2024年11月15日金曜日

ミニ展示 11月15日~12月13日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。今回は、ロシア絵本についての特集や記事が見られる雑誌や、展覧会図録をピックアップしました。展示中も借りられます。お手に取ってご覧ください。


『幻のロシア絵本展 1920-30年代』

企画・監修 芦屋市立美術館・東京都庭園美術館、淡交社、2004年

吉原治良のコレクションを中心に、個人によって収集され、大切に保存されてきた国内ロシア絵本コレクションが一堂に会した展覧会。ロシア絵本の魅力を知るだけでなく、日本におけるロシア絵本受容史を学べるという点でも、貴重な機会を提供する展示でした。


『芸術新潮』第55巻第7号、2004年7月

特集 ロシア絵本のすばらしき世界

解説者は20世紀芸術史がご専門の収集家・研究者の沼辺信一氏。特集冒頭に「まずは黙って見てください」と書いてありますので、お言葉に甘えて、まずは絵本のビジュアルをたっぷり味わいましょう。特集記事内に満載された絵本の写真図版を楽しんだら、文章へ。充実した記事をご堪能あれ!


『こどもとしょかん』第133~140号、2012年4月~2014年1月

「お話の中の食べ物 ロシア編」(執筆者:松谷さやか)

ピロシキ、おだんごぱん(コロボーク)、ボルシチ、シチー、ウハー、サモワールを使って淹れた紅茶、カーシャ(お粥)、ブリヌィ。お話に登場するロシアの食べ物が、全8回の連載で紹介されています。この連載で紹介される「お話」の大半が絵本。ソヴィエト時代の作品も、現代の作品も、取り混ぜてご賞味ください。


『母の友』第725号、2013年10月

特集2 ロシア絵本の世界

特集記事の始めに、ロシア絵本の歴史がコンパクトにまとめられています。『チェブラーシカ』の原作者、エドゥアルド・ウスペンスキー氏や、アニメーション作家のユーリ・ノルシュテイン氏といった現代作家へのインタビューもぜひ!


 これらの展示本に加え、ファイル資料として、沼辺信一氏の「光吉夏弥旧蔵のロシア絵本について 【附録】白百合女子大学児童文化研究センター所蔵 光吉文庫 光吉夏弥旧蔵ロシア絵本リスト」を展示しています。

 本センター主催講演会の内容をもとにした、この特別寄稿は『白百合女子大学児童文化研究センター 研究論文集26』(2023年3月)に収録されており、大学図書館の学術機関リポジトリでも読むことができます。沼辺氏の論考は、今年の6月には絵本学会の第5回「日本絵本研究賞」を受賞しています。講演会の方も非常に充実しており、センタースタッフとしても、忘れられない講演会となりました。


2024年11月7日木曜日

ミニ展示 11月7日~14日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。


『読者としての子ども』

松岡享子 著

東京子ども図書館 2024年


 展示期間中も借りられます。お手に取ってご覧ください。

 普段はセンターに入って右奥、「小さな資料はこちら」のコーナーにあります。

 この本に収録された3つの講演録のうち、2つが『こどもとしょかん』からの再録、1つは音声記録をもとに編集部でまとめたものだそうです。『こどもとしょかん』バックナンバーは、センターに入って左側のキャビネットにあります。ぜひご覧ください。

2024年10月31日木曜日

ムナーリとレオーニ(48)

 1960年② ギャップ萌え


 1960年、レオーニは50歳になる。この年の年譜はシンプルである。
 
2冊目の絵本『ひとあしひとあし』を出版(1961年コルデコット賞次点)。(p.218
 
 前年に初めての絵本『あおくんときいろちゃん』を出版したばかりで、絵本作家としてはまだ「新人」といっても良さそうな人なのに、2作目でいきなりコルデコット賞次点とあって驚いた。だが、こんな驚きも、今まで私がレオーニの絵本作家という側面にばかり目を向けてきたことや、レオーニをひとりの創作者としてきちんと見てこなかった怠慢が原因なのかもしれない。グラフィック・デザインの領域では既に、レオーニは充分すぎるほどの実績を積んでいる。今まで読んできた年譜を通じ、彼の来歴を(その片鱗だけかもしれないけれど、ともかくも)学んできた。本当は、コルデコット賞次点のひとつやふたつ、驚くことでも何でもないのだ。
 『ひとあしひとあし』(原題Inch by Inch)は尺取虫を主人公とした物語の絵本。小さくて弱い者が知恵を使って危ない局面を切り抜ける、魅力的なお話である。日本では15年後の1975年、谷川俊太郎の翻訳で出版されている。図録に収録された論考「レオの絵本作り——初期の4冊を中心に」(文章:松岡希代子)によると、「この作品はレオにとってはじめてテキストとイメージの一貫性や、絵本としての表現に向き合って作った作品」(pp.193-194)とのことで、その制作は難しかったそうだ。絵本からは、そんな苦しみの跡は1ミリも見つからないのだが。
 レオーニはそれまで生きてきたうちのとても長い時間を、サラリーマンとして過ごしてきたし、会社を辞めてフリーランスになってからも、ビジネスの世界を生きてきた。松岡によると、子育ては妻のノーラに任せきりで、「子どもと遊んだりすることにも苦手意識を持っていたよう」(p.188)だったという。
 レオーニにとり、「子ども」は苦手分野だったのか…と、図録を眺めながら苦笑いしてしまう。そして、後年、彼が発表するぴかぴかの作品群との落差を思い、つい、「ギャップ萌え」してしまいそうになるのだった。
 
