2020年6月26日金曜日

熊沢健児の気になるパペットアニメーション

見里朝希『マイリトルゴート』(2018年)

 

フェルト人形を少しずつ動かしながらコマ撮りしてつくる、パペットアニメーションである。

619日から2週間、YouTubeで限定公開中。私もひとりのぬいぐるみとして観ておかねばと、オフィシャルサイト(https://mylittlegoat.tumblr.com/)で作品情報を確かめ、アクセスした。ストーリーは怖いが、パペットがもこもこして可愛いせいか、不思議と平気だ。

 

この作品は、グリム童話の『狼と七匹の子山羊』を下敷きにしており、制作者の見里さんが独自の解釈を加えた後日談を10分間ほどのアニメーションにしたものである。

グリム童話では救出された子山羊たちが泉の周りで喜びの踊りを踊ってハッピーエンドとなるが、『マイリトルゴート』は違う。このアニメーションでは、狼の胃の中で消化されかけ、瀕死の子山羊たちが、母親に救出される場面から始まる。最初に食べられた長男のトルクは、狼の胃袋の中で溶けていた。

6匹になったきょうだいは、母親に守られ、山の中の小屋で身を寄せ合って暮らしていた。だが、ある日、母山羊が「トルクお兄ちゃん」を連れて帰る。それはケープを着た人間の子どもだった。その子が着ているケープは白い毛糸で編まれており、耳付きのフードがあって、子山羊のようにふわふわしていた。

「トルクお兄ちゃん」と呼ばれたその子は、ところどころ体毛が溶け落ち、爛れた皮膚の見える子山羊たちと対面する。

怯えた目つきで子山羊のきょうだいを見る「トルクお兄ちゃん」だが、子山羊たちもまた、怪訝そうに「トルクお兄ちゃん」を見る。そして、そのうちの1匹は、「トルクお兄ちゃんは一番に食べられたじゃない。なのにどうして毛がふさふさなの?」などと言って詰め寄ってくるのだが、ヒトである「トルクお兄ちゃん」には、その言葉は「メエメエ」としか聞こえなかったはずだ。

子山羊たちに囲まれ、疑いの眼で見つめられ、メエメエメエメエ言われたら、これは怖いに違いない。「トルクお兄ちゃん」は窓から小屋を脱出しようと、窓際に裏返して置かれた姿見に登るのだが、バランスを崩して落ちた拍子に鏡が表に返り、傷跡の一番ひどかった子山羊が、変わり果てた自分の顔を見てしまう。悲鳴を上げ、泣き出す子山羊のまわりにほかの子山羊たちが集まる。

メエメエといたわり合う彼らの姿を見て「トルクお兄ちゃん」は着ていたケープを脱ぎ、泣いている子山羊に着せかける。

「トルクお兄ちゃん」は人間の子だから、山羊に比べれば体毛は無いに等しい。ケープをはずし、毛のないつるんとした首や腕が見えたとき、子山羊たちから見たその姿は、傷つき毛の禿げた自分たちの姿に重なったのかもしれない。さらに、「トルクお兄ちゃん」の腕には傷跡があり、子山羊は、この子も傷を負っていることを知る。

そうして、お互いの痛みを思いやることにより心を通わせかけたとき、「トルクお兄ちゃん」を探して「狼」が小屋にやってくる…

 

毛のない「トルクお兄ちゃん」に、口を開けて驚く子山羊たちの表情に、そうそう、人間って変な生き物なんだよな、と、改めて納得してしまう。動物としての姿かたちだけではない。話が終盤に近付くにつれ、同じ種族どうしなのに相手を痛めつけたり、愛情という名のもとに支配しようとしたりする、人間の姿が、いやおうなしに見えてしまうのだ。

パペットだからこその視点と触感(どんなにグロテスクに作っていたとしても、そこはフェルト人形。やはり、もこもこなのである)。場面ごとの色彩や効果音にも気を配り、内容の詰まった10分間だった。

 

熊沢健児(ぬいぐるみ・名誉研究員)

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