2021年4月8日木曜日
青い鳥と青い花
2021年3月16日火曜日
創作童話
第36回 日産 童話と絵本のグランプリ 佳作 受賞作品
『雨の日は桜色』
三井 彩愛
わたしは足を踏み鳴らし、灰色の空を仰ぎながら待っていた。大量に降っている雫が少しでも収まるのを。雲の切れ間から日光が射し込むのを。
「雨なんて聞いてないんだけど……。朝はくもりだったのに」
ため息とともに、ひとりごとが漏れた。置き傘もしていなければ、相合い傘をして帰る友だちもいなかった。一番の仲良しの葵は親せきのお葬式で欠席していた。今日、掃除当番が一緒だった結衣は習いごとがあると言って、そそくさと帰ってしまった。
校舎に戻って壁の時計を見てみた。もう四時を過ぎていた。そろそろ帰らないと、お母さんに叱られるかもしれない。でも、雨は一向に収まる気配がない。それどころか雨の勢いは増してきている。
ざあざあ降り続ける雨を見ているうちに、やぶれかぶれになってきた。ええい、仕方がない。走って帰ってやる。小学校から家までは歩いて十五分ほどかかるけど、走れば半分くらいの時間で済むだろう。
覚悟を決めて右足を前に踏み出した、そのときだ。わたしは誰かに腕を強くつかまれた。バランスを崩し、うしろによろめきそうになった。
「傘ないの? 入りなよ」
わたしのとなりに立ち、傘を掲げながらぶっきらぼうに言ったのはクラスメートの古池美帆だった。
「……どうも」
五年生に進級して同じクラスになってから、ほとんど話したことのない美帆が急に親切にしてくれたことに驚いたけれど、わたしは素直に彼女の好意に甘えることにした。
わたしと美帆は連れ立って学校をあとにした。美帆の傘は無地の淡い桜色をしていた。見ているだけで自然と笑みがこぼれそうな、やさしげな桜色だ。
「家はどこ?」
校門を出たところで、美帆がこう尋ねてきた。
「すみれ公園の近くだよ」
「そう」
それっきり、美帆は何も言わなかった。わたしも黙っていた。
わたしたちは無言で歩いていた。沈黙が広がる。聞こえるのは、桜色の傘とぶつかり合う雨音だけだ。
わたしは美帆に何か話題を作っておしゃべりをしようとしたが、うまく言葉が出てこない。もし、今となりにいるのが葵や他の友だちなら、他愛のないおしゃべりをして盛り上がることだろう。しかし、美帆とは何を話していいのかわからなかった。
そもそも、美帆が誰かと一緒にいたり会話をしているのを見た覚えがない。休み時間はいつも一人で席についてブックカバーのついた本を読んでいる。あるいは頬づえをついて静かに座っている。笑顔もめったに見せない。美帆のことを「すましてるよね」「お高くとまってない?」などと悪く言う女の子も何人かいる。わたしも、嫌悪感までは抱かないものの、何となく近寄りがたい気がして親しく出来ないでいた。だから、美帆がすぐそばにいることは、わたしをとても不思議な気分にさせた。
しばらくうつむいていた私は顔を上げ、静寂の中の雨景色を楽しむことにした。
軒先に下がった手作りのてるてる坊主。
庭に咲く、葉が露にぬれた花々。
歓声をあげて、水たまりを踏んでいく長靴をはいた男の子。
どれもこれも、今までは通り過ぎていたものばかりだ。ぱらぱらとした雨音も、次第に心地いいものになってきた。水たまりに踏みこんでしまったけれど、気にならない。はじける水音すら楽しげに聞こえた。
視線を美帆に移した。彼女はまっすぐ前を向いていた。そのまなざしは、まばゆい光を宿していた。こんな目をしている人は見たことがない。もしかしたら、美帆もわたしと同じように雨の日の風景を眺めているのだろうか? それとも――。
美帆は、雨の日に、わたしがとなりにいることに何を思っているのだろうか?
