2025年10月23日木曜日

ムナーリとレオーニ(52)

1963

 1963年のレオーニは、1950年から制作していた「想像肖像」シリーズの作品を、ミラノのナヴィリオ・ギャラリーで展示。実在する人も、実在しない人もモデルになっているという面白いシリーズである。また、この年、レオーニの代表作中の代表作が出版される。『スイミー』である。レオーニにとって4冊目となるこの絵本は、1964年のコルデコット賞次点に、そして、1967年第1回プラスチラバ世界絵本原画展で「金のりんご賞」を受賞する。日本では、谷川俊太郎訳で1969年に好学社から刊行されている。小学校の国語教科書に掲載されたり、是枝裕和監督の映画『万引き家族』(2018年)に登場したり、『スイミー』ほどたくさんの人に親しまれている作品はないのではないだろうか。

しかし、「だれも知らないレオ・レオーニ」展図録によると、『スイミー』の原画は行方不明だそうだ。会場で「原画」として展示されていたのは、レオーニが制作した別ヴァージョンのものである。レオーニは『スイミー』制作にあたって、モノタイプという、偶然を活かした版画技法を用いており、同展開催前に行われた調査で、関連作品が大量に発見されている(松岡希代子「『スイミー』原画の謎」p.185)。それにしても、本物の原画はどこにあるのだろう。探し物の常として、忘れかけた頃に思いがけないところからひょっこり出てくるのかもしれない。見つかったら、それは絵本史に残る大発見になる。

さて、1963年のムナーリはと言えば、相変わらず精力的に作品発表をしている。個展を1回と、グループ展を5回。

ところで、前回、1962年にオリヴェッティ店舗で開催されたグループ展について、ウンベルト・エーコの『開かれた作品』についてのリポートを熊沢健児氏にお願いしようと書いた。しかし、「頼めば34週間で書いてくれるはずだ」という私の言葉が熊沢氏の気に障ったらしく「そんな簡単に書けないよ!」と叱られてしまった。あれからもう数か月も経つのに、会うたびにご機嫌斜めである。自分で読んでリポートするしかないのか…困った。

ご機嫌斜めで、背を向けて寝っ転がる熊沢氏。
普段は、下の画像に見る通りの紳士です。

熊沢健児(くまざわ・けんじ)
児童文化研究センター名誉研究員(ぬいぐるみ)。
センター入り口のミニ展示の隣で皆さまをお迎えします。

【書誌情報】

奥田亜希子編「ブルーノ・ムナーリ年譜」『ブルーノ・ムナーリ』求龍堂、2018年、pp.342-357

「レオ・レオーニ 年譜」『だれも知らないレオ・レオーニ』玄光社、2020年、pp.216-219 ※執筆担当者の表示なし

遠藤知恵子(センター助手)

2025年10月17日金曜日

白百合祭期間の閉室につきまして

 白百合祭開催に伴い、児童文化研究センターは、10月24日(金)から27日(月)まで閉室とさせていただきます。

 ご不便をおかけいたしますが、なにとぞご了承くださいませ。

2025年10月16日木曜日

ミニ展示 10月16~31日

秋の夜は ねる子おこして遊びたく 茂田井武


 「秋の夜は ねる子おこして遊びたく」…こんな句を詠んだ茂田井武の絵ばなし(絵物語)を展示します。


展示中の本

ヱバナシ フシギナコドモタチ

もたいたけし文庫10 山口卓三 編 トムズボックス 2000年


収録作品

「フシギナコドモタチ」より

茂田井武 画・文「フシギナコドモタチ」

教養社 1947年 

 トモキチとマリ子が三時のおやつを食べようとしたちょうどそのとき、掛け軸の絵に描かれた仙人と仙女が二人を呼びました。呼ばれるがまま、掛け軸の中へ歩いていくと、そこは不思議な子どもの国でした。






南江治郎 作 茂田井武 画「お日さまの歌」

掲載誌:『子供雑誌』(白鳥社)新年号 1948年1月

「お日さまの歌」より

 人形劇ですが、脚本を省き茂田井による絵のみ収録されているため、まるで人形によるパントマイムのようです。ユーモラスなライオンの表情や、ペタペタ、ノシノシと歩むペンギンの仕草など、魅力たっぷりです。