【書誌情報】
「レオ・レオーニ 年譜」『だれも知らないレオ・レオーニ』玄光社、2020年、pp.216-219 執筆担当者の表示なし
遠藤知恵子(センター助手)

2024年10月24日木曜日

ムナーリとレオーニ(47)

1960年① 1024日はムナーリの誕生日

本日、1024日はブルーノ・ムナーリの117回目の誕生日である。エスプレッソとティラミスでお祝いしたいところだが、まずは年譜を読もう。今回は1960年、ムナーリが53歳になる年である。

1960年のムナーリも、相変わらずイタリアをはじめヨーロッパを中心に精力的に作品展示をしているのだが、ムナーリはこの年に開催された世界デザイン会議(於・産業会館、東京、511-16日)に招聘され(※)、《偏光の映写》を上映する。ムナーリ、初めての日本訪問である。同時期(510-15日)に開催された「60/ワールド・グラフィック・デザイン展」にも出品している。展示会場は日本橋三越。う~む、やはり日本で展示となると場所は百貨店なのかと、感慨深い。

ところで、1958年にムナーリは瀧口修造の訪問を受けていたが、二人の交流はまず日本での作品上映という形で実を結ぶ。世界デザイン会議に先立ち、東京国立近代美術館の映写室で《偏光の映写》による「ダイレクト・プロジェクション」上映会が開催される(上映期間:15-24日)。翌月18日には草月アートセンターでも上映が行なわれる。国立近代美術館での上映会の折には、武満徹のテープ音楽「クワイエット・デザイン」が流されたそうだ。

〈直接の映写〉と〈偏光の映写〉、それぞれのシリーズを、図録で確かめることができる。図版がまとめてプリントされたページには、いくつものスライドに、それぞれ質感の異なる素材をマウントしたものが並んでいる。それらのスライドをプロジェクターで壁に直接映写する。図録では上映風景は分からないが、素材が持つ質感や色彩の断片が輝いている。そういえば、この輝き、日本の写真家の写真集で見たことがある。

今井壽恵(1931-2009)という写真家が手がけた企業広報誌『エナジー』の表紙写真には、ムナーリの《偏光の映写》シリーズとよく似た断片の輝きがある。『Hisae Imai』(戸田昌子監修、赤々舎、2022年)でまとめて〈ENERGY〉シリーズを見ることができる。この写真集を見ていたときに感じた輝きである。あくまでも、私がそういう印象を受けたというだけのことであって、影響関係が云々ということを言うつもりは全くない、というより、残念ながら知らないのである。ムナーリと違って今井の再評価はまだ始まったばかりで、写真の専門家でもない私にとって、今井は魅力的だがなかなか手が出せない写真家なのである。だが、何も知らないなりに、詩心に満ちた初期の作品は特に、文学との親和性が高くて興味深い。

ちなみに、何となく思いつきで「今井壽恵」「草月アートセンター」というキーワードを入れてGoogle検索してみたところ、「ジャズ」という言葉がパソコンの画面上に散見される。「えっ、ジャズ?」と意外さに打たれつつも、今度は「今井壽恵」「ジャズ」で検索しなおしたところ、渡邊未帆「日本のモダンジャズ、現代音楽、フリージャズの接点 ——草月アートセンターと新世紀音楽研究所の活動を例に——」(『東京芸術大学音楽部 紀要 第34号』20093月、pp.189-202)と出会った。ムナーリの活動の幅はとても広いけれど、この幅広さはこの時代、表現の最先端で活躍していた人たちみんなに共通するものであるらしい。ジャズか…私、ジャズのこともよく分からないなあ…ムナーリのお誕生日だからって、ティラミス食べてる場合じゃないかもしれない…と、胃袋がキュッと引き締まるのを感じるのだった(でも、やはりティラミスは食べたい)。