思い切って尋ねようとしたときには、すみれ公園についていた。もう公園だなんて、信じられない。歩いている時は、いつも以上に時間の流れがゆっくりに感じられたのに。
わたしは足を止め、笑顔を作って言った。
「美帆ちゃん、ありがとう。わたしの家、ここをまっすぐ行ってすぐだから、あとは走って帰るね」
体の向きを変えて走り出そうとすると、美帆が手を握ってきた。
「えっ、何?」
わたしがあわてて振り返ると、美帆は手をつないだまま、わたしのあいているほうの手にあの桜色の傘を持たせた。そして、今まで歩いてきた道を走り去っていった。
あまりにも突然のことだったので、わたしは追いかけることも声をかけることも出来ずに、立ち尽くしていた。傘の柄には、まだ温もりが残っていた。
そういえば、美帆の家はどの辺りにあったのかな?
わたしの頭の中にそんな考えが浮かんだのは、とぼとぼ歩き始めてすぐのことだった。
ひょっとしたら、すみれ公園とは反対方面に住んでいるのに、わざわざわたしのために公園のそばまで来てくれたのかもしれない。
そう思うと、胸がちくりと痛んだ、好きになりかけていた雨が再び憎らしくなってきた。
家に着いたのは四時半過ぎだった。わたしは洗面所からタオルを持ってきて、美帆の桜色の傘についた雫を丁寧にふき取った。
次の日は雲がまばらに浮かんでいたけれども、澄んだ青空が広がっていた。
わたしは教室に入ってすぐに、傘を返しに美帆のもとへ駆け寄った。相変わらず、分厚い小説を読んでいる。
「昨日は本当にありがとね。助かったよ」
傘置き場に桜色の傘を立てておくだけでもよかったけれど、きちんと面と向かって、お礼を言いたかった。
「わざわざ教室まで持ってこなくてもいいのに……」
美帆はこうつぶやきながらも、頬を染めていとおしそうに桜色の傘を見つめていた。
「あれから雨は大丈夫だった?」
わたしの問いかけに、美帆は「大丈夫だから心配しないで」と言いたそうに目を合わせて、うなずいた。
そして、美帆は桜色の傘を手に立ち上がり、教室のドアへゆっくりと歩いていった。
あとを追ってもっと話をしようと一歩前へ出たところで、葵に声をかけられた。
「おはよう! 昨日はどうだった?」
わたしは葵に帰り道の出来事を話そうと口を開きかけたが、やめた。美帆と歩いたあのときのことは、わたしの中だけに大切にしまっておこう。
※日産には「もりかのん」というペンネームで応募いたしました。
2020年12月3日木曜日
ぬいぐるみ大好き!
~ユニベア編~
かなり唐突であるが、ぜひとも語りたいぬいぐるみのシリーズがある。
ディズニー・ストア限定のぬいぐるみ、UniBEARSity(通称:ユニベア)についてだ。
これはディズニー・キャラクターを模したテディベアシリーズのことを指す。
「なぜクマなのか?」と首をかしげる方も多いことだろう。
それにはちゃんとした理由がある。
これらのクマには制作された経緯・物語が存在する。このクマの一連のシリーズのはじまりは、おなじみミッキー、ミニー、ドナルド、グーフィ―などのユニベアである。
このユニベアたちは、なんとミッキーたちが作ったものなのだ。
作った理由は、クマがシンボルの学校に通うミッキーたち。
その授業の課題でクマの物語を制作する課題が出たミッキーたちが、物語を作るために、テディベアをそれぞれ作ったのである。これがユニベアのせって…誕生秘話である。
(https://shopdisney.disney.co.jp/special/unibearsity-content.html)
わかる。つっこみどころはたくさんあることは私にもわかる。
しかし、そんなことは問題ではない。
このユニベアシリーズ、とっっってもかわいいのである。(*もちろん、好みや感じ方に個人差はあります)
可愛いものは、私にとっては些末なことを忘れさせる。恐ろしや。
これ以外でも最近ではユニベアシリーズには「プリンセス」シリーズのものや、期間限定のさまざまな物語の人物を模したベアが続々出されている。
ディズニー・シーでもダッフィーというかわいいクマが存在するが、ディズニー・ストアだって負けていない。
