「堀内誠一 絵の世界」展
生誕90年を記念して、今年から来年にかけて堀内誠一さん(1932-1987)の回顧展が全国を巡回している。私は、7月30日から9月25日までを会期とする、神奈川近代文学館での展示に行ってきた。
享年54歳と、とても早くに亡くなってしまった堀内さん。社会に出たのは14歳の頃とのこと。展示物を子どもの頃のものから順に見ていくと、敗戦直後の日本の貧しさや、そのために短くなったのであろう子ども時代について、自然と考えさせられてしまう。だから少し切なくもなるのだけれど、絵本原画の明るくて濁りのない色合いや、子どもの成長に等身大で寄り添ってくれるような登場人物(キャラクター)たちの絵姿を見ていると、切なさよりも、個人が自立して生きることの嬉しさや、希望の方へと、意識が向いていく。
堀内さんは若い頃から才能を発揮していたため、デザインやアートディレクション、そして絵本などの仕事をしていた期間は想像していたより長く、仕事の内容もとても濃い。文学者との交流にも焦点を当てたという本展では、堀内さんの筆まめな一面も垣間見ることができて面白かった。パリに住んでいたころに様々な人に送ったという、絵入りの手紙がチャーミングなのである。
そして、旅のこと。今回の展示を見て、私は図録を買わずに『GUIDE an・an パリからの旅 パリとフランスの町々』(マガジンハウス、1990年)を買ってしまった。絵だけでなく、旅に関わる展示物もとても魅力的な企画展だったのだが、地図やスケッチなどへのこまやかな書き込みは、会期終了間際のお客さんの多い展示室ではとてもではないが読み切れなかった。
正直、ちょっと読みにくいけれど、あの手書き文字の中に、異なる文化圏で暮らし、旅を楽しむための知恵が詰まっているような気がした。読み切れないままに家に帰るのはもったいなくて、ガイドブックとしてまとまった旅の記録を、手元に置いておきたくなったのだ。おおよそB5サイズの、200ページを越えるどっしりとしたガイドブックである。旅行のお供にしても良いのだが、この本自体が面白い読み物であるため、繰り返し熟読したくなる。実際に現地に行ってみる頃には、ここに書いてあることはだいたい覚えてしまっているだろう。
熊沢健児(ぬいぐるみ・名誉研究員)
【展覧会情報】
「堀内誠一 絵の世界」展
会場:神奈川近代文学館
主催:県立神奈川近代文学館、公益財団法人神奈川文学振興会
会期:2022年7月30日(土)-9月25日(日)