珍しい島もあったものである。でっかいかぼちゃなのである。いったいどのようにしてか分からないが、植物であるかぼちゃのなかに、虫や魚やカエルや鳥やけものや人のいのちが芽生えたのだという。
このかぼちゃ島に起源をもつかぼちゃ人は、かぼちゃ島で一生を過ごす。何しろ、かぼちゃ島はそれ自体で豊かな資源なのである。かぼちゃ島は生きており、かぼちゃ島のかぼちゃ肉は食べられる。パンやケーキも作れるし、かぼちゃ酒も醸造することができる。
この豊富な資源に甘え切っていた、かつてのかぼちゃ人は、かぼちゃ肉やその加工品の輸出によって金儲けをし、かぼちゃ島をほりつくし、枯死寸前にまで追い込んだことがある。だが、かぼちゃ島の限界を知ったかぼちゃ人たちは、かぼちゃ島のめぐみを大切に使うことに決め、かぼちゃ島をよみがえらせることに成功した。そして、現在のかぼちゃ島がある。
本書によれば、かぼちゃ島のかぼちゃ人は、のろまで、とんまなのだという。しかし、とんまは、あほうと似て非なるものである。たとえば、かぼちゃ島の都市計画は見事なのである。本書の20~21ページに記された、かぼちゃ人の町を見ていただきたい。テキストには、「せまい路地がまがりくねって、迷路みたいである」(20ページ)とある。共同の井戸やトイレもあり、水汲みのついでにおしゃべり(テキストの言葉を借りれば「井戸端会議」)、お年寄りが外でひなたぼっこを楽しめる。みんなてんでに好きなことをしているように見えて、人と人との距離感がものすごく近いからコミュニケーションが密なのである。
かぼちゃ人の町は、ジェイン・ジェイコブズ(1916-2006)の『アメリカ大都市の死と生』(1961年)に記された、都市の多様性を作る四つの条件を見事に満たしている。嘘だと思ったら、鹿島出版会から出ている邦訳(1977年)を読むか、あるいは、映画『ジェイン・ジェイコブズ ニューヨーク都市計画革命』(2016年、アメリカ)を観るかして、ぜひ確認していただきたい。雑駁で、わいわいしているからこそ、多様性を保ちつつ何となくそれらしくまとまることができるのである。
のろまで、とんまなかぼちゃ人の、それは見事な知恵なのである。そう、本書は知恵の詰まった書物なのである。