「星の輪」より

茂田井武 作「星の輪」

掲載誌:『子供雑誌』(白鳥社)2巻3-5号 1947年7・8月-11・12月

 凧ちゃんは、凧つくりの名人です。ある日、先生に呼び出され、外務省の人に連れて行かれます。行き先は港でした。凧ちゃんは外務省の人からジャケツ上着)と易しい英語の字引(辞書)とパスポート、そして手紙と証明書を渡され、一人で船に乗り込みます。船の行く先は…?







 冒頭に引用した句は、茂田井武の1946年10月7日の句日記にあったもので、ウェブサイト『茂田井武びじゅつかん』「展示室1」、10月のページより引いたものです(http://www.y-poche.com/motai/01_tenji01/index.html)。

2025年10月3日金曜日

猫村たたみの三文庫(非)公式ガイド 番外編

猫村たたみ、出版社の社史を耽読する


 この記事は、白百合女子大学児童文化研究センターオリジナルキャラクター「猫村たたみ(ねこむら・たたみ)」によるものです。猫村は、児童文化研究センターの貴重書庫「三文庫」を図書館司書として守り、その魅力を広く伝えるという職務遂行上の理由から、語尾に「にゃ」をつけたいわゆる「キャラ語」を用います。本ブログ記事をお読みくださる皆様におかれましては、キャラクターの性質をご理解の上、猫村たたみの世界観をお楽しみくださいますよう、お願い申し上げます。


皆さま、ご機嫌いかがかにゃ?

 三文庫の守り猫、猫村たたみですにゃ。2025年度後期が始まって、皆さまにお会いできることが嬉しくてたまらないのにゃ~。

 新年度が始まったときにも申し上げました通り、私の2025年度の目標は「原点回帰」なのですにゃ! 図書館司書としての知識に磨きをかけるため、今年度は本についての本を、一生懸命、読んでおりますのにゃ。

この数週間ほどは、出版社の社史が面白くて、児童文化研究センターの本棚の、あまり使われていないゾーンにうらぶれているのを引っ張り出しては楽しんでいるのにゃよ。たとえば、『偕成社の歩みⅡ[一九八五-一九九六]』(偕成社、1997年)には、こんなくだりがあるのにゃよ。

 

七月[1987年7月にゃ!:猫村]、俳優石原裕次郎がガンで五十二歳の生涯を閉じ、葬儀にはその死を悼んで三万人のファンが参列した。裕次郎は戦後の青春像のシンボルだったが、幼児のシンボルといえば、なんといっても「ノンタン」であろう。(p.17

 

 1987年の世相と出版物とを結び付けながら、同じ年に刊行が始まった〈赤ちゃん版ノンタン〉シリーズを紹介するのにゃよ(「ノンタン」シリーズ誕生は1976年にゃよ。その頃の石原裕次郎さんはというと、石原プロが初めて本格的にテレビドラマを手がけた、「大都会」シリーズの放映が始まっていたのにゃ)。「青春像のシンボル」=石原裕次郎さん、「幼児のシンボル」=ノンタンって並べると、ノンタンが格好良く、石原裕次郎さんが可愛く思えてくるのにゃ。石原さんもノンタンも、やんちゃなプレイが魅力にゃし、実は似た者同士にゃったのかもしれないのにゃね~。

 読み応えのある長編も、キャラクターの可愛らしさたっぷりの絵本も、学習教材にもなるノンフィクションや、図鑑や事典も、出版された順番に紹介されているから、児童書出版を通じて、それぞれの時代を考えることができて味わい深いのにゃ~。

