1942年
この年、ムナーリはトリノのエイナウディという出版社から、『ムナーリのABCの本』と『ムナーリの機械』を出版している。この不定期連載を始めてかれこれ1年以上が経って、ようやく絵本の登場である…!
『ムナーリの機械』については、大学図書館でフランス語訳のものを読むことができる。図録の解説によると、この絵本は「漫画家ルーブ・ゴールドバーグが着想した装置に影響を受けた」絵本であり、また、ここに見られる「機械」は「学生時代に友人を笑わせるために考案し始めた」ものなのだという(執筆者TY=髙嶋雄一郎、p.143)。美術を専門とする研究者にとっては、この絵本は、ムナーリの一連の《役に立たない機械》シリーズの関連資料のような位置づけなのだろうか。
これまでにも何度か参照している太田岳人さんの論考の一つ、「漫画作品から絵本へ:『ムナーリの機械』の制作過程に関する一考察」(『早稲田大学イタリア研究所研究紀要』第9号、2020年3月、pp.1-28)によると、『ムナーリの機械』はエイナウディの「子供と青年の叢書」のうちの1冊だったそうだ。機関リポジトリで読めるPDF版の論文では図版が見られないのがもどかしいけれど、ユーモア紙『セッテベッロ』に掲載された1938年から1941年までのムナーリの漫画が、絵本『ムナーリの機械』の「機械」の原型になっているという事実がそれ自体で興味深い。また、ちょっと胡散臭いムナーリの「機械」に関する太田さんの説明が可笑しくて(胡散臭いものは、真面目に説明すればするほどかえって笑いを誘う)、論文を読んでいるはずなのについつい笑ってしまうのである。ファシズム政権下という背景を踏まえたうえで読み返すと、時には痛々しさも感じてしまうこの「笑い」について、正直、どう受け止めれば良いのか分からない。まずは手に届く範囲の資料をありのままに読んでいけたら、と思う。
さて、アメリカのレオーニはこの頃、どうしていたのだろうか。気になるのだけれども、レオーニの年譜は、1942年から1944年まで記載がない。
【書誌情報】
奥田亜希子編「ブルーノ・ムナーリ年譜」『ブルーノ・ムナーリ』求龍堂、2018年、pp.342-357
遠藤知恵子(センター助手)