2019年9月27日金曜日

熊沢健児、マンガ・叙情画・紙芝居の旅

  調べ物のため関西に行ったので、その帰りに、2006年の開館当時から気になっていた京都国際マンガミュージアムに立ち寄った。

その日はまだ8月の初め。夏休みの子ども達でいっぱいに違いない…と、多少の騒がしさは覚悟の上で入館したのだが、館内には子どもや親子連ればかりではなく、あらゆる世代の人々が訪れていた。来館者の国籍もさまざまで、私が行ったときには、フランス語でささやきあうように会話する家族が二組と、たくさんの中国系の親子がいた。「国際」と銘打つだけあって、訪れる人たちもバラエティ豊かなのだ。さすがである。
この、京都国際マンガミュージアムでは、館内13階の壁にめぐらされたマンガの書架「マンガの壁」から好きなマンガを出して読むことができる。昭和初期に建造された龍池小学校の校舎を活用したというモダンなたたずまいの建物で、屋外の芝生の上で、好きな姿勢でマンガを読める。また、登録を済ませた上で事前予約をすれば、研究閲覧室で25万点もの資料の中から必要なものを閲覧することができる。ここは、日本国内のマンガ文化の拠点の一つなのだ。
定期的にイベントや期間限定の展示が行われ、私が訪れたときには、叙情画で知られる蕗谷虹児も投稿していたという、「パリの最先端ヴィジュアル雑誌」(HPの紹介文より)の展示があった。映画『リリーのすべて』のモデルになった、ゲアダ・ヴィーイナの作品も間近で見ることができた。非常に小規模だが、一緒に開催中だった展示「竹宮恵子 カレイドスコープ 50th Anniversary」をより深く楽しむことができたような気がして、なんだか得した気分になれる内容だった。
このミュージアムでは、マンガ文化に関連するさまざまな作品を扱う。叙情画のルーツとなったと考えられるヴィジュアル雑誌も少女マンガの源流の一つに数えられるわけだが、紙芝居もマンガとともに子ども達の文化を作り上げるメディアの一つとして扱われている。紙芝居実演も、このミュージアムの名物らしかった。館内2階には「紙芝居小屋」(そう名づけられた部屋があるのだ)が設えられており、ここではほとんど毎日、「ヤッサン一座の紙芝居」による紙芝居パフォーマンスをやっている。もちろん、観に行った。

 時間になると、人でいっぱいになる紙芝居小屋。ここで皆さんご存知の『黄金バット』の始まり始まり~…と、思ったら、この日の実演者らっきょむさんのオリジナル紙芝居で、まずはクイズ。シルエットで描かれたキャラクターを当てたり、英語でキャラクターの名前を言い換えたり。ぬいぐるみとはいえ私も一応は大人なのだから、子ども達から回答の機会を奪ってはならないと自分に言い聞かせていたのだが…

らっきょむさん 「鉄腕アトムを英語で言うと?」
熊沢      「アストロボーイ!」(即答)

 し…しまった! つい…

 そんなわけで、正解のごほうびに、針金とプラスチックでできた「正真正銘の偽物」(らっきょむさん談)の指輪をお土産に持ち帰ることとなった。

実演後、らっきょむさんには、実演者ならではのお話を聞かせていただき、ミルクせんべいにはさんだ水あめやカタヌキをいただいた(これぞ「ザ・駄菓子」という味がした)。何から何まですみません…。どうもありがとうございました。

一緒に紙芝居を観たフランス人の方からは“C’était très bizarre! (風変わりで面白かったよ!)”という感想も聞かれた。言葉は分からなかったけれど、理解はできて面白かったそうだ。世代も性別も国籍も関係なく、何となくワクワクした空気の漂う(しかし、ちょっと薄暗い)会場をみんなでいっしょに満喫したのだった。

熊沢健児(ぬいぐるみ、名誉研究員)

当時開催中だった展示

「竹宮恵子 カレイドスコープ 50th Anniversary
展示期間 2019427日(土)~98日(日)

