2024年6月28日金曜日

リレー展示「本について話そう」第5回

 2024年度のリレー展示、テーマは「児童文学・児童文化を初めて学ぶ人が読んでおきたい基本図書」です。5冊目の本はこちらです。

本田和子 著『異文化としての子ども
本のタイトルをクリックすると、リンク先のキャプションを読むことができます。

 夏の訪れとともに始まるオープンキャンパスの季節を意識して、本を選びました。
 児童文化研究センター入り口の、メールボックスの上に展示しています。貸し出しをすることもできますので、どうぞお手に取ってご覧ください。

2024年6月21日金曜日

熊沢健児の気になる展覧会

「ひとはなぜ“ひとがた”をつくるのか」

 横浜人形の家で630日(日)まで開催される「ひとはなぜ“ひとがた”をつくるのか」展、皆様はもう観に行かれただろうか。人形文化を専門とする菊地浩平先生(児童文化学科・准教授)がこの企画展に参加し、アクリルスタンドの展示(!)で参加しているので、興味を持たれた方は多いと思う。私も先日、行ってきた。

 人のフォルム(かたち、形状)の多様性に注目したというこの企画展は、展示物の多様さだけでなく、キャプションを担当する専門家の顔ぶれの多様さも印象的だった。

 この企画展は大きく分けて4つのパートで構成されており、第1のパートでは海外も含めた先史時代のごく古い時代の女性小像から、縄文時代、古墳時代、平安・江戸・昭和、そして現代につながる創作人形へ、というふうに、時代ごとの人形(ひとがた/にんぎょう)の移り変わりを見て学ぶことができる。

 また、この第1のパートの、アフリカやニューギニアなどの人形(こちらは、現代の人形)が展示されたコーナーでは、横浜人形の家の収蔵品の成り立ちにも触れられており、この美術館そのものについても、少しだが知ることができた。

 菊地先生の担当は現代。「いま・ここのひとがた」というコーナーに、顔写真入りで解説文を寄せられている。

 場所を取らないことを身上とするアクスタならではの演出というべきか、まさにアクリルスタンドの如きコンパクトな展示コーナーだった。展示されていたのは、サイコスリラー映画に登場する恐怖のAI人形「ミーガン」のアクスタほか計4点…。ちょっと癖の強い展示物は、狭い場所に置かれていても、なんとも言えない凄みがあった(それにしても、面白いものばかり選んだなぁ)。

 第2から第4のパートは現代の作家(物故作家も含む)による作品が並ぶ。メインビジュアルとなっている土井典(どい のり)さんの人形も、もちろんここ。肉付きの見事な女性人形に圧倒された。

 そして、たぶんこの企画展で最も多くの空間と言葉を使って紹介されていたのではないかと思われるのが、やまなみ工房と嬉々!!CREATIVEの作家さんたちの作品である。

 アクリルスタンドを堂々と展示している点からもお察しいただけるかと思うが、この企画展における「ひとがた」には、紙の上に描いた平面の「ひとがた」も含まれている。いや、それどころか、人のかたちをしていない「ひとがた」もある。たとえば、やまなみ工房に暮す酒井美穂子さんの展示物は、展示室の一角の壁にびっしりと並べ置かれた「サッポロ一番しょうゆ味」(袋入り)。食べるのではなく、パッケージの上から親指で擦り、音を立て、見つめるのだそうだ。

 彼女の展示コーナーでは、映像も一緒に流されており、親指でサッポロ一番しょうゆ味を擦っている音も聴くことができる。しばらくの間、私も一緒にサッポロ一番しょうゆ味を見つめてみた。なぜ、サッポロ一番しょうゆ味なのかは分からない。分からないということも含め、美穂子さんという「人」の存在を意識し、感じることのできる、豊かな時間だった。

熊沢健児(ぬいぐるみ・名誉研究員)


リレー展示「本について話そう」第4回

 2024年度のリレー展示、テーマは「児童文学・児童文化を初めて学ぶ人が読んでおきたい基本図書」です。4冊目の本は、こちら。

白井澄子・笹田裕子編著『英米児童文化 55のキーワード
本のタイトルをクリックすると、リンク先のキャプションを読むことができます。

 オープンキャンパスの季節を意識して、本を選びました。
 児童文化研究センターセンター入り口の、メールボックスの上に展示しています。

 また、最近ご寄贈いただいた『「母の友」特選童話集 こどもに聞かせる一日一話』(福音館書店、2024年)も一緒に、メールボックスの上に展示しています。100%ORANGEさんが表紙絵を担当した、元気なオレンジ色の表紙が目印です。こちらも、ぜひお手に取ってご覧ください。

