2022年4月28日木曜日

イメージを散歩する

(6)展覧会とアーティスト・トーク


先月から、東京都現代美術館でTokyo Contemporary Art Award 2020-2022受賞記念展が開催されている。TCAAと略されるこの賞は、中堅のアーティストを支援することを目的としたもので、2020年度から2022年度の受賞者である藤井光さんと山城知佳子さんの作品を、入場無料で観ることができる。また、このお二人のアーティスト・トークもそれぞれ企画されており、私は423日(土)の藤井さんと河田明久さん(美術史家・千葉工業大学教授。この展示では、メモランダムの状態のドキュメントを作品の一部となる会話音声のシナリオへと再構成する作業を担当している)が登壇する回に申し込んだ(※)。
 藤井さんの作品は、過去の歴史的な展覧会を再現したものと、音声とスライドとを組み合わせたインスタレーションだった。再現されていた展覧会は1946821日から92日に上野の東京都美術館で開催され、占領軍関係者だけが入場を許された「日本の戦争美術展」。板や梱包材などの廃材で作った平面で戦争画のサイズを再現し、ただし、そこに描かれた絵柄は再現せずにキャプションをつけておいて、当時の日本人が目にすることのできなかった展覧会を再構成している。キャプションの言語は英語がメインで、英文表記の作品情報の下に日本語表記が続く。私たちが国内の美術館で日ごろ目にしているものとは逆の順番である。
 そして、居並ぶ「見えない絵」の向こう側では、アメリカの国立公文書館に保管されていた資料から取り出されたイメージをもとにしたスライド資料が映し出され、男の人たちの声が電話で会話している。ここには、日本の従軍画家たちが描いた戦争の絵の扱いに戸惑うアメリカ軍関係者の様子が再現されている。彼らは困っていた——これらの絵が連合国軍にとっての「戦利品」であるならば、勝った国どうしで分配しなければならないし、プロパガンダの道具にされたものであるならば、廃棄しなければならない。芸術なのか? それとも、プロパガンダなのか?(※※)
 ところで、トークイベントは質疑応答があるところが面白いのだが、そのなかで観客の一人が、横山大観が絵を売ったお金を軍に寄付し、それにより戦闘機が購入されたというエピソードに触れながら、登壇者に質問をしていた。そのやりとりを聞きながら、私は紙芝居『貯金爺さん』のことを思わずにはいられなかった。
 
 個人的には、戦争画と戦争児童文学の、それぞれのジャンルの成り立ちを比較してみたい気持ちがあるのだけれど、それをするにはもっと勉強しなければ。続きはゴールデンウィークの自由研究ということにしたい。
 
【付記】
 ここには藤井さんの作品展示についてしか書かなかったけれど、もう一人の受賞者である山城さんは2020年に東京藝術大学で開催された「彼女たちは歌う」展の参加アーティストでもある。お客さんの多さに困惑したとぼやきながらもこの展覧会を絶賛していた熊沢健児氏からは、《チンビン・ウエスタン 家族の表象》(2019)について、「歌が印象的だった」と聞かされていた。ずっと観てみたかったこの作品が、この展覧会の展示作品の一つとなっていることを知ったとき、とても嬉しかった。

最近お疲れ気味の熊沢氏。
「連休で体力を取り戻したら研究に精を出したい
(まずは寝かせて)」とのことです。
熊沢氏は児童文化研究センターの名誉研究員(ぬいぐるみ)である。彼は一昨年の展示で、身体の小さなぬいぐるみであるのをいいことに、展示室の隅に隠れてこの作品をなんと合計4回も鑑賞していたらしい。人間である私はそういうわけにもいかないので、1回だけ集中して観たのだけれど、熊沢氏の言うとおり歌声が非常に印象的だった。沖縄を取り巻く複雑な状況が根底にある作品だが、非常に力強くもある。山城さんのアーティスト・トークは522日に予定されている。


 
【展覧会情報】
Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022受賞記念展
会場 東京都現代美術館企画展示室3
会期 2022319日(土)-619日(日)

こちらの展覧会情報は東京都現代美術館ホームページの展覧会のページから抜き書きしたものです(https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/)。詳細は、美術館とTokyo Contemporary Art Awardのホームページに掲載されています。
 
※このブログ記事は、アーティスト・トークのときに書きつけたメモを、インターネット上の記事「「プロパガンダと芸術の境界線、戦争画で考えた」藤井光さんインタビュー 「Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022受賞記念展」① 東京都現代美術館」(聞き手 読売新聞美術展ナビ編集版 岡部匡志、2022421https://artexhibition.jp/topics/news/20220420-AEJ763245/)で確認しながら書いた。メモしきれなかった「日本の戦争美術展」についての情報や、作品の素材などについては、この記事に助けられた。Tokyo Contemporary Art Awardのホームページ(https://www.tokyocontemporaryartaward.jp/)も確認した。
 
※※これらの作品のその後なのだが、1970年にアメリカから日本へ155点の絵画が無期限に貸与されるという形で日本に戻されている(東京文化財研究所HP 「彙報 戦争記録画の返還」https://www.tobunken.go.jp/materials/nenshi/6192.html)。現在、これらの作品は東京国立近代美術館に収蔵され、例えば藤田嗣治の《アッツ島玉砕》(1943年)のような作品が、「戦争記録画」というジャンル名を与えられ、そのほかの収蔵品とともに目録検索できるようになっている(独立行政法人国立美術館所蔵作品総合目録検索システムhttps://search.artmuseums.go.jp/)。

遠藤知恵子(センター助手)