2023年5月26日金曜日

【書評番号2】丸山宗利総監修『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』、学研プラス、2022年


 読んでいてこれほど胸の熱くなる、図鑑の監修者前書きもそうそうあるまい。昆虫への思いはもちろん、図鑑というものに対する思いがひしひしと伝わってくる。優れた図鑑は子どもたちを夢中にさせ、ボロボロになるまで毎日くり返し読まれるものなのだ。本書は明確にそれを目指している。


 出版界において、学習図鑑は長らく小学館と学研の二強体制が続いていた。だが、2000年から小・中学校と高等学校で「総合的な学習の時間」がはじまると、新しい様相を見せるようになる。最新情報や写真図版の収録に力を入れた「小学館の図鑑NEO」や「ポプラディア大図鑑WONDA」、家庭の本棚に収まりやすいサイズで動画のDVDを付録とした「講談社の動く図鑑MOVE」など、出版各社が工夫を凝らした新シリーズを展開する中、学研はどうにも出遅れている感じが否めなかった。


 しかし、本書はあまたある昆虫図鑑の中で群を抜いてすばらしい。収録されている昆虫などの種類が他社の学習図鑑よりも圧倒的に多いだけでなく、生きたものの写真だけを使っているところが、これまでの昆虫図鑑と異なっている。


「昆虫がいちばんきれいに見え、みなさんが手にとってみたときの印象で調べられるよう、生きたものだけをのせることにしました」


 さらっと書いてあるが、2,800種以上を収録している昆虫図鑑でそれを実現するには、どれほどの時間と労力がかかったことだろうか。死後の標本の写真で済ませれば、もっと楽であったろうに。約50名もの研究者たち(助手や学生を含めると、何百人にもなるだろう)が手分けして虫を探し、写真を撮影する日々。さらに友人・知人に広く声をかけ、情報や生体などを提供してもらって、この図鑑はできあがっているのだ。


 例えば、「カマキリのなかま」のページを見てみる。どのページのカマキリも、同じ角度で、同じポーズをとっている。きっと、カマキリの生態が一番よくわかり、一番美しく見える角度とポーズなのだろう。その瞬間になるまで、撮影チームはカメラを構え、固唾をのんで見守っていたのだ。逃げられない工夫も必要だっただろう。相手は生きているのだから。


 自分は昆虫にはさほど興味のない人間だが、この図鑑は面白い。何気なく開いたページを眺めているだけで、「オオセンチコガネは生息する地域によって色がこんなに違うのか。嘘みたいに違うな」など、思いもよらなかった知識が入ってきて、「昆虫ってすごいな」「生き物ってすごいな」「もっと知りたいな」という気持ちにさせられるのだ。昆虫好きな子どもなら、貪るように読むだろう。できれば本書を子どもの頃の自分に見せてやりたいという総監修者の言葉には、納得と尊敬と感動しかない。



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