「少女マンガのルーツか!? パリ20世紀初頭の風俗漫画雑誌」
展示期間 201983日(土)~11月末日
※展示入れ替えあり
この展示を紹介するホームページのURL (最終閲覧日2019822日) https://www.kyotomm.jp/event/exh_early20thcenturyparisianmagazines/
荒俣宏館長企画・プロデュース「大マンガラクタ館」第5回として、館長自身のコレクションから、『La Vie Parisienne』『La Bïnnette』ほか、191030年代のフランスで観光されたヴィジュアル雑誌約20点を展示している(上記ホームページの情報)。

出不精ながら、展覧会へ その2


みんなのレオ・レオーニ展


 展覧会タイトルにデジャヴを覚えつつ、行ってきました。「みんなのレオ・レオーニ展」。小学生のとき教科書に載っていた、あの『スイミー』の原画。普段はスロバキア国立美術館に所蔵されているそうです。本展を逃したら、見る機会はもうないのではと、重い腰をあげたのでした。

 東京会場は、新宿駅からほど近い高層ビルの42(※11階には、レオ・レオーニのグッズショップが開設されていました。グッズの多さに驚きつつ、エレベーターホールの方を向くと、そこにはすでに行列が。開館直後の時間帯でしたが、会期末も近い三連休の中日だったからでしょうか。来館者の二割ほどは親子連れで(※2、老若男女、幅広い客層です。10分弱で高速エレベーターに乗り、会場へ。

 会場入口には、レオーニのアニメーション作品を座って鑑賞できるエリアがありました。後でわかったのですが、出口付近にも、同じ映像を音声なしの字幕付きで立ち見できるスポットがあります。入口には他にも、著名人がレオーニの絵本を一作選び、コメントを寄せたボードが。特に、映画『万引き家族』で少年に『スイミー』を音読させた、是枝裕和監督のメッセージが印象的でした。これらのコメントは図録に載っておらず、ここでしか読めません。

エレベーターが入場制限代わりになっているのか、中に入ってからは混雑を感じませんでした。小さなお子さんも静かに作品を観ていて、ゆったりと鑑賞できます。作品リストにメモをしていると、スタッフの方が「下敷き代わりにどうぞ」と、クリップボードを貸してくださいました。書きやすく、ありがたかったです。

 実は、前日に図書館でレオーニの絵本を読み、予習してきたのですが、その必要はありませんでした。展示内容に合わせて絵本が置いてあり、自由に読むことができたからです。読書スペースや壁際で、大人も子どもも無言で読みふけっていました。

 原画は絵本よりも色がかなり濃く、鮮やかです。これまでも展覧会に行くたびに、原画と印刷物の色が違うことに驚いたものですが、今回もそれを強く感じました。レオーニ自身が制作したアニメーションも、作画素材によるコラージュと比べると、かなり淡い色調になっています。

本展の見どころは三つ。一つ目は、『スイミー』の原画。絵本の写真と並べて展示されているため、原画と絵本の色やタッチが全然違うのが一目瞭然です。なぜそんなことが起こり得るのか? その謎を、レオーニが好んだ版画技法「モノタイプ」の解説映像を交えた展示で、解き明かしていました。

二つ目は、レオーニのインタビュー映像及び、孫娘アニー・レオーニとエリック・カールとの対談映像。エリック・カールが「ニューヨーク・タイムズ」のグラフィック・デザイナーとして就職したのは、レオ・レオーニの紹介があったからなのです。レオーニに電話し、「ぼくはあなたの作品が大好きだから、あなたもぼくの作品を気に入るに違いありません」と言ったエリック・カールに、度肝を抜かれました。

三つ目は、最初の絵本作品『あおくんときいろちゃん』(1959年)が生まれたきっかけについての解説。孫娘アニーによると、きっかけのひとつが、ブリュッセル万国博覧会のパビリオン閉鎖事件でした。レオーニは「周囲と一人だけ違う」主人公をよく描きます。中でも、周囲との違いが「色」にあるのが、『スイミー』(1963年)、『チコと きんいろの つばさ』(1964年)、『みどりの しっぽの ねずみ』(1973年)。なぜ色の違いにこだわるのだろうかと疑問でしたが、この解説を読み、理解できました。レオーニは人種差別や戦争を憎み、作品を通して平和を訴え続けたのです。本展のタイトルにある「みんな」は、平和を求める世界中の人々を意味しているのだと納得しました。

