書評コンクール2020夏 猫村たたみ×熊沢健児 トークセッション
猫村たたみ(三文庫の守り猫) |
猫村 センター構成員の皆さま、ご機嫌いかがですかにゃ。センター三文庫の守り猫、猫村たたみですにゃ。
熊沢 どうも、名誉研究員の熊沢健児です。
猫村 書評コンクール2020夏にご参加くださった皆さま、いつも温かく見守ってくださっている皆さまに、心よりのお礼を申し上げますにゃ。ありがとうございましたにゃ!
熊沢健児(名誉研究員) |
熊沢 ありがとうございました。
猫村 夏のイベントにゃったけど、季節はすっかり秋にゃね~。
熊沢 うん、期間延長したからね。窓の外では鮮やかな紅葉が、目に心地良いね。
猫村 風は冷たいけど、日差しの当たるところは暖かいのにゃ。ひざ掛けを持って、ぽかぽか日の当たる縁側で読書したいのにゃ~。
熊沢 そうだね。読書の季節のトークセッション、ぼちぼち始めようか。
猫村 今回の応募作品はどれも、私たちが置かれている時代の状況を反映しているようにゃね。
熊沢 そうだね。今回の優秀作品となった『おみせやさんでくださいな!』の書評は、緊急事態宣言が発令された春の自粛生活のなかで、お子さんと一緒に楽しく読んだ絵本を紹介しているね。
猫村 そうにゃね。保護者の方に連れられてお買い物に行く子どもたちが目にする、おみせやさんの様子を、楽しく描いている絵本のようにゃね。
熊沢 うん。そういう、買い物の楽しさが味わえる絵本だっていうことがよく分かる書評だったね。
猫村 にゃ! 絵本についての説明も楽しいけど、しあわせもりあわせさんのコメントも面白いのにゃ。「ワニが店主をしている精肉店など、価格が異様に安いので、商品の仕入れ先が気になりつつ、あれもこれもほしくなってしまう」にゃって。たしかに気になるのにゃ~。私、ここを読んで笑ってしまったのにゃ。
熊沢 そうだね、大人目線でも面白いね。
猫村 書評には、「登場する動物のキャラクターそれぞれにも物語が潜んでいる」とあるのにゃけど、ここでの「物語」は暮らしの中の物語にゃね。自粛生活中は、なかなか人と会って話せなくて孤独を感じがちだったのにゃ。そういうときって、自分のことで頭がいっぱいになってしまうけれど、みんなそれぞれ自分の暮らしを頑張って続けていると思うと、ちょっと励まされるのにゃ。
熊沢 それにしても、自治体によっては幼稚園・保育園が休園になるなど、あの頃の親御さんたちは本当に大変だったね。仕事もしなくちゃならないし、子どもの世話もしなくちゃならないし、本気で遊び始めたときの子どものエネルギーは無尽蔵だし…。
猫村 そういえば、熊沢君は大学院を出てさすらっていた頃、ベビーシッターのアルバイトもしていたのにゃね。
熊沢 うん。知り合いの子をね。ほら、私はぬいぐるみだろう? だから、ベビーシッターの仕事も、いきおい体を張って行うことになる。バイトのたびに体力を使い果たし、その日の夜はぐったり熟睡してたなぁ。
猫村 え~、いつも不眠症気味の熊沢君が?
熊沢 うん。全力で遊んで燃え尽きていく日々…懐かしいな。
猫村 信じられないのにゃ!
熊沢 そうかな。あの頃に、こんな絵本があったらまた別の遊び方をしていたかも。書評に書いてある探し物ゲームをしたり…歌い読みができるのも興味深いね。
猫村 昔の熊沢君に教えてあげたいのにゃ!
熊沢 そうだね。あの頃、知りたかった絵本だ。
猫村 にゃ! 最優秀賞、おめでとうございますにゃ!
熊沢 白百合の森のキィローさんの書評は、しあわせもりあわせさんとはまたちがったかたちで、生身の子どもたちとの交流が背景にある書評だね。
猫村 にゃ。『あふれでたのは やさしさだった』は少年刑務所での更生教育の一環として行われた詩の授業の記録、ノンフィクションにゃね。
熊沢 うん。詩の授業だけど、この授業を通じて学ぶのは広義のコミュニケーションだ。
猫村 そうにゃね。詩を作る前の準備段階では、絵本の朗読劇をするそうにゃね。表現に優劣をつけず、ただ受け止めるということの練習をしていくのにゃ。
熊沢 優劣をつけないというところが大事だね。他人の評価を気にして思ったことを飲み込んでしまうと、そのうちに、自分が何を感じ、考えていたかということすら忘れてしまうからね。
猫村 そうなのにゃ。自分の心を見失うことほど、つらいことはないのにゃ。
熊沢 共感するにせよ、共感以外の気持ちを抱くにせよ、自分が表現したことを否定せずに受け止めてもらえるという環境は、誰もが必要としていながらなかなか手に入れられないものだよね。
猫村 にゃから、安心して詩を書き、発表できる環境づくりから始めるよう、授業をデザインしているのにゃね~。
熊沢 そうだね。
猫村 すぐれた詩を書くとか、名詩を鑑賞するとかいったことも大事なのにゃけど、そういう高度なことができるのは、安心して素顔を晒せる場があるということが根本にあるのにゃね。
熊沢 うん。そして、表現する側もまた、表現を受け取る相手に共感ばかり求めるのではなく、相手の気持ちや反応を素直に受け止められるといいね。
猫村 にゃ。たとえ作品に共感してもらえなくても、それは存在を否定されているわけではないのにゃ。
熊沢 うん。
猫村 にゃ!
