2024年7月5日金曜日

【書評番号5】東京子ども図書館編纂『児童図書館の先駆者たち アメリカ・日本』東京子ども図書館、2021年

 正味100ページに満たないブックレットです。Sybille A. Jaguschの論文“First Among Equals: Caroline M. Hewins and Anne C. Moore. Foundations of Library Work with Children”(1990)を紹介する張替惠子「アメリカ児童図書館の先達 ヤグッシュさんの論文から」と日本の図書館界に目を向けた内藤直子・加藤節子「日本児童図書館の黎明期」を収録しています。それぞれ、『こどもとしょかん』77号(1998年春)と78号(1998年夏)からの再録です。

 「アメリカ児童図書館の先達 ヤグッシュさんの論文から」では、二人の図書館員、キャロライン・ヒューインズ(1846-1926)とアン・キャロル・ムーア(1871-1961)が顔写真入りで紹介され、彼女たちの経歴や業績についてかいつまんで説明しています。

 ヒューインズもムーアも19世紀から20世紀初頭に活躍した人たちなのですが、ブックリスト作成や学校との連携といった、現代の図書館員の仕事内容とあまり変わらないことがこの時代に既に行われていたことに、驚きました。当時の取り組みが先駆的かつ実践的だったことが分かります。

 でも、次のくだりには、思わず苦笑してしまいました。


 さらに、児童サービス部門に入る若い女性には、成人部門の同僚より活躍が許されました。男性図書館員が自ら子ども相手の仕事を手がけることはなく“かよわき”女性たちが児童室にこもっていることを歓迎したために、児童図書館員は争いのない領地に陣取り、才能を開花させることができたのです。(p.11)


 彼女たちが先駆的な取り組みをすることができたのは、男性図書館員が児童サービスを自分たちの仕事と思っていなかったから…? それでも、「日本児童図書館の黎明期」のなかで顔写真とともに紹介されている重要人物が全員男性であることを思えば、自分の名前と顔を残すことができた女性図書館員が「いた」ということが、どれだけすごいことか思い知ることができます。

 ヒューインズやムーアが現代の児童サービス担当者・学校司書のロールモデルとなる存在であるのと同じように、現在、さまざまな図書館で子どもたちを相手に日々働いている女性たちは、子どもたちにとってのロールモデルになっています。このブックレットを読みながら、現代日本におけるヒューインズたち、あるいはムーアたちが幸せに活躍できる環境が整うように、祈らずにはいられなくなりました。


2024/7/24 人名の誤記を訂正いたしました。

(誤)アン・キャロライン・ムーア → (正)アン・キャロル・ムーア