2024年6月21日金曜日

熊沢健児の気になる展覧会

「ひとはなぜ“ひとがた”をつくるのか」

 横浜人形の家で630日(日)まで開催される「ひとはなぜ“ひとがた”をつくるのか」展、皆様はもう観に行かれただろうか。人形文化を専門とする菊地浩平先生(児童文化学科・准教授)がこの企画展に参加し、アクリルスタンドの展示(!)で参加しているので、興味を持たれた方は多いと思う。私も先日、行ってきた。

 人のフォルム(かたち、形状)の多様性に注目したというこの企画展は、展示物の多様さだけでなく、キャプションを担当する専門家の顔ぶれの多様さも印象的だった。

 この企画展は大きく分けて4つのパートで構成されており、第1のパートでは海外も含めた先史時代のごく古い時代の女性小像から、縄文時代、古墳時代、平安・江戸・昭和、そして現代につながる創作人形へ、というふうに、時代ごとの人形(ひとがた/にんぎょう)の移り変わりを見て学ぶことができる。

 また、この第1のパートの、アフリカやニューギニアなどの人形(こちらは、現代の人形)が展示されたコーナーでは、横浜人形の家の収蔵品の成り立ちにも触れられており、この美術館そのものについても、少しだが知ることができた。

 菊地先生の担当は現代。「いま・ここのひとがた」というコーナーに、顔写真入りで解説文を寄せられている。

 場所を取らないことを身上とするアクスタならではの演出というべきか、まさにアクリルスタンドの如きコンパクトな展示コーナーだった。展示されていたのは、サイコスリラー映画に登場する恐怖のAI人形「ミーガン」のアクスタほか計4点…。ちょっと癖の強い展示物は、狭い場所に置かれていても、なんとも言えない凄みがあった(それにしても、面白いものばかり選んだなぁ)。

 第2から第4のパートは現代の作家(物故作家も含む)による作品が並ぶ。メインビジュアルとなっている土井典(どい のり)さんの人形も、もちろんここ。肉付きの見事な女性人形に圧倒された。

 そして、たぶんこの企画展で最も多くの空間と言葉を使って紹介されていたのではないかと思われるのが、やまなみ工房と嬉々!!CREATIVEの作家さんたちの作品である。

 アクリルスタンドを堂々と展示している点からもお察しいただけるかと思うが、この企画展における「ひとがた」には、紙の上に描いた平面の「ひとがた」も含まれている。いや、それどころか、人のかたちをしていない「ひとがた」もある。たとえば、やまなみ工房に暮す酒井美穂子さんの展示物は、展示室の一角の壁にびっしりと並べ置かれた「サッポロ一番しょうゆ味」(袋入り)。食べるのではなく、パッケージの上から親指で擦り、音を立て、見つめるのだそうだ。

 彼女の展示コーナーでは、映像も一緒に流されており、親指でサッポロ一番しょうゆ味を擦っている音も聴くことができる。しばらくの間、私も一緒にサッポロ一番しょうゆ味を見つめてみた。なぜ、サッポロ一番しょうゆ味なのかは分からない。分からないということも含め、美穂子さんという「人」の存在を意識し、感じることのできる、豊かな時間だった。

熊沢健児(ぬいぐるみ・名誉研究員)