2024年11月29日金曜日

ムナーリとレオーニ(50)

1961年② 動くもの

 この年、ムナーリはパドヴァで個展を催し、その会期中に〈偏光の映写〉上映会も開催される。〈偏光の映写〉は、偏光板を利用してつくる映像作品のこと。しばらくぶりなので、図録のなかの解説で〈偏光の映写〉のことを簡単に振り返っておきたい。

 

偏光板とは、ある特定の方向に振動する光だけを通す性質をもったシートで、作品はこれを透明な素材とともにスライドに挟み込んで映写し、プロジェクターのレンズの前で、別の偏光板をかざし動かすと、スクリーンに現れた鮮やかな色彩が次々と変化していくという仕組み。

p.135 執筆担当:盛本直美

 

 喩えるならば、「科学技術を応用し、光の刷毛で描く抽象絵画」といったところだろうか。

物体に備わる特有の性質を利用して得られる像や色彩だから、この〈偏光の映写〉は、実際には「具象(というか、具体)」を極端に突き詰めることによってできる映像なわけだし、「抽象」という言い方はおかしいかもしれない。ただ、なんとなく、版画家の恩地孝四郎の「抽象」と通じるものがあるような気がして、「抽象絵画」に喩えてしまった。私個人の偏った見方に過ぎないのだけれども、いろいろ連想しながら言葉に表してみるのは楽しい。そして、図録に収録された図版はどれも美しい。

 1961年のムナーリはほかにもう1回個展を開いており、グループ展への参加は4回。また、第39回ミラノ国際見本市に参加し、モンテカティーニ社のパヴィリオンに噴水を2つ、設置したそうだ。どんな噴水かと言えば、「直径4mの円盤が水と風の動力で動くものなど」(p.347)とのこと。〈偏光の映写〉といい、この噴水といい、ムナーリは動いて形の定まらないものが好きだったんだなと、改めて思う。

 

【書誌情報】

奥田亜希子編「ブルーノ・ムナーリ年譜」『ブルーノ・ムナーリ』求龍堂、2018年、pp.342-357

遠藤知恵子(センター助手)

2024年11月21日木曜日

ムナーリとレオーニ(49)

1961年① レオーニ、イタリアへ

 

 1975年の『ひとあしひとあし』出版以降、レオーニの絵本の翻訳を数多く手がけた谷川俊太郎さんが、今月13日に亡くなってしまった。メディアにもよく顔を出している詩人だし、少なくとも100歳までは活躍を続けられるに違いないと勝手に思い込んでいた。だから、谷川さん死去のニュースに接したときは、ものすごく驚いてしまった。心よりご冥福をお祈りいたします。

 

1961年、レオーニはイタリアに戻った。移り住んだ先はリグーリア州のラヴァーニャという町の、サン・ベルナルド地区である。図録の情報を頼りにネットで調べてみると、ラヴァーニャはジェノヴァ県内に位置する。ジェノヴァはレオーニが15歳の頃、父親の転勤により一家で移り住んだ土地である。ここでイーゼルを購入し、漫画や油絵を描き始めたのだった。

図録に収録された解説「レオの絵本作り——初期の4冊を中心に」(執筆:松岡希代子、pp.188-195)によれば、ここは妻ノーラの実家の別荘ピンクヴィラのあるカーヴィに近く、イタリアでも有数のリゾート地であり、小石の広がる美しい浜辺があるそうだ。そして、結婚前からレオーニはよくピンクヴィラに滞在していたとのこと(p.190)。そういえば、第二次世界大戦終結から2年後の1947年、アメリカに亡命して以来初めてイタリアに戻ったとき、レオーニはカーヴィで絵画制作に打ち込んだと、年譜に書いてあった。アメリカでの生活に区切りをつけるにあたり、若い頃からのなじみ深い土地を選んだのである。

イタリアに再び根を下ろした、この記念すべき年に出版した絵本は『はまべにはいしがいっぱい』(原題:On My Beach There Are Many Pebbles)である。レオーニ3冊目の絵本。先の松岡の解説によると、制作に着手したのは2冊目の『ひとあしひとあし』よりこちらの方が先だったという。移住が直接の制作動機になったわけではないようだが、イタリア移住後第一作がこの絵本だというのは、なんだか素敵だ。

