デヴィッド・ウィーズナー『かようびのよる』当麻ゆか訳、福武書店、1992年
むかし住んでいた家の近くの池に、ヒキガエルが住んでいた。毎年6月になると、尻尾が取れて蛙の形になったばかりの、豆粒みたいな蛙たちが(喩えるなら、ハエトリグモくらいのサイズだった)、一斉に移動を始める。
近くに水辺なんてなかったけれど、とにかく彼らは池を出て、みな一様にひとつの方角を目指し、舗装路の上に小さな跳躍を重ねて進んでいった。どこか、ここではないどこかへ。道半ばにして事故に遭った蛙たちが、路上にぽつぽつとダークグレーの染みとなっているのは見かけたが、彼らが結局どこに行ったのかは、分からずじまいだった。
『かようびのよる』のページを繰りながら、私はあの6月の蛙たちのことを思った(あの子たちはまだ小さかったから、きっと、みんな…)。彼らも、この絵本に登場する蛙たちくらい大きくて、大胆で、睡蓮の葉に乗っていたらよかったのに。絵本の蛙たちが活き活きとしていればしているほど、悲しくなった。
絵本の最後のページを閉じてからもしばらくの間、考えてしまったのだった。
熊沢健児(ぬいぐるみ・名誉研究員)