The Family of Man. Museum of Modern Art, 1955
光吉夏弥が 『子供の世界』に寄せた前書きは、こんな一文で締めくくられる。
子供の窓を通して見た、これは今日の世界の人間像だが、子供版“ザ・ファミリー・オブ・マン”というのが、一ばんふさわしいかもしれない。
(クライン・タコニスほか『子供の世界』光吉夏弥訳、平凡社、1957年)
もしかして…と思い、検索してみたら、あった。
英語版の展覧会図録The Family of Manである。展覧会の企画者はエドワード・スタイケン(1879-1973)、図録のアート・ディレクターはレオ・レオーニ(1910-1999)。レオーニが初めての絵本『あおくんときいろちゃん』を出版したのが1959年だから、この図録は、まだ絵本作家になる前のレオーニの仕事である。恐ろしくメジャーな展覧会の図録だけれども、まさかここ白百合で手に取って見られるとは予想していなかった。
図録のはじめの方に展示風景を写した写真が掲載されている。会場いっぱいにさまざまな大きさの写真パネルを配置したインスタレーションである。人の入っていない展示空間の画像を、精一杯、想像をたくましくして見てみよう。まず、高価な美術品の展示とは違い、展示物と観客の距離感が近そうだ。写真を立体的に組み合わせて構成された空間の中に、観客が入り込んで動き回る。一枚一枚の写真が発するメッセージだけではなく、展示の構成によってもThe Family of Man(人間家族)の世界観を示し、同じ展示を見る人たちに一体感を与えようとしているのだろうか。
展示は68か国から集められた273人の撮影者による503枚の写真から成り、1955年から1962年までに38か国を巡回して9000000人の人々が訪れたという。日本にも来ていた。大変な規模だ。
図録の写真でその中身を確かめると、新しい生命の誕生を起点として、さまざまな国や地域での子どもの成長や家族のあり方、日々の暮らし方、食、労働、音楽、舞踊、遊び、学び、人の死、戦争、等々が提示されている。中でも興味深いのは、ヨーロッパ、南北アメリカ、中国、日本など各地で撮影された、手をつないで輪になる遊びの写真が並ぶ見開きのページ。人間って、住む場所が違っていても、こんなにも似ているものなのかと驚かされる。
もちろん、人類の普遍性を強調しすぎるこの展示のメッセージには、危うさがある。みんなと同じであることを押し付けられるのは誰にとってもつらいことだし、この展示によってかえってあらわになる貧富の差もある。でも、この遊びのような、意外な一致に興味をそそられてしまうのも事実だ。この驚きはちょうど、シンデレラの類話が世界各地にあるということを知ったときの驚きに似ている。
図録にはプロローグの言葉、写真、キャプションに加えて、古今東西の様々な有名人の言葉が華を添える。その中に岡倉覚三の『茶の本』からの引用を見つけたときは、思わず「おうっ」と声が出そうになってしまった。意外なところで、意外な人に出会う。
しかし、それにしても…と、思う。現役のデザイナーだった頃のレオ・レオーニの、グラフィックの仕事をリアルタイムで見ていた光吉夏弥。羨ましすぎる。
遠藤知恵子(センター助手)
展覧会が巡回した国の数や観客動員数は、DNP Museum Information Japan artscape(URL: https://artscape.jp/index.html)が提供している現代美術用語辞典「アートワード」の「『ザ・ファミリー・オブ・マン(人間家族)』展」の項目(執筆者:小原真史)を参照しました。