『はまべにはいしがいっぱい』はこれといった事件は起きない、それらしいストーリーのない絵本である。本物のように描かれた小石の群れのなかに虚構が、というか、心のなかで作り出したイメージが混ぜ込まれていて、どのページも長いこと飽きずに眺めていられる。この絵本が1979年に日本で出版されたときの翻訳者はもちろん、谷川俊太郎さんだった。

 

【書誌情報】

「レオ・レオーニ 年譜」『だれも知らないレオ・レオーニ』玄光社、2020年、pp.216-219 執筆担当者の表示なし

遠藤知恵子(センター助手)

2024年11月15日金曜日

ミニ展示 11月15日~12月13日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。今回は、ロシア絵本についての特集や記事が見られる雑誌や、展覧会図録をピックアップしました。展示中も借りられます。お手に取ってご覧ください。


『幻のロシア絵本展 1920-30年代』

企画・監修 芦屋市立美術館・東京都庭園美術館、淡交社、2004年

吉原治良のコレクションを中心に、個人によって収集され、大切に保存されてきた国内ロシア絵本コレクションが一堂に会した展覧会。ロシア絵本の魅力を知るだけでなく、日本におけるロシア絵本受容史を学べるという点でも、貴重な機会を提供する展示でした。


『芸術新潮』第55巻第7号、2004年7月

特集 ロシア絵本のすばらしき世界

解説者は20世紀芸術史がご専門の収集家・研究者の沼辺信一氏。特集冒頭に「まずは黙って見てください」と書いてありますので、お言葉に甘えて、まずは絵本のビジュアルをたっぷり味わいましょう。特集記事内に満載された絵本の写真図版を楽しんだら、文章へ。充実した記事をご堪能あれ!


『こどもとしょかん』第133~140号、2012年4月~2014年1月

「お話の中の食べ物 ロシア編」(執筆者:松谷さやか)

ピロシキ、おだんごぱん(コロボーク)、ボルシチ、シチー、ウハー、サモワールを使って淹れた紅茶、カーシャ(お粥)、ブリヌィ。お話に登場するロシアの食べ物が、全8回の連載で紹介されています。この連載で紹介される「お話」の大半が絵本。ソヴィエト時代の作品も、現代の作品も、取り混ぜてご賞味ください。


『母の友』第725号、2013年10月

特集2 ロシア絵本の世界

特集記事の始めに、ロシア絵本の歴史がコンパクトにまとめられています。『チェブラーシカ』の原作者、エドゥアルド・ウスペンスキー氏や、アニメーション作家のユーリ・ノルシュテイン氏といった現代作家へのインタビューもぜひ!


 これらの展示本に加え、ファイル資料として、沼辺信一氏の「光吉夏弥旧蔵のロシア絵本について 【附録】白百合女子大学児童文化研究センター所蔵 光吉文庫 光吉夏弥旧蔵ロシア絵本リスト」を展示しています。

 本センター主催講演会の内容をもとにした、この特別寄稿は『白百合女子大学児童文化研究センター 研究論文集26』(2023年3月)に収録されており、大学図書館の学術機関リポジトリでも読むことができます。沼辺氏の論考は、今年の6月には絵本学会の第5回「日本絵本研究賞」を受賞しています。講演会の方も非常に充実しており、センタースタッフとしても、忘れられない講演会となりました。


2024年11月7日木曜日

ミニ展示 11月7日~14日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。


『読者としての子ども』

松岡享子 著

東京子ども図書館 2024年


 展示期間中も借りられます。お手に取ってご覧ください。

 普段はセンターに入って右奥、「小さな資料はこちら」のコーナーにあります。

 この本に収録された3つの講演録のうち、2つが『こどもとしょかん』からの再録、1つは音声記録をもとに編集部でまとめたものだそうです。『こどもとしょかん』バックナンバーは、センターに入って左側のキャビネットにあります。ぜひご覧ください。