遠藤周作の『黄色い人』は、エピグラフとして二つの文章がかかげられ、一つは「(童話より)」、もう一つは「(黙示録)」となっています。この前者すなわち「神さまは宇宙に」と始まる文章は、児童文学の雑誌『赤い鳥』第1巻第1号に掲載されている、丹野てい子の文章(P.51)に似ていることがわかりました。一部に文章の異同があるものの、出典であるといってよい程度に内容が似ています。この小品は、同誌の目次における表記も、「(童話)」となっていることから、「(童話より)」という記述とも一致しています。
このエピグラフの出典について最初に質問をいただいたのは、2002年に白百合女子大学大学院文学研究科言語・文学専攻において博士号を取得された李平春さん(博士論文「遠藤周作文学の〈神〉像―〈父なる神〉から〈愛の神〉へ」)でした。しかし、当時は、わたしに回答できる知識がなく、不明の旨の返答をしたのでした。その後、その問いが気になっていたことが、今回の気づきにつながったので、ここに李平春さんに感謝したいと思います。
この事実は、約2年前に判明していたのですが、適当な発表の場がなかったため、この度、児童文化研究センターのブログにおいて公表することとしたものです。浅学ゆえ、あるいは研究者間では既知の事柄であるのかもしれません。その場合は、恐縮ですが、関連する情報と併せてご教示をいただければ幸いに存じます。
なお、このテーマについての詳細な研究は、昭和女子大学日本語日本文学科の笛木美佳先生のグループおよび白百合女子大学国語国文学科助教(2011年度末退職)の加藤憲子さんによって進められています。
このテーマは、遠藤周作研究と児童文学研究の共同作業によって行なわれるべきものかと思います。それぞれが知見を提供し合うことで、より研究が進展することを願っています。
(白百合女子大学児童文化研究センター前所長・石井直人)