2024年10月24日木曜日

ムナーリとレオーニ(47)

1960年① 1024日はムナーリの誕生日

本日、1024日はブルーノ・ムナーリの117回目の誕生日である。エスプレッソとティラミスでお祝いしたいところだが、まずは年譜を読もう。今回は1960年、ムナーリが53歳になる年である。

1960年のムナーリも、相変わらずイタリアをはじめヨーロッパを中心に精力的に作品展示をしているのだが、ムナーリはこの年に開催された世界デザイン会議(於・産業会館、東京、511-16日)に招聘され(※)、《偏光の映写》を上映する。ムナーリ、初めての日本訪問である。同時期(510-15日)に開催された「60/ワールド・グラフィック・デザイン展」にも出品している。展示会場は日本橋三越。う~む、やはり日本で展示となると場所は百貨店なのかと、感慨深い。

ところで、1958年にムナーリは瀧口修造の訪問を受けていたが、二人の交流はまず日本での作品上映という形で実を結ぶ。世界デザイン会議に先立ち、東京国立近代美術館の映写室で《偏光の映写》による「ダイレクト・プロジェクション」上映会が開催される(上映期間:15-24日)。翌月18日には草月アートセンターでも上映が行なわれる。国立近代美術館での上映会の折には、武満徹のテープ音楽「クワイエット・デザイン」が流されたそうだ。

〈直接の映写〉と〈偏光の映写〉、それぞれのシリーズを、図録で確かめることができる。図版がまとめてプリントされたページには、いくつものスライドに、それぞれ質感の異なる素材をマウントしたものが並んでいる。それらのスライドをプロジェクターで壁に直接映写する。図録では上映風景は分からないが、素材が持つ質感や色彩の断片が輝いている。そういえば、この輝き、日本の写真家の写真集で見たことがある。

今井壽恵(1931-2009)という写真家が手がけた企業広報誌『エナジー』の表紙写真には、ムナーリの《偏光の映写》シリーズとよく似た断片の輝きがある。『Hisae Imai』(戸田昌子監修、赤々舎、2022年)でまとめて〈ENERGY〉シリーズを見ることができる。この写真集を見ていたときに感じた輝きである。あくまでも、私がそういう印象を受けたというだけのことであって、影響関係が云々ということを言うつもりは全くない、というより、残念ながら知らないのである。ムナーリと違って今井の再評価はまだ始まったばかりで、写真の専門家でもない私にとって、今井は魅力的だがなかなか手が出せない写真家なのである。だが、何も知らないなりに、詩心に満ちた初期の作品は特に、文学との親和性が高くて興味深い。

ちなみに、何となく思いつきで「今井壽恵」「草月アートセンター」というキーワードを入れてGoogle検索してみたところ、「ジャズ」という言葉がパソコンの画面上に散見される。「えっ、ジャズ?」と意外さに打たれつつも、今度は「今井壽恵」「ジャズ」で検索しなおしたところ、渡邊未帆「日本のモダンジャズ、現代音楽、フリージャズの接点 ——草月アートセンターと新世紀音楽研究所の活動を例に——」(『東京芸術大学音楽部 紀要 第34号』20093月、pp.189-202)と出会った。ムナーリの活動の幅はとても広いけれど、この幅広さはこの時代、表現の最先端で活躍していた人たちみんなに共通するものであるらしい。ジャズか…私、ジャズのこともよく分からないなあ…ムナーリのお誕生日だからって、ティラミス食べてる場合じゃないかもしれない…と、胃袋がキュッと引き締まるのを感じるのだった(でも、やはりティラミスは食べたい)。

※ムナーリの日本での動向については、有福一昭「日本におけるブルーノ・ムナーリ」(『ブルーノ・ムナーリ』求龍堂、2018年、pp.316-323)を参照した。

 

【書誌情報】

奥田亜希子編「ブルーノ・ムナーリ年譜」『ブルーノ・ムナーリ』求龍堂、2018年、pp.342-357

遠藤知恵子(センター助手)