気になる方はぜひ、ディズニー・ストアに足を運んでいただきたい。
もしかすると、気に入ったクマが見つかるかもしれない。
阿部泉
2019年10月31日木曜日
金田くん
※青い字で書かれた氏名はペンネームです。
2019年7月15日月曜日
『なぞなぞ』 ~おばあさんは何者か?~
私は不思議な話を探していました。しかし、図書館を探してみても、本屋さんを探してみても、ピンとくるものがありません。どうしたものかと頭を抱えながら、先週、大学内の森の中をぶらぶらと散歩をしていました。それは夕暮れの時のことでした。人はまばらで、ましてや森の中には人の気配すら感じられません。私はますます考え事にのめり込みました。あまりに没頭していたためか、突然私の左側の茂みから、烏の鳴き声が聞こえた時、思わずびっくりして立ち止まりました。それと同時にバサバサという羽音が左右どちらからも聞こえ、頭上の木の枝が揺らされる音が響きました。
私はすっかり怯えてしまい、辺りをキョロキョロ見まわしました。そして目の前に見知らぬ女の人が佇んでいることに気づき、ハッと息を呑みました。先ほどまで誰もいなかったはずなのに。その人は7月だというのに、黒い厚手のコートを羽織っていました。真っ黒な長い髪、青白い肌。不自然なほどに大きな目。真っ黒なその目には光がありません。そして、下は黒いタイツに包まれた足を冬用のスノーブーツの中に突っ込んでいました。私はとっさに逃げようと思いましたが、体が上手く動きません。「あなた、不思議な話が読みたいんでしょう?」女の人はそういうと、動けない私にどんどんと近づいて来ました。そして私の目の前に来ると、一冊の本を差し出しました。「これ、読むといいわ」そう言って無理やり私の手にその本を押し付けると、くるりと背を向けて去っていきました。
こんにちは〈SF・ファンタジー小説の研究と創作プロジェクト〉です。今回このプロジェクトでは、前回に引き続きClose Readingを行いました。そして扱った作品は、ウォルター・デ・ラ・メアという20世紀のイギリスの小説家・詩人のもので、『なぞなぞ』という名前の作品です。ストーリーを簡単にご説明いたしますと、おばあさまの家で暮らすことになった7人の子どもたちが、近づいてはいけないと言われていた木のひつの中へと次々に消えていき、最後には子ども全員が消えていなくなってしまう、と言うものです。
この話を見ていくうちに、子どもたちを引き取ったおばあさんのどこか不気味な行動が注目されました。おばあさんは子どもたちに優しく、針箱や、ジャックナイフ、まりなどをそれぞれに贈ります。しかしよくよく考えてみると、まりはともかくとしても、針箱やジャックナイフなど、どこか危険なものであり、子どもに与えるのにあまりふさわしくないものではないでしょうか。そして子どもたちに「家のどこで遊んでもかまわないが、大きな予備の寝室にある、木のひつにだけは近づかないように」と強く言い含めます。ここまで読むと、7人の子どもたちや、行ってはいけない禁令の要素などが、昔話を彷彿させます。そう考えると上記のジャックナイフなども、孤立的な道具として、後で何かしらに使われるのではないでしょうか。しかし、残念ながら、それらの道具は子どもたちに手渡された後、一度も姿を見せることは無いのです。さらに、最初に1人の子が消えた後、おばあさんは「じゃあ、あの子はとうぶん、いったきりになるんだろうねえ」(デ・ラ・メア、166)、そして残された子どもたちに再度「絶対にあのひつに近寄るな」と言うのです。これらの謎めいたおばあさんの言動は不気味であり、恐ろしささえ感じられます。このことについて「作者が不穏なものを見せて読者を誘導し、あやしさを強化・強調していっている」という指摘がありました。確かに話を読み進めていくたび、不穏さや不気味さが増していっている気がします。また「おばあさんの不自然な様子を増していくことで、不思議な世界へと入りやすくしている」との指摘もありました。もう1人の子どもが消えると、おばあさんは「あの子たちはいつか、おまえたちのところに帰ってくるかもしれないよ」(デ・ラ・メア、167)、「あるいは、おまえたちがあの子たちのところへいくことになるのかもしれない」(デ・ラ・メア、167)などと、謎めいたことを言います。また、残された子どもたちに木のひつのところへと行かないように言うのですが、このときは言いつけを「できるだけ守るんですよ」(デ・ラ・メア、167)と言い、前よりも強制力が低いニュアンスで子どもたちに言いつけています。
