1934年② モッタレッロ
1934年、レオーニは製菓会社モッタに就職した。モッタは1919年に創業し、イタリアのクリスマス(イタリアではクリスマスを“ナターレ”と言うそうだ)で食べられる「パネトーネ」で有名になったという。手元にある電子辞書(デジタル大辞泉)で調べてみたが、パネトーネは“パネットーネ”とも言い、果物の砂糖漬けやレーズンを入れて焼く、豪華な菓子パンのようなお菓子だ。実際のパネットーネはかなり大きいらしいのだが、個人的には、その、腰高まんじゅうにも通ずるところのある福々しいシルエットに好感を抱いた。
図録の解説「製菓会社モッタのデザイン戦略」(p.23 担当:森泉文美)によれば、モッタでレオーニの上司となったディーノ・ヴィッラーニは、1934年に広告部長として起用され、ブランドリニューアルに向けて企業コンクールの企画やイベントへの協賛、全国的な広告キャンペーンなどを打ち出した。レオーニはモッタのブランドリニューアルのタイミングで、ヴィッラーニのアシスタントとして採用された。これはレオーニにとって大変なチャンスだったのだろう。
モッタがブランドリニューアルのために行った広告キャンペーンとは、どのくらい画期的なことだったのだろう。解説には、「パネトーネの生地や設備を利用して開発したイースター用のケーキ「コロンバ」の成功は企業マーケティング戦略の先駆的な例として評価されています」(同上)とある。
図録に収録された印刷物や広告原画のなかに、コロンバのパンフレット「伝統・伝説(TRADIZIONE
LEGGENDA)」の図版がある。鳩とオリーブの葉を図案化し、淡いピンクとエメラルドグリーンの2色でまとめている。レオーニが制作した広告だという。白抜きになった鳩の形が、咲きかかった百合のように愛らしい。解説には「中世にミラノを勝利に導いた鳩たちを象ったパンの起源を語ったもの」(p.24)とあり、背後に物語のあるイメージなのだということが分かる。
レオーニはまた、「モッタレッロ」というキャラクターをデザインしている。モッタレッロという名前はちょっと発音しづらいけれど、日本語風に名付け直すとしたらどんな名前になるだろう。モッタさん?
モッタ坊や? 新聞広告からとられたモッタレッロの図版を改めて眺めてみると、丸顔で、コックさんの帽子を被り、手にはパネットーネを持ったモッタレッロは、円や台形といった単純な形をもとにデザインされている。斜めの線や、背景の黒のコントラストによってシャープな印象を与えるけれど、嫌味なところが一つもない、愛らしいキャラクターだ。
【書誌情報】
『だれも知らないレオ・レオーニ』玄光社、2020年
遠藤知恵子(センター助手)