熊沢 ところで、コロナ禍で外出が減り、自分のことを振り返る機会も増えたと思う。
猫村 そうにゃね。私も三文庫にこもることが多いのにゃ。冨田文庫の「青い鳥コーナー」をみては、女学校での出来事を思い出すのにゃ。懐かしいのにゃ~。
熊沢 『教育再定義の試み』を書いた、哲学者の鶴見俊輔さんの学生時代は、あまり楽しい思い出ばかりではなかったみたいだけど。
猫村 にゃ~む。そうにゃね~。
熊沢 若いうちに日本から出されて海外で学び、外国の言葉を使って、自分の頭で考えるということを身に着けていったんだね。少年期の記憶は苦かったかもしれないけれど、鶴見さんの思索のスタイルを作るときに役に立ったんじゃないかな。
猫村 そうにゃね。書評で取り上げられている、unlearningという言葉が印象的にゃ。
熊沢 うん。人から教えてもらったことは、自分にふさわしい知識や知恵へと編みなおしていくことで、本当に身につくんだね。
猫村 いつも、考えて行動する「自分」があるのにゃね。
熊沢 そうだね。スウェーター(セーター)の喩えがいいよね。頭の中だけで考えるのではなくて、自分の身体感覚や行動を通じて考えていくんだ。
猫村 私のダンスと同じにゃ。体を動かして、肌で風を感じながら考えて、また体を動かして表現するのにゃ! にゃ~にゃにゃ~にゃにゃ~にゃ、にゃっ…(猫村、ステップを踏み、ターンして決めポーズ)
熊沢 そうか。
猫村 鶴見さんに親しみが湧いたのにゃ!
熊沢 それは良かった。
猫村 にゃ!
熊沢 君は、チャペックの『オランダ絵図』を紹介していたね。
猫村 素敵な旅の記録にゃ。
熊沢 窓と街路の関係など、街並みの観察が面白いね。オランダで見る風景は、エナメルのように明るいだなんて、想像もつかない。見てみたいな。
猫村 いつか一緒に行ってみようにゃ。熊沢君の好きなゴッホの絵も、オランダ旅行をしたらもっと面白く観られるようになるかもにゃ~。
熊沢 うん。コロナが収まったら行きたいな。
猫村 熊沢君が紹介しているのは、『すきになったら』という絵本にゃね。
熊沢 うん。
猫村 熊沢君、恋をしているのかにゃ?
熊沢 いや、していない。
猫村 にゃふ~ん、ずいぶんきっぱり言い切るのにゃね~。ポエムのような書評にゃったけどにゃ~。
熊沢 してないったら、してないんだよ、もう!
猫村 にゃにゃ、ついからかってしまったのにゃ。ごめんにゃ。絵の中に入り込んだような書き方をしているから、気になってしまったのにゃ。
熊沢 絵の魅力を伝えようとしたら、こうなっただけだよ。
猫村 そうだったのにゃね~。熊沢君の書評は余白の魅力に言及しているのにゃけど、照れ屋さんの熊沢君が恋や愛をテーマにした絵本を正面から扱えるのは、この余白のおかげではないのかにゃ?
熊沢 うん。確かに。甘くなりがちなテーマだからね。語り過ぎないところが実に魅力的だった。
猫村 にゃ~む。余白とか、一見、何もないと思われるもののなかに、大事な意味や役割があったりするのにゃね。
熊沢 うん。見えないものこそ大事。そして、見えないものをいかに表現するか、いかに感じ取るかという想像力も同じくらい大事だね。
猫村 今年は目に見えないウイルスへの感染をいかに防ぐかを考えさせられる1年にゃね。見えないものへの想像力を鍛えられた気がするのにゃ。
熊沢 そうだね、絶えず想像しながら予防することを強いられてきたね。
猫村 想像力の2020年!
熊沢 ポジティブに言い換えるとそうなるね。
猫村 私はいつだってポジティブにゃ! 大変な1年にゃけど、皆さまと一緒に最後まで元気に乗り切って、新しい年も無事に過ごすのにゃ。
熊沢 皆さま、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。書評コンクールは年明けにも行います。ぜひ、ご参加ください。
猫村 それでは皆さま、ごきげんようにゃ~。