いつでも行ける商店街
緊急事態宣言下の春、我が家の幼い子どもが誘ってきた。近所の小さな商店街へ買い物に連れて行ってあげられない理由を、もう一度説明しようとするのを遮って、子どもが言う。
「『ふれあいしょうてんがい』だから、だいじょうぶ!」
びっくりして見下ろすと、子どもは『おみせやさんでくださいな!』という絵本を開いて、中表紙を指差した。タイトルの文字を囲う商店街入口の絵には、『ふれあい商店街』の看板がかかっている。この子にとって、この絵本を読むことは、『ふれあい商店街』に行くことなのだ。
中表紙をめくると、そこはもう商店街。一本の道をコの字型に囲むように、37ものお店が並ぶ。世の中にはこれほどたくさんの種類のお店があるのかと、その多彩さに驚かされる。各店には時計があり、一軒目のくまのパンやさんでは朝の8時を指している。読者は半日かけて動物たちの営むお店を回り、最後のロバのレストラン(パンやさんの向かい)で夜の8時を迎えるという設定だ。
37店それぞれに添えられた文章がやたらリズミカルだと思っていたら、巻末に楽譜が付いていた。その楽譜のシンプルなメロディで、すべての文章を歌い読みできる。この作品をくり返し読んでいるうちに、子どもは歌詞をすっかり覚えてしまった。
お店は一軒ずつ描かれている。左ページに文章と、擬人化された商品たち(彼らのしていることにも注目!)、右ページにお店の個性的な外観が描かれ、ページをめくると見開きいっぱいに店内の様子。ほぼそれのくり返しで作品は展開していく。店内は細部までとことん丁寧に描き込まれており、作者はこういうのが好きなのだろうな、ものすごく楽しんで描いたのだろうな、と思わずにはいられない。そして読者は、指定されたものを店内から見つける、いわゆる探し物ゲームを楽しめるのだ。
しかし、この作品の一番の楽しみは、なんと言っても「お買い物」だろう。子どもは毎回飽きもせず、「なにがほしい?」と聞いてくる。店内をひととおり見渡して、ユニークで豊富な商品の中からその日の気分でほしいものを選ぶのは、思っていた以上にかなり楽しい。ワニが店主をしている精肉店など、価格が異様に安いので、商品の仕入れ先が気になりつつ、あれもこれもほしくなってしまう。
この作品には、ひとつの物語が隠されているのだが、登場する動物のキャラクターそれぞれにも物語が潜んでいる。くり返し読んでいるうちに、ここのお客さんがこちらのお店にもいる、ということに気づく。そして、お客さんや店主たちの関係、彼らの情に厚い性格などが見えてくるのだ。実に奥が深い。
感染拡大防止のために、目的のない買い物のためらわれる日々。自粛生活に疲れたら、ぜひ、あなたも『ふれあい商店街』に行ってみてほしい。
この書評は、2020年夏に開催された書評コンクールの応募作品です(書評番号4)