※ムナーリの日本での動向については、有福一昭「日本におけるブルーノ・ムナーリ」(『ブルーノ・ムナーリ』求龍堂、2018年、pp.316-323)を参照した。

 

【書誌情報】

奥田亜希子編「ブルーノ・ムナーリ年譜」『ブルーノ・ムナーリ』求龍堂、2018年、pp.342-357

遠藤知恵子(センター助手)

2024年10月17日木曜日

白百合祭閉室期間につきまして

 10月18日(金)から21日(月)まで、白百合祭期間(準備日と片付け日を含む)のため、児童文化研究センターは閉室とさせていただきます。ご不便をおかけしますが、なにとぞよろしくお願いいたします。

 なお、白百合祭の2日間は、1号館2階の院生室のあるエリア(センター含む)は「立入禁止」となります。

ミニ展示 10月17日~31日

センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。

『シルヴィーとブルーノ・完結編』

ルイス・キャロル 著 平倫子 訳

日本ルイス・キャロル協会 2016 

 『ミッシュマッシュ』特別号 第1巻です。普段は閉架資料ですので、この機会にお手に取ってご覧ください。

2024年10月11日金曜日

熊沢健児の密かな自慢

サイン、いただきました。

夏休みも何だかんだ忙しかったが、トークイベント「武井武雄のネットワーク」(目黒区美術館ワークショップ室、2024824日)には、頑張って行ってきた。

民藝運動の周辺(アウト・オブ・民藝)から見た人々の繋がりを、童画家、武井武雄を中心にひもとく対談。講師はデザイナーの軸原ヨウスケさんと美術家の中村裕太さんのお二人である。

児童文化研究をしている以上、外せない展覧会である上に、『アウト・オブ・民藝』(誠光社、2019年 ※)の著者が武井武雄について語るとは…! これは、聴きにいかねばなるまい。他の予定(これも私にとっては重要なものだったが)をキャンセルして目黒川を渡り、美術館へ向かった。このトークイベントは、目黒区美術館で開催された企画展「生誕130年 武井武雄展 ~幻想の世界へようこそ~」(会期:76日~825日)の関連イベントである。アウト・オブ・民藝と言えばやはり人物同士の相関図だが、壁に掲げられた人物相関図パネルは、武井武雄を中心に人々の繋がりの糸が張られた巨大な蜘蛛の巣のようだった。意外な関係や納得の繋がりを見つけることができて、かなりの長時間、楽しく眺めることができる、非常に興味深い蜘蛛の巣なのである。縮小版の相関図はハンドアウトになっており、観覧者は自由に手に取り、持ち帰ることができた。美術館の外(アウト・オブ・美術館…!)でも気軽に復習することができるし、小さくたたんでポシェットにしまっておけば、気になったときにちょっと広げて確かめることができる。

トークイベントは面白く、刺激的であるだけでなく、人物同士の「仲良し」が根底にあって、それらの人間関係をもとに数珠つなぎに話が進んでいくため、聴いていて何となく心が温まる(友達って、いいな…)。

イベント終了後は、話題になった資料を見せていただける時間(なんと太っ腹な!)。資料を見ながらお二人に話しかけることのできるタイミングをうかがい、そして——

「あ、あの…サインください!」

 差し出したのは、2022年発行の『アウト・オブ・民藝 ロマンチックなまなざし』(軸原氏・中村氏の共著、誠光社)。予習のために買って読んでおいた小さな冊子である。この冊子では、蜘蛛の巣状の相関図ではなく、ある日・ある所で出会ったふたりという、個人と個人の関係性に注目し、想像力によって史実をドラマへと復元しようとする。このように「ロマンチックな想像力を膨らませること」(p.5 中村氏「はじめに」より)は、我々学問の徒には許されていないことだが、というより、許されていないからこそ大事にしたい。

ところで、軸原氏・中村氏は快くこの本にサインをくださった。表題紙に並ぶふたつのこけしのサインである。こけしの枠をえがいてくださったのは軸原氏。眼鏡をかけた中村氏のこけしは、ちょっとよそ見をしている。

 ※※

どちらのこけしも、ご本人に似ているようで似ていないところが可愛らしい。ありがとうございます。大事にします。


※よろしければ、過去の記事「熊沢健児のお気に入り本」(2019.12.5)をご参照ください。熊沢は軸原氏・中村氏の隠れファンです。

※※熊沢が持っているのは、サイン入りの『アウト・オブ・民藝 ロマンチックなまなざし』です。素敵な表紙図案を手がけられたのは、安藤隆一郎氏。造本は軸原氏が担当しています。