2023年5月26日金曜日

【書評番号6】 フリードマン、ラッセル『ちいさな労働者 写真家ルイス・ハインの目がとらえた子どもたち』千葉茂樹訳、あすなろ書房、1996年


 豊富な写真図版が特徴である本書は、写真家ルイス・ハイン(Lewis Wickes Hine. 1874-1940)の生涯を、彼の代表的な仕事のうちのひとつ―働く子どもたちの姿を写し、児童労働の実態を告発した写真群―を中心に紹介する、ノンフィクション作品である。図版の1枚1枚が、見る者を見つめ返す力に満ちている。

 カメラマンとしてのハインの仕事は、いくつかの職業を経て師範学校と大学で学んだあと、ニューヨーク市立エチカル・カルチャー・スクールの教師として、地理と科学を教えていた頃に始まる。きっかけは、学長フランク・マニーに、学校の記録写真を撮影するよう説得されたことだった。学校行事を写したハインの写真が評判を呼ぶようになると、マニーは写真を教材として利用することに決め、移民局があるエリス島で移民の家族を撮影するようハインに指示する。ハインはそこでの200枚を超える写真撮影を通じ、撮影者としての心構えや撮影技術を身につけると、児童福祉連盟、全米消費者連盟、全米児童労働員会などの仕事を引き受け始める。そして教師を辞め、全米児童労働委員会の専属カメラマンとなる。

 ハインの撮影は、それまで隠されてきた児童労働の現実を白日のもとに晒し、当時のアメリカ全体に児童労働禁止の機運をもたらした。本書に収録された写真はどれも力強く、「ハイン式」とでも呼びたくなるような一定の調子を帯びている。本書によるとハインは被写体となる子どもたちの名前、年齢、労働時間、賃金、就学状況などを克明に記録したという。撮影者の意図を明確に押し出したイメージと正確無比なデータの組み合わせが当時のアメリカ人にもたらした衝撃は大きかったに違いない。また、ハインは児童労働についてのパンフレットやブックレットをデザインしたり、写真展を企画したりするにあたり、写真につける説明文も自分で書いていた。このときに用いた、写真と文章を組み合わせる表現方法を、彼は「フォトストーリー」と名付けたという。

 写真を文章と組み合わせて伝達する表現方法は汎用性が高く、分かりやすい説明を必要とするさまざまな場面で用いられている。もちろん児童書も例外ではなく、そうした表現を効果的に用いた読み物や写真絵本などを数多く見ることができる。

 膨大な取材データや、表現者の内部に構築された確かな手触りのある世界観を前提とする、写真と言葉による表現の最前線にいた人物としても、ハインは興味深い。本書は子どもの人権や労働問題などについて知りたい中学生・高校生に適しているだけでなく、児童書における写真の表現について学びたい大人の初学者にも示唆を与えてくれる。子どもの本について共に学ぶ仲間たちと、ぜひとも共有していたい1冊である。



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