ミュージアム・ショップでは、一部のポストカードが品切れに。会期末近くに来たことを悔やみつつ、図録を購入して、家路につきました。
〔敬称略〕

展覧会に行った日:2019915
文責:出不精ながら

1:この美術館は、隣に建設中の建物に移転するため、42階の会場は次回の企画展が最後になります。入口付近からの眺望も魅力に感じていたので、少々残念です。移転後も、ゴッホの『ひまわり』をはじめとする収蔵品コーナーの三作は、常設展示されることを願います。
2子どもの来館者を意識してか、会場内にはレオーニの作品をモチーフにした、楽しいしかけもいくつかありました。

◆展覧会情報
「みんなのレオ・レオーニ展」
兵庫会場 伊丹市立美術館 2018/8/11(土・祝)~9/24(月・祝)
新潟会場 新潟県立万代島美術館 2018/10/6(土)~12/16(日)
広島会場 ひろしま美術館 2019/4/20(土)~6/2(日)
東京会場 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
2019/7/13(土)~9/29(日)
鹿児島会場 長島美術館 2019/12/7(土)~2020/1/19(土)
沖縄会場 沖縄県立博物館・美術館 2020/2/28(金)~5/10(日)

2019年9月20日金曜日

出不精ながら、展覧会へ その1


みんなのミュシャ

ミュシャからマンガへ――線の魔術


 東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催されている「みんなのミュシャ」展に行ってきました。ミュシャのファンではないのに重い腰を上げたのは、彼の影響を強く受けた日本のマンガ家の作品も展示されていると知ったから。若い頃、マンガを読み、模写することに多くの時間を費やした自分にとって、知っておくべきことがこの展覧会にある気がしたのです。

 平日の開館約15分後に着くと、すでになかなかの混み具合。来館者の9割は女性で、50代以上の方が多いのが印象的です。男性客の大半は、そういったご婦人方の連れ合いのように見受けられました。素足にサンダル履きの多いご婦人方の足を無骨なスニーカーで踏まぬよう、気をつけて進みます。

 展示品はその大部分が、遺族の設立した「ミュシャ財団」の所蔵品。少年時代から修業時代にかけての作品や、ミュシャの収集した美術・工芸品、そして習作、素描、写真など。ここでしか見られないであろうものが多かったです。ミュシャが撮影したモデルの写真と、それを元に描かれた作品を比較できる展示もありました。ミュシャの作品は保存状態がいいためか、発色が良く、美しい。油絵などに比べると、紙に印刷したポスターは劣化しやすいはずですが、百年以上の時を経ているとは思えません。

ふと、肌寒いことに気づくと同時に、展示室の片隅にブランケットを入れたカゴがあるのが目に留まります。カゴには、作品保護のために室温を低く設定してあるゆえ、ご自由にお使いくださいとの旨が。作品保護に対する思いと、来館者への配慮の細やかさに感じ入りました。

 広告用の宣伝媒体でしかなかったポスターを観賞用の美術品へと高め、大衆のための芸術を生み出したミュシャ。彼がいかに新しい考え方で芸術を捉え、新しい様式、新しい構図を生み出していったのか。そして、それがいかに後世のアーティストたちに受け継がれていったのか。それらをわかりやすく伝えてくれる展示でした。特に目を見張ったのは、1960-70年代の英米のレコード・ジャケットやアメリカン・コミックス。日本のマンガ界が誇る鳥山明も、アメコミをはじめとするアメリカン・カルチャーを通してミュシャの影響を受けていたのだということに気づき、驚愕しました。

本展で作品が展示されている日本のマンガ家やアーティストは、本当に代表的な、ごく一部の方々だけです。しかし、ここをクローズアップしたら、それだけで大規模な展覧会になってしまう。日本のマンガ界とミュシャは切っても切れない関係なのです。本展の日本語版タイトルにある「みんなの」は、現代日本のマンガやグラフィック・アートに触れてきた多くの日本人にとって、ミュシャが(実は)馴染み深い存在であることを含意しているのでしょう。

会場出口で次回展の招待券が当たるよう願ってアンケートに記入し、ミュージアム・ショップでポストカードと展覧会カタログを購入。ミュシャ・グッズに一筆箋が見当たらなかったのが、少々残念です。淡いピンク地に金色の線が華やかな装丁のカタログを眺め、ミュシャの偉大さを反芻しながら、帰路につきました。
                               〔敬称略〕

