1960年② ギャップ萌え
2冊目の絵本『ひとあしひとあし』を出版(1961年コルデコット賞次点)。(p.218)
前年に初めての絵本『あおくんときいろちゃん』を出版したばかりで、絵本作家としてはまだ「新人」といっても良さそうな人なのに、2作目でいきなりコルデコット賞次点とあって驚いた。だが、こんな驚きも、今まで私がレオーニの絵本作家という側面にばかり目を向けてきたことや、レオーニをひとりの創作者としてきちんと見てこなかった怠慢が原因なのかもしれない。グラフィック・デザインの領域では既に、レオーニは充分すぎるほどの実績を積んでいる。今まで読んできた年譜を通じ、彼の来歴を(その片鱗だけかもしれないけれど、ともかくも)学んできた。本当は、コルデコット賞次点のひとつやふたつ、驚くことでも何でもないのだ。
『ひとあしひとあし』(原題Inch by Inch)は尺取虫を主人公とした物語の絵本。小さくて弱い者が知恵を使って危ない局面を切り抜ける、魅力的なお話である。日本では15年後の1975年、谷川俊太郎の翻訳で出版されている。図録に収録された論考「レオの絵本作り——初期の4冊を中心に」(文章:松岡希代子)によると、「この作品はレオにとってはじめてテキストとイメージの一貫性や、絵本としての表現に向き合って作った作品」(pp.193-194)とのことで、その制作は難しかったそうだ。絵本からは、そんな苦しみの跡は1ミリも見つからないのだが。
レオーニはそれまで生きてきたうちのとても長い時間を、サラリーマンとして過ごしてきたし、会社を辞めてフリーランスになってからも、ビジネスの世界を生きてきた。松岡によると、子育ては妻のノーラに任せきりで、「子どもと遊んだりすることにも苦手意識を持っていたよう」(p.188)だったという。
レオーニにとり、「子ども」は苦手分野だったのか…と、図録を眺めながら苦笑いしてしまう。そして、後年、彼が発表するぴかぴかの作品群との落差を思い、つい、「ギャップ萌え」してしまいそうになるのだった。
【書誌情報】
「レオ・レオーニ 年譜」『だれも知らないレオ・レオーニ』玄光社、2020年、pp.216-219 ※執筆担当者の表示なし