この記事は、児童文化研究センター名誉研究員(ぬいぐるみ)の熊沢健児が執筆を担当したものです。就職氷河期に青春期を過ごした熊沢は、非正規の仕事をいくつか経験したのち、本センターにて住み込みで働くようになりました。熊沢のおもな業務は、児童文化研究センター入口で待機し、ご来室される方々をお迎えすることと、ブログの記事を通じて情報発信をすることです。以後、お見知りおきくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
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熊沢健児 |
朝、猫村たたみさんから「本についての本」を読もうというお誘いを受けた。猫村さんが「三文庫(非)公式ガイド」で取り上げていた『本づくりの匠たち』(グラフィック社編集部編、グラフィック社、2011年)が面白そうだったので、まずは手に取ってみた。猫村さんの言うとおり、冨田文庫の資料がこの本には登場する。これは、ちょっと、嬉しい。
私は、本はテキスト(文章も、絵も含めて)が命、内容が一番大事だと思っているけれど、開き具合や手触りといった、(長く読んでいても嫌にならないという意味での)デザインや読みやすさも、読書の楽しみを大きく左右する要素である。見た目よりも中身と実用性を重視したくなる私は、『本づくりの匠たち』に登場するスペシャリストたちの仕事ぶりには、ただただ感謝と尊敬の念を抱くばかりである。
彼らは私のような合理主義的な読者のニーズばかりでなく、ときに無理難題を持ちかけてくるデザイナーの要求にも応えていかねばならない。『本づくりの匠たち』では、祖父江慎さんというブックデザイナーの名が出てきた。この方は非常に斬新なデザインで知られているのだそうだ。本づくりの現場をグラフィック社編集部とともに取材する名久井直子さん(名久井さんご自身もブックデザイナーである)は、祖父江さんのお仕事を「印刷や加工のことをよくご存知の上で、綿密な計画がなされていて、とても勉強になります」(p.60)と評する。これを読み、ああ、そうなんだと思い、実用一辺倒の自分を大いに反省した。本がどんな姿かたちをしているか、鑑賞しようと思った。
丁度よい具合に、大学図書館に祖父江さんの作品画像を数多く収録した資料があるのを見つけた。『祖父江慎+コズフィッシュ』(パイインターナショナル、2016年)である。ウキウキしながらこの本を借り、センターに持ち帰ってページをぱらぱらとめくる。そのとき、思わず「ギャッ」と悲鳴を上げてしまった。むき出しの人体が生々しく写された写真画像を見てしまったのである。私にはちょっと無理かもしれない。こういう画像、実はすごく苦手なのだ。でも、勉強はしたいんだよなあ…。今度、猫村さんに相談してみよう。
~後日~
猫村 熊沢くん、こんにちにゃ!
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猫村たたみ 「相談って、何かにゃ?」 |
熊沢 祖父江慎さんのブックデザインの本を見て、本がどんな姿かたちをしているか、鑑賞してみようと思ったんだ。
猫村 それは良い考えにゃ!
熊沢 でも、この本には私の苦手なタイプの写真画像があって…。
猫村 そうにゃの? どれどれ…にゃ~む、荒木経惟さんや、沢渡朔さんの写真集かにゃ?
熊沢 そ、そうなのかな。ちょっと気圧されてしまって、よく見ていなかったから。表現に携わる者としては、作品集に載った図版を正視できないなんて情けない限りだけど…。
猫村 にゃ~に、気にすることはないのにゃ! 作品としての裸体像と、すっぽんぽんの裸の画像や煽情的に演出された肉体の像との境界線は、人によって違うのにゃ。熊沢君の境界線が、祖父江さんや荒木さんや沢渡さんの境界線と違っていただけにゃよ!
熊沢 ありがとう。でも、いやしくも作品として提示されている画像なのに、拒否感を覚えてしまう私には、この本を読む資格はないんじゃないかって思うんだ。でも、勉強はしたいんだよ…。
猫村 本を読むのにシカクもサンカクもないのにゃよ! 私がお手伝いするから、ちょっと待っててにゃ! (猫村、『祖父江慎+コズフィッシュ』をパラパラとめくりながら高速で手を動かし、スマホで検索を始める。)
熊沢 猫村さん、あいかわらず早いな…。
猫村 にゃっへん! 私、情報検索のプロにゃもの、これくらいは朝飯前にゃよ。…へいお待ちにゃ!
熊沢 あ、付箋が挟んである。
猫村 児童書や学術書の書影があるページや、書容設計がわかるページに、付箋を挟んだのにゃ。そして、大学図書館に所蔵のある本は、これと、これと、これと…。
熊沢 すごい! 実物を見ることができるんだね。
猫村 検索しているうちに、私も祖父江さんデザインの本を見てみたくなったのにゃ。
熊沢 うん。一緒に見てみよう。今から図書館に行って、借りてくるよ!
猫村 ありがとうにゃ!
【書誌情報】
『祖父江慎+コズフィッシュ』パイインターナショナル、2016年