このおばあさんは意図的に子どもたちを誘導しているのだ、とする意見や、おばあさんは彼らがどうなったかは知っているが誘導しているわけではない、という意見、または安房直子さんの話に似たような人さらいの話があったことを思い出し、それが木の精であったことから、このおばあさんは木の精ではないだろうか、という意見もありました。
このおばあさんは何者なのか、子どもたちはどうなってしまったのか。物語が進んでいくうちに謎はどんどん増えていきます。それが最後には明かされるだろうという期待を持ちながら、意見を交わしていきましたが…結局子どもたちは全員消え、おばあさんが何者か明かされることも、子どもたちがどこへ消えたのかも明かされることはなく、この物語は幕を閉じるのでした。
この結末は謎が謎のまま終わってしまい、あとは読者が考えるというようなオープンエンドの形式をとっています。すっきりしない終わり方に、「これは話になっていない」と言う意見も出ました。また、「ファンタジーは謎を解いた形で終わらせるか、謎を謎のままにしておくかは作者によりけりである」という意見がありました。ちなみにメンバーの中では謎をすっきり解いてしまう終わり方の方が良いとする方の方が多かったです。しかし、私は何とも言えない不気味で不思議な気分を味わえますので、こういった謎が多く残る物語も好きです。皆さんはどちらの方がお好みでしょうか。
私は謎の女の人に手渡された本の1編をClose Readingに用いました。そしてこの本が大学図書館のものであることを、本についているバーコードで確認しました。あの人が一体どこの誰なのか。私には皆目見当がつきません。しかし図書館のものである以上、返さなくてはなりません。しかし、この本は直接私が借りたものではない。借りたものを手渡されたのです。これは図書館の利用上ルール違反です。あの女の人が見つかれば、すぐに手渡すつもりでしたが、私にはその人をどうすれば探し出せるのかわかりませんでした。
仕方なく、私は図書館へと向かい、ドキドキしながら本を差し出しました。問いただされたら、しっかりと事情を説明するつもりだったのです。しかし、意外にも受付の人は普通に応対し、返却処理を施そうとしました。私はびっくりして思わず、受付の人を呼び止め、事情を焦って伝えました。「え?いや、そんなはずは…」受付の女性は驚いたように私とパソコンの画面のデータを見比べていました。「ここにはちゃんとデータが残っていますよ」そう言って、その画面を見るように私を促したのです。
果たしてそこにはしっかりとその本の貸し出し記録が残されていました。学生証には写真がついていますので、仮にあの女の人が私の学生証を勝手に使って借りようとしても、止められていたことでしょう。それにあの時が初対面でしたのに、どうやって私の学生証を奪えるのでしょうか。本の裏についていた返却日時から逆算すると、その1ヵ月前に借りていたということになります。そうすると、どう考えても、私があの女の人に出会うずっと前に借りられていたことになるのです。
「あの…」受付の女性は、明らかに不審そうに私を見やりました。何か胡散臭いものを見るような眼差しです。「あ、あの…勘違いでした……私が、借りていました。すみません…ちょっとぼーっとしていて…」私はそう言うしかありませんでした。
あの女の人は何者だったのか。どうしてあの本を私に渡してくれたのか。幽霊だったのか、幻だったのか…今でも私には分かりません。そしてあれ以来、その女の人を見かけることはありませんでした。
参考文献
デ・ラ・メア、ウォルター「なぞなぞ」、『デ・ラ・メア物語集2』、マクワガ葉子訳(大日本図書株式会社、1997)、p163-170