展覧会に行った日:2019912
文責:出不精ながら

◆展覧会情報
「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ――線の魔術」
東京展 Bunkamura ザ・ミュージアム 2019/7/13(土)~9/29(日)
京都展 京都文化博物館 2019/10/12(土)~2020/1/13(月・祝)
札幌展 札幌芸術の森美術館 2020/1/25(土)~4/12(日)
名古屋展 名古屋市美術館 2020/4/25(土)~6/28(日)
静岡展 静岡県立美術館 2020/7/11(土)~9/6(日)
松本展 松本市美術館 2020/9/19(土)~11/29(日)

猫村たたみ×熊沢健児 トークセッション



書評コンクール2019
猫村たたみ×熊沢健児 トークセッション 


猫村 センター構成員の皆さま、ご機嫌いかがですかにゃ。センター三文庫の守り猫、猫村たたみですにゃ。
熊沢 どうも、名誉研究員の熊沢健児です。
猫村 皆さま、この度は書評コンクールにご参加いただき、ありがとうございましたにゃ!
熊沢 ありがとうございました。それにしても、力作をご応募いただけて、本当に良かったね。投票してくださった皆さまにも、心より感謝を申し上げます。
猫村 嬉しくて、私…私…泣いちゃう…んなぁ~ごぉ~~!!
熊沢 な…なんだ、いきなり。君、猫またの声で叫ぶと怖いよ。
猫村 だってブログ開設以来、初めての試みだったにゃよ。
熊沢 確かにそうだね。でも、皆さんもともと文章力のある人たちだから、私は楽しみのほうが大きかった。
猫村 熊沢君は肝が据わっているにゃね。
熊沢 そうかな。『マリー・アントワネットの日記』(Rose/Bleu)を紹介する深民さんの書評(書評番号7)とか、さっそくアマゾンで注文して、作品(紹介されていた本)を読むのが楽しみで仕方がないと言って下さった方もいたよ。
猫村 そうそう、他にも「トワネットちゃんが、普通の女の子のように思えて、読みやすくて楽しそう」というコメントもあったのにゃ。本や雰囲気がよく分かる、素敵な書評だったにゃ~。
熊沢 そうだね。紹介している本の性格を正確に捉えた上で、必要最小限の引用をしている。
猫村 「性格を正確に」って、オヤジギャグにゃ?
熊沢 違うよ、たまたまだ。本文からの引用文と、書評の地の文に流れるスピード感とが見事に合致していた。自分が紹介した作品と歩調を合わせるような文体が、この書評の魅力だと私は思う。
猫村 そうにゃね。そして、こんなふうに文体ごと共鳴することができる本と出会えるって、幸せなことにゃ。
熊沢 うん。そういう本にこれから何冊出会えるかな。人生いろいろあるけど、どんなときにも寄り添ってくれる本があれば心が孤立してしまうことはないからね。
猫村 あ、ねえねえ、『へろりのだいふく』を紹介する歌音さんの書評(書評番号8)は、引用文なしで紹介しているにゃ。
熊沢 そうだね。ちょっとまじめな印象もある「である」調の文体で、ユーモラスな物語のあらすじを紹介している。
猫村 まじめさと面白さのギャップが、主人公のヤギマロ先生みたいだにゃ。それに、「へろりがみ」という紙の名前がすでに笑えるにゃ。
熊沢 へろりがみ…へろりがみ…へろり…へろ、へろ…はっはっは(笑)
猫村 ちょっと、熊沢君!大丈夫にゃ?
熊沢 いや、失敬。たしかに笑えるね。
猫村 私は最後の一文が好きにゃ。
熊沢 「もし自分もヤギだったら……」と思ったのは、きっと私だけではないと思う。――うん、いいね。
猫村 この本を読んで、ヤギに化けるときの参考にするにゃ!
熊沢 え? 君、化けられるの!? いやいやいやいや、参考にはしないほうがいいと思う。おなかが痛くなるよ。
 そうかにゃ~。
熊沢 そうだよ。この本は、読んで楽しければそれでいいんだよ。
猫村 まあ、そうにゃね。
熊沢 さて、沼本さんの『私を知らないで』の書評(書評番号5)は、先ほどのお二人とはガラリと雰囲気が変わるね。
猫村 そうにゃね。