2025年9月19日金曜日

ミニ展示 9月19日~10月15日

 10月15日は、本学児童文化学科で創作の授業を担当された舟崎克彦先生のご命日に当たります。2025年は舟崎先生生誕80年、没後10年の節目の年です。

 2025年度後期最初のミニ展示は、センター蔵書から、舟崎先生が手がけられた絵本や関連書籍をピックアップしました。センターにお立ち寄りの際はぜひ、入り口のミニ展示と、入って右側の壁に掛けられた絵本原画[舟崎先生作『うわさのマメずきん』(あかね書房、1994年)に、長新太さんが描かれた絵]をご覧いただき、先生の思い出話に花を咲かせてください。


【展示中の書籍】

『ネギでちゅ』

舟崎克彦 作・絵

ポプラ社 2003年


 なんでもできるけれど、なんにもしない。玉葱にそっくりの茶トラの猫、ネギちゃんのお話です。


『ギャバンじいさん』

舟崎克彦 作 井上洋介 絵

パロル舎 2006年


 吹雪で狩りに出られないギャバンじいさんの家にやってきたのは、凍えたウサギ。そして、そのウサギを追ってやってきたのは…。さてさて、狩人のギャバンじいさんはどんな行動に出るのでしょうか?


『魔もののおくりもの』

舟崎克彦 作 宇野亜喜良 画

小学館 2008年


 人を不幸にすることに厭きた魔ものは、今度は人を幸せにすることに決めました。魔ものは不幸せそうな少女を誘拐し、少女を喜ばせようとあの手この手を使うのですが…。


『ここにいる』

舟崎克彦 詩 味戸ケイコ 画

ポプラ社 2011年


 こちらは、詩の絵本。大切な人の不在を抱きしめる少女のひとり語りとして、一篇の詩が綴られています。


『現代児童文学作家対談5

那須正幹・舟崎克彦・三田村信行』

神宮輝夫 インタビューア

偕成社 1989年


 神宮輝夫先生によるインタビューに作家さんたちが応えるこの本で、舟崎先生のページを開いて最初に気づくのは、註の多さ(那須正幹さん24個、舟崎克彦先生44個(!)、三田村信行さん29個)。註とは、文章につけてその部分の意味を説明したり、補足したり、あるいは情報の出所を示したりするもので、私たちの論文執筆にも欠かせない重要な要素です。

 どんな作家さんも、現実のあらゆる物事に知的アンテナを伸ばし、それらと自分の創作活動を結びつけながら、いきいきとした物語を綴っていらっしゃるわけですが、そのように伸ばした知的アンテナの数が註の数に影響しているとしたら、舟崎先生は飛びぬけて多くの知的アンテナをお持ちだったのかもしれません。

 白百合女子大学児童文化学科OGにとって「舟崎克彦先生」といえば、入学式にはタキシード、真夏は麻のスーツを着こなし、ママチャリに乗るときはジャージといったように、TPOに合わせてビシッとお洒落に決める、素敵な作家の先生でした。この対談集に収められた写真3点のうちの1点には、豚さんと一緒に『エイリアン』を読む、ワイルドなタンクトップ姿の舟崎先生のお姿があります。これは一体、どんなTPOに合せているのでしょうか…?


 今回のミニ展示でご紹介した4冊の絵本のうち、3冊はそれぞれ、井上洋介さん、宇野亜喜良さん、味戸ケイコさんが絵(画)を担当されています。どの絵本も個性的であると同時に、人間が生きるということに対しての根源的な問いかけを含んでおり、絵とことばが協働してその問いを美しくえがきだしています。センターにお越しの際には、ぜひ、お手に取ってご覧ください。

2025年7月30日水曜日

夏期閉室のお知らせ

児童文化研究センターは、
7月30日(水)から9月18日(木)まで
閉室とさせていただきます。

ご不便をおかけいたしますが、
なにとぞご了承くださいませ。

こまめに水分を補給して
どうかご無事にお過ごしください。

2025年7月24日木曜日

センター入り口の展示替え

展示中の本


『ムーミン谷への旅:トーベ・ヤンソンとムーミンの世界』
株式会社講談社 企画・構成 講談社 1994年

 展示中も借りられます。ぜひお手に取ってご覧ください。
 一緒に展示している、「スノークのおじょうさん」のパペットもご利用いただけます。センターの外に持ち出す場合は、貸し出しファイルにご記入ください。