『「母の友」特選童話集 こどもに聞かせる一日一話』
福音館書店「母の友」編集部 編著 福音館書店、2024年

 ご寄贈くださったのは、児童文化専攻OGで本学非常勤講師の柗村裕子先生です。柗村先生の再話されたスウェーデンの昔話「泥とわらから金をつむぐ娘」(出久根育 絵)が収録されています。

2024年6月20日木曜日

熊沢健児の気になる展覧会

ついに…ついに、念願だった苺パフェを食べることができた!

 東京都写真美術館のカフェ「フロムトップ」の苺パフェ、ずっと気になっていたのだ…。

 夏に食べた無花果と葡萄のパフェもとても美味しかったが、春頃から提供される苺パフェのことは、2年前から気になっていた。

 エディブルフラワー(食用花)をあしらった愛らしいパフェ本体に、お好みで温かなチャイや黒胡椒をかけて食べる。甘さを控え、お茶の苦みやスパイスの香りを活かしたパフェなのである。頑張って早起きして来た甲斐があった。


 この日の目的は映画鑑賞だったのだが、児童文学に携わる者としてはちょっと気になる展覧会も開催中である。コレクション展「TOPコレクション〈時間旅行 千二百箇月の過去とかんずる方角から〉」である。会期は77日まで。

 自慢するわけではないが、私はもうずっと前に観た。

 今からちょうど100年前の1924年に刊行された宮澤賢治の詩集『春と修羅』に触発された展示である。第一室から第五室まで、たっぷりと時間旅行をしてきたが、特に印象的だったのは、『LIFE』や『アサヒカメラ』といった雑誌のバックナンバーも一緒に展示されていたこと。それぞれが出版された時期の世相を、場合によっては写真以上に反映しているのである。写真と雑誌が一緒に展示されることで、より時間旅行っぽい鑑賞ができて面白かった。

 このコレクション展が行なわれているのは3階展示室で、4階には図書室がある。この図書室も面白い。開催中の展覧会と連動した関連図書コーナーを用意してくれているのである。東京都写真美術館のwebサイトでブックリストを入手することもできるが、現物を一気見できる喜びは、何ものにも代えがたいものである。

 そうそう、帰り際に、開催予定の企画展のチラシを手に入れた。


いわいとしお×東京都写真美術館

光と動きの100かいだてのいえ

19世紀の映像装置とメディアアートをつなぐ


 夏休みの子どもたちをターゲットにした展示らしく、親子向けや子ども向けのワークショップも予定されている。会期は730日(火)~113日(日)。

 チラシに印刷された過去の展示風景の数々を見た感じでは、メディアアート縁日とでも言いたくなるような、楽しそうな雰囲気である。…梅雨入りもまだなのに、夏休みが待ち遠しくなってしまった。

熊沢健児(ぬいぐるみ・名誉研究員)


〈熊沢健児プロフィール〉

 センター入り口で、皆様をお出迎えするテディベア。

 児童文化研究センターに住み込みで働いており、空き時間を利用して、ブログへの執筆協力をしている。ブログの記事は主に、展覧会・書籍・映画の感想。猫村たたみ(三文庫の守り猫)とタッグを組み、書評コンクールのコメンテーターなども務めている。

2024年6月14日金曜日

リレー展示「本について話そう」第3回

 2024年度のリレー展示、テーマは「児童文学・児童文化を初めて学ぶ人が読んでおきたい基本図書」です。3冊目の本は、こちら。


桂宥子/牟田おりえ編著『はじめて学ぶ英米児童文学史

本のタイトルをクリックすると、リンク先のキャプションを読むことができます。

 今回も、オープンキャンパスの時期に合わせて基本図書を選びました。

 イギリス・アメリカを中心に、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった英語圏の児童文学史を学ぶことができる本です。時代ごと・国や地域ごとの要点がコンパクトにまとめられているので、忙しい人にも嬉しい1冊です。

2024年6月13日木曜日

猫村たたみ、朝ドラ読書会

『井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法』
井上ひさし 文 いわさきちひろ 絵 講談社 2006

皆さまは、朝ドラ(NHKの連続テレビ小説)はお好きかにゃ? 私は大好きなのにゃ!

