児童文学の歴史をつくった重要な人物や出来事、記念碑的な作品やシリーズ、出版史において重要な役割を果たした出版社など、児童文学についての事典は、子どもの本にまつわるさまざまなことに解説を加え、私たちに理解を促してくれます。ちょっと調べものをするだけのつもりが、いつの間にか時間を忘れて読み浸っていた……などという人も多いのではないでしょうか? 『子どもの読書を考える事典』も、そうした事典のひとつです。
考える人たちの輪の中に
この事典の執筆者は、研究者や翻訳家、図書館員、教員、編集者、作家といった、さまざまな立場から子どもの読書に関わりをもつ人たちです。そんな、子どもの読書について長年考えてきた人たちが、〈つくる〉、〈読む〉、〈つなぐ〉の3つのチームに分かれ、それぞれのテーマについて書いています。この小さなブログ記事では紹介しきれないくらいの、盛りだくさんの内容は、索引なども含めると全部で495ページあります。
子どもと読書に関するさまざまな事柄を整理し、読者に伝えることに加え、子どもと読書について一緒に考えようよと誘う、『子どもの読書を考える事典』。まだ読んだことがないという方も、この事典を手に取って、考える人たちの輪の中に、入ってみませんか?
本を〈つくる〉、子どもの〈読む〉を見つめる、本と子どもを〈つなぐ〉
先ほど「3つのチーム」と呼びましたが、『子どもの読書を考える事典』では、「子どもの本作りに関わってきた人たち」、「子どもの姿を知る人たち」、「子どもに本をつないできた人たち」(汐崎順子「はじめに」p.2)が執筆者となり、子どもの読書に関連するさまざまなトピックを〈つくる〉〈読む〉〈つなぐ〉の3つの観点に整理し、解説します。
この本の中心となる関心事は、大人と異なる存在として見いだされる「子ども」と、その読書という行為。私たち大人の大半が「子どもにとって読書は良いことだ」と信じて疑わないけれど、子どもの読書について考えるというのは、見た目ほど単純な作業ではなく、常に何らかの不確かさが伴います。この本の冒頭、総論に当たる第1部は、この不確かさを言語化し、解きほぐします。
総論も〈つくる〉〈読む〉〈つなぐ〉に分かれていますので、順に見ていきましょう。
まず、〈つくる〉では、奥山恵(児童文学評論家)と水間千恵(白百合女子大学教授)のコンビが「『子ども』と『子どもの本』」と題して、「子ども」という概念の変遷と子どもの本の歴史について概説、21世紀の大人と子どもの関係性を人権の観点から素描します。「子ども」観と子どもの本の歴史は、時代や社会に左右されながら互いに関わり合って変化しており、子どもの本を〈つくる〉大人たちは、このような複雑さの中で仕事をしているのだということが分かります。
次の〈読む〉は井元有里(元公共図書館員)・汐崎順子(慶應義塾大学・早稲田大学非常勤講師)の「『読書』と子ども」。読書とは何かという問いを、読書様式の変遷、言語や文字の習得、そして他者から言葉や物語を受け取る経験へと広げ、論じていきます。幼い頃は身近な大人から絵本を読み聞かせてもらっていたが、成長するに従い、徐々に一人読みへと移行したという人が多いと思いますが、子どもと読書を考えるにあたり、本を読むという行為の表層に囚われない、より本質的なものの見方が求められているようです。この章で、私たちは読書を根源的に捉え直すことを促されます。
最後の〈つなぐ〉は村上恭子(学校司書)と渡邊春菜(学校法人桐朋学園桐朋小学校司書教諭)の「子どもと読書を『つなぐ』」という章題のもと、子どもと読書をつなぐ場としての図書館や、図書館行政に関わった人々、そして、関連する政策といったものの歴史を中心に概説します。公共図書館や学校図書館といった場は、貧富の差に関係なくその場所で生活をする人々に開かれています。図書館は〈つなぐ〉ことの意義を問い、考えるにはうってつけの場であることが分かります。
〈つくる〉〈読む〉〈つなぐ〉の3つの側面からこの本の総論にあたる事柄を掴んだら、各論へ。大勢の人がそれぞれの立場から見て文章に綴った、子どもと読書のある風景が広がります。
大人たちのネットワーク
子どもと読書をつなごうとする人たちの存在や、そんな人たちの取り組みについて教え、考えさせてくれるこの事典。でも、個人的には、この本を読んでいるうちに、子どもと読書をめぐる大人たちのネットワークが気になり始めてきました。
子どもと読書をつなぐ様々な取り組みを続ける中で、大人もまた、自分と同じ志を持って取り組む別の大人たちとのつながりを手に入れることがあります。また、日々の取り組みの中で、そのようなつながりを切実に必要としています。
子どもにとって読書が貴重な経験であるのと同じように、大人にとっても、自分とよく似た仲間の存在を知るということは貴重な経験です(だって、ほら、大人になってしまうと、友達や仲間を作るのって、難しいじゃないですか)。子どもたちのためにと頑張っているように見えて、実は私たち大人の方が、子どもたちからかけがえのない経験をもらっているのかもしれません。
【書誌情報】
汐崎順子編『子どもの読書を考える事典』朝倉書店、2023年
※本文中に記載した、執筆者のプロフィールは本書の「執筆者プロフィール」によるものです。
遠藤知恵子(センター助手)