熊沢 書評は自分自身に問いかけるような一文から始まっていて(「いつからだろう、がむしゃらに生きることを躊躇い、今日はまあいいやといい加減に生きるようになったのは。」)、主人公の「僕」のまなざしに自らを重ねながら読んだんだな、と、沼本さん自身の本の読み方が見て取れる。読んだことのない人にとっては、自分がどういう本の読み方をしたいかということにも合わせて本を選択することができるから、紹介者の主観がどこかから垣間見えることは、実は大事だよね。
猫村 たしかにそうにゃ。あと、本の内容を紹介しながら、タイトルの「私を知らないで」という言葉の謎を提示しているのにゃ。紹介文からも分かるとおり、この本はミステリーのようなテイストもあるにゃよね。
熊沢 謎に迫っていくときのヒリヒリした感触も連想させてくれる書評だよね。
猫村 同感にゃ!
熊沢 問いかけから始まる書評といえば、しあわせもりあわせさんの『コンチキ号漂流記』の書評(書評番号6)も、やはり問いかけから始まる。
猫村 「もし、誰も自分の学説を信じてくれなかったら? だれもが話を聞いただけで、論文を読もうともせずに否定してきたら? 味方だと思っていた友達の学者までもが、本当は信じてくれていないのだとわかったら?」…研究者にとっては悪夢のような状況にゃ!
熊沢 そう。研究に携わる者ならではの悪夢だよね。私もこの冒頭部分を読んで、ドキッとした。
猫村 熊沢君も、経験があるのかにゃ?
熊沢 うん、まあ…だって、ほら、私はぬいぐるみだろ?
猫村 人を見た目で判断してはいけないのにゃ!
熊沢 いや、人じゃないから…話を書評に戻そう。この本が児童文化研究センターで、構成員向けの書評として紹介されることに、大事な意味があると私は思うんだよ。
猫村 にゃ~む、どういうことにゃ?
熊沢 はっきり言って、現代日本の大学で文学を研究するのはすごく厳しい。それを研究したからって、すぐに利益に直結するわけではないから、不要不急の、学問のための学問と判断されがちだ。
猫村 そうにゃね。
熊沢 でもね、私は文学が不必要なものだとはどうしても思わない。うまくいってもいかなくても、手を尽くして研究は続けていかなくっちゃ。ハイエルダールのしたたかさは、私たちが最も必要としているものだと思うね。
猫村 自分の手で自説を実証するというたくましさが、すごいにゃね。
熊沢 うん。それに、ユーモアを忘れないというところ。ストレスに強くて折れない心を持つということだけでなく、研究者として必要な客観性は、感覚的には「笑い」ととても近いところにあるからね。この書評では、「ユーモア」というポイントをしっかり押さえて、伝えようとしてくれている。
猫村 勇気をもらえる書評にゃ!
熊沢 その通り!
猫村 白百合の森のキィローさんの『みどりのゆび』を紹介する書評(書評番号4)からも、研究活動への愛が感じられるにゃ。
熊沢 そうだね。参考文献を選び、参照しながら書評を書いている。
猫村 1冊の本から、徐々に読書が広がっていく喜びがあるのにゃよ。
熊沢 うんうん。ここでは、『みどりのゆび』以外の本はあくまでも参考文献として扱われているけれど、1冊の本から出発して、45冊の本を組み合わせて紹介するというのも、今後、やってみたいね。
猫村 私、プネウマは得意にゃ。
熊沢 え…そ、そうなの?(いきなり何だ?)
猫村 にゃ! ※注 猫村が尻尾の先を手に持って回し始めています。
熊沢 (うーん…何かが違う気がするけれど…)
猫村 にゃにゃにゃ! ん~っ、にゃ! ※注 書評で言及される「プネウマ」についてお知りになりたい方は、『天使とは何か』(岡田温司著、中公新書、2016年)をご参照ください。
熊沢 あ、あの…ところで、遠藤さんの『ある奴隷少女に起こった出来事』の書評(書評番号3)だけど。
猫村 にゃ?
熊沢 「これは私の物語だ」と心から思える文学作品に出会えることは、きっと幸せなことなのだと思うけれど、日本での出版までの経緯を含め、ここで紹介されている本はちょっと重いね…。
猫村 そうにゃね。この書評の書き方は、他の書評に比べて具体性に欠けるのにゃけど、ショッキングな内容も含んでいるから、詳しい内容の紹介や本文からの引用はちょっと難しかったかもしれないにゃね。
