2024年10月4日金曜日

ムナーリとレオーニ(46)

1959年② ムナーリ

1959年、ムナーリは52歳。この年の年譜には、個展とグループ展が3つずつ記されている。全部で6回の展示を行なっているが、そのうちの4回(個展3回とグループ展1回)はダネーゼ・ショールームが会場になっている。

図録の解説(p.209 執筆担当:髙嶋雄一郎)によれば、ダネーゼ社は1957年、ブルーノ・ダネーゼとジャックリーン・ヴォドツ夫妻によってミラノで設立されたとのこと。1960年代イタリアのインダストリアル・デザインを語る上で、また、この時期のムナーリの仕事を語る上で、非常に大きな存在であるらしい。この解説のなかに、ムナーリの主張が次のように記されている。

「芸術は、一点もの、であるべきではない。そうでなくて、シリーズ化を目指す必要がある。そうすればより多くの人々に、たとえそれが複製品であっても、芸術を所有する可能性を与えるものだから」

これを読んで、ムナーリの心意気にうっかり感動してしまいそうになったのだが、検索して見つけたムナーリによるデザインのダストボックス(なんと、現在も販売中である)は、税込価格で9万円を超える値段だった。

9万円のゴミ箱を買える人って、どんな人だろう? シリーズ化され、複製されることによって、確かに「芸術を所有する可能性」は与えられるけれど、可能性を与えられたからといって、実際に手に入るかどうかはまた別の話。つましく暮らす庶民からしてみれば、複製芸術ですら絵に描いた餅なんだ…などと考えてしまったら、もう元気が出ないのだけれど(あぁ、検索なんかするんじゃなかった!)、気を取り直していこう。

解説によると、1959年からムナーリが企画していた11点の遊具がダネーゼ社から発表された。「うち7点は教育学者ジョヴァンニ・ベルグラーノとの共作で、各々に対象年齢が設定され、子どもの発育に合わせつつ遊びを通じてその創造性を刺激する巧みな仕掛けが込められ」たものとのことで、1985年に来日してこどもの城でワークショップを開いた、78歳のムナーリの姿と重なる。

ムナーリが遠い日本の地で子どものためのワークショップを試み始めるのはもっとずっと先のことだけれど、長い年月をかけて、新たな活動に向けた種蒔きをしているように見える。

 

【書誌情報】

奥田亜希子編「ブルーノ・ムナーリ年譜」『ブルーノ・ムナーリ』求龍堂、2018年、pp.342-357

遠藤知恵子(センター助手)