猫村たたみ:
センター三文庫の守り猫(ねこまた)。
書物をこよなく愛する図書館司書であり、
昭和初期にはタイピストとして働いていた
経歴をもつ。趣味は写真と旅行とダンス。

いま放映中の『虎に翼』は女性として日本で初めて弁護士、そして裁判所所長ににゃった三淵嘉子さんをモデルにしたお話なのにゃけど、法律って社会に必要なだけにゃなくて、人々の人生を左右するのにゃね〜。とっても興味深くて、どんなに悲しい展開が続いても観ないではいられないのにゃよ。

 敗戦後、ドラマのヒロイン、寅子ちゃんが日々の生活に追われる姿を見るのはつらかったのにゃ〜。愛する夫の戦病死を知ってもきちんと悲しむこともできないほど疲弊してしまうのにゃよ。戦争って残酷なのにゃ。にゃけど、亡くなった夫君との思い出の焼き鳥を包む新聞紙に新しい憲法が印刷されていて、その新憲法に力を与えられて寅子ちゃんは法曹界に舞い戻るのにゃ。私、それを見て感激したのにゃ!

 あの神回のあと、無性に日本国憲法を読みたくにゃって、うちの本棚にあった『井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法』を、引っ張り出したのにゃ。

何故にゃらば、この本の末尾には、付録として日本国憲法の全文が収録されているのにゃよ。寅子ちゃんを勇気づけた第一四条【法の下の平等、貴族の禁止、栄典】(58ページを参照にゃ)をじっくり読んで、噛みしめたのにゃ。

今日は、付録だけにゃなくて、本文を読むのにゃ! もしよろしければ、皆さまもご一緒にいかがかにゃ?

 

 この本の前半部分は、作家の井上ひさしさんが憲法の前文と第九条を、それぞれ詩的で易しい言葉に置き換えて表現したものを、いわさきちひろさんの描いたお花や子どもたちや小鳥たちの絵と組み合わせたページにゃ。誰もが戦争に苦しまずに天寿をまっとうできる世の中になるようにという願いを込めて、憲法を日常語に翻訳しているのにゃよ。

後半は「憲法って、つまりこういうこと」という、日本国憲法そのものの説明にゃ。この後半部分では、戦後、新憲法の施行にあたって当時の文部省が子どもたちに配布した「新しい憲法のはなし」のことも紹介されているのにゃ。『虎に翼』の寅子ちゃんは日本国憲法を手で書き写していたのにゃけど、当時は大人も子どもも同じスタートラインに立って、新しい憲法について学んだのにゃね〜。

 もちろん、1947年に新憲法が施行されたからって、その年を境にみんなの暮らしが変わるわけではないのにゃ。その後の復興の過程でだんだん社会が変わって、生活も変わっていくのにゃね。復興までにはたくさんの犠牲が払われるのにゃけど、寅子ちゃん、どうかめげずにお仕事がんばってにゃ~!

猫村たたみ

2024年6月7日金曜日

リレー展示「本について話そう」 第2回

 2024年度テーマ「児童文学・児童文化を初めて学ぶ人が読んでおきたい基本図書」に沿って選んだ2冊目の本は、こちら。


2冊目の本:鳥越信編著『はじめて学ぶ日本児童文学史』
本のタイトルをクリックすると、リンク先のキャプションを読むことができます。

 今回も、オープンキャンパスの時期に合わせて、基本図書を選んでいます。
 
 本書を編集した鳥越氏によると、日本児童文学の起源は、意外なところにあります。「へ~、そうなんだ!」がいっぱい詰まった本ですので、まだお読みになっていない方は、ぜひ、お手に取ってご覧ください。

2024年6月6日木曜日

第7回 書評コンクール 募集期間延長のお知らせ

書評コンクールの作品募集期間を延長いたします。


応募締め切り:2024年7月5日(金)12:00

好きな児童文学作品・絵本、面白いと思った研究書や児童文学・文化の関連書籍などの書評をお送りください。本研究センターの構成員であればどなたでもご応募いただけます。

応募方法:
800~1200字の書評をWordファイルで作成し、センターあてのメールに添付して送信してください。

メール送り先:
jido-bun😄shirayuri.ac.jp (😄を@に直してお送りください。)