熊沢 うん。それに、著者のハリエット・アン・ジェイコブズも、もともとプロの文筆家ではなかったからね。この本の文章には、やや生硬なところがある。
猫村 でも、言いづらいことやうまく言えないことも、表現しようと試みることは大事なことにゃよ。生硬な文章が悪文だという決まりがあるわけでもないのにゃし…。
熊沢 そのとおり。この本が最初に自費出版され、いったん忘れられてから再発見されることになった経緯も含め、読めば、重たい過去の現実と向き合うことになる。だけど、この本に書かれていることの重たさは、いま現在、自分自身の重たい現実と向き合う人たちにとっては救いにつながる。
猫村 自分自身が向き合っている現実とジェイコブズが向き合っていた現実とを照らし合わせて、静かな共感を寄せる人たちは、実はたくさんいるのにゃね。本の紹介を通じて、「あなたは一人ではないよ」と伝えられるのは、書評の良いところにゃ。
熊沢 ところで、君の書評(書評番号2『夕凪の街 桜の国』)、私は楽しく読んだよ。「(青春にゃ~)」のところがちょっとおばちゃんぽかったけど。
猫村 にゃにゃ! 失礼にゃ!
熊沢 いや、失礼。いい意味で、だよ。君の優しさがよく表れている書評だった。
猫村 おばちゃん呼ばわりされてから褒められても、嬉しくないのにゃ!
熊沢 ごめんごめん。
猫村 熊沢君は、ショーン・タンの絵本(書評番号1『セミ』)にゃね。この前、本屋さんに行ったとき、大人の絵本として紹介されていたのにゃ。辛酸を舐めながら働くセミに共感する大人は多いかもしれないのにゃ。
熊沢 私も、氷河期世代なので…
猫村 うん。閉塞感でいっぱいの石田徹也さんの絵画と結びつけて紹介していたにゃね。熊沢君も苦労しているのにゃね。よしよし…
熊沢 でも、書評にも書いたとおり、この絵本の魅力はやはり絵の力強さだと思う。
猫村 そうにゃね。
熊沢 さあ、これで全部の書評を見てきたけれど、どれも良かった。書評って楽しいね。
猫村 同感にゃ! 本は一人で孤独に読むものだけど、孤立して読んでいるわけではないのにゃ。
熊沢 コンクールに応募してくださった皆さま、投票してくださった皆さま、そして、いつも暖かく見守ってくださる皆さまに、改めて心よりの御礼を申し上げます。
猫村 ありがとうございますにゃ。今後とも、どうぞよろしくお願いいたしますにゃ。
熊沢 また来年の夏も第2回の書評コンクールが開けるよう、私たちも精進してまいります。
猫村 継続は力なり、ですにゃ。コンクールでないときの、普段の書評も、それ以外の投稿も、お待ちしておりますにゃ。
熊沢 ブログを利用して、文章の腕を磨きましょう。それでは、皆さま、またお目にかかります。
猫村 季節の変わり目に風邪などひかれませんよう、ご自愛くださいませにゃ!

書評コンクール 投票結果発表



書評コンクール2019 投票結果発表


  書評コンクールの投票結果を発表いたします。 
  • 書評番号1  熊沢健児(ぬいぐるみ・名誉研究員) 得票数1
  • 書評番号2  猫村たたみ(三文庫の守り猫)        得票数0
  • 書評番号3  遠藤知恵子(その他)          得票数1
  • 書評番号4  白百合の森のキィロー(その他)   得票数1
  • 書評番号5  沼本知自(学生)          得票数2
  • 書評番号6  しあわせもりあわせ(一般)        得票数2
  • 書評番号7  深民麻衣佳(学生)            得票数4
  • 書評番号8    歌音(学生)             得票数2 


  優勝は、書評番号7、『マリー・アントワネットの日記』(Rose/Bleu)の書評を書かれた、深民麻衣佳さんに決定いたしました。おめでとうございます。

  ご参加くださった皆様に、心より御礼を申し上げます。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。