で作品情報を改めて確認した。アート広場とストリートファーニチャーのほか、美術館建物内(有料スペース)の常設展示作品の概略もこれで知ることができる。

※断っておくが、私は手のひらサイズのテディベアである。鶏卵2個ほどの体重しかないため、巨大枕にダイブしてもお行儀が悪いだけで怪我をする気遣いはない。しかし、人間である皆様は、あまり大胆な振る舞いは控えておいた方が良いと思う。