メール本文には次のことを記載してください。
1.応募者氏名(ペンネームでの公開をご希望の場合は、お名前の隣に併記してください)
2.応募区分(学生/一般/教職員/その他)
3.取り上げる本の書誌情報(タイトル・著者名・訳者名・出版社・出版年など)
4.冊子収録の可否(冊子を配布する範囲は、在学院生および翌年の新入院生です)
※著作権は執筆者に帰属します。

ご応募いただいた書評は、名前が分からない状態でブログに公開し、投票によって最優秀作品を決めます。

作品公開後の詳しいスケジュールは、追って公開いたします。
皆様、ふるってご応募ください。

ムナーリとレオーニ(42)

1957年


 今回も、年譜を読んでいこう。まずは、レオーニから。
 1957年、レオーニは妻ノーラとともにインドへ。3か月滞在し、『Fortune』1957年5月号にインドの産業についての写真ルポルタージュを寄稿した。同号の表紙には、レオーニが撮影した西ベンガル州ドゥルガプル・ダムの写真が使用されており、図録で図版を確認することができる。こうした、いかにもビジネス誌らしい記事や表紙についての記載を読んでいると、後年の絵本の仕事とのギャップを感じてしまう。でも、本当は、これは驚くようなことではない。レオーニはヴィットリオ・エマヌエーレⅡ世商業技術高等学校卒業、税理士の資格を持ち、ジェノヴァ大学経済商業学部を卒業するときにはダイヤモンド産業に関する論文を書いていたのだった(「レオ・レオーニ 年譜」1930年の事項、および森泉文美「『Fortune』での仕事」55ページを参照)。レオーニは学生の頃に学んだことを、20年以上の歳月を経て、アートの仕事に活かしている。
 一方、1957年のムナーリは、個展を2回開催している。1月にパリのクリストフル画廊でおこなった「直接の映写」の展示と、9月にミラノのサン・バビラ書店でおこなった展示である。また、この年に開催された第11回ミラノ・トリエンナーレでは、〈読めない本〉で金メダルを受賞。MACのグループ展も健在である。
 ところで、連載42回目にして気づいたことがある。このところ、ムナーリは毎年のように個展を開いているけれど、基本的に画廊か書店を会場としていて、百貨店を会場とする展示は年譜に一つも書かれていない。日本では明治の終わりごろから三越や高島屋といった百貨店が展覧会を開催するようになっており、歴史的に見ても、日本の美術展覧会に百貨店は欠かせない存在と言えるのだが、海外ではそうでもないのかもしれない。
 話をムナーリに戻そう。この年、ムナーリがデザインした《灰皿:クーボ》が発売されたり、パリで開催された「イタリア・インダストリアル・デザイン」展図録のグラフィック・デザインを監修したり、デザインの分野でも引き続き華々しく活動している。でも、私個人としては、『ドムス』誌332号に掲載されたという〈おしゃべりフォーク〉が一番気になる。おそらく既製品であろう、何の変哲もないフォークの歯を曲げるだけで(図録の249ページ、塚田美紀氏のコラムによると柄も曲げているらしいが、正直なところ、ちょっと見ただけだとよく分からない)、フォークがヒッチハイクしたり、煙草をくゆらせてみたり、乙に澄まして鑑賞者に背を向けてみたり(背中で語るフォークである)、人間の手のように表情豊かなものになる。ちなみに、図録の掲載図版をよく見てみると、ヒッチハイクのときのフォークは右手を、煙草を持つときのフォークは左手を演じている。ムナーリの〈おしゃべりフォーク〉は右利きだったのだろうか、それとも左利きだったのだろうか。

【書誌情報】
奥田亜希子編「ブルーノ・ムナーリ年譜」『ブルーノ・ムナーリ』求龍堂、2018年、pp.342-357
「レオ・レオーニ 年譜」『だれも知らないレオ・レオーニ』玄光社、2020年、pp.216-219 ※執筆担当者の表示なし
遠藤知恵子(センター助手)