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2023年6月16日金曜日

第6回書評コンクール 猫村たたみ×熊沢健児トークセッション

猫村たたみ
(センター三文庫の守り猫)
猫村:皆さま、ご機嫌いかがかにゃ? センター三文庫の守り猫、猫村たたみですにゃ!

熊沢:どうも、熊沢健児です。書評コンクールの投票結果が出たね。

猫村:にゃ! 今回も個性豊かな書評が集まったのにゃ。コンクールにご応募くださった皆さま、投票に参加してくださった皆さま、そして、参加はしなくとも関心をお寄せくださった皆さま、ありがとうございますにゃ!
熊沢:いつも見守って下さる皆さまにも、心よりお礼申し上げます。

熊沢健児
(ぬいぐるみ・名誉研究員)

猫村:第6回書評コンクールの振り返りを始めるのにゃ! 

熊沢:最初の書評は桐江さんが書いてくださった、『パールとスターシャ』の書評だね。

猫村:アウシュビッツ絶滅収容所という実在の場所、そして、実在の人物をモデルとしたキャラクターが出てくる物語にゃって。私、この作品は読んだことがないのにゃけど、興味を持ったのにゃ。舞台が収容所だということから、目を覆いたくなるような出来事が起きていることは容易に想像がつくのに、「美しい物語」ってどういうことかにゃ~って思ったのにゃ!

熊沢:そうだね。それから、主人公である双子の人物像を中心に作品概要を紹介した上で、「希望ある結末が待っている」という一言で、この作品に興味を持ち始めた人の背中をそっと押してくれる。執筆者の観点がはっきりしていて分かりやすいだけでなく、優しさがあっていいなと思った。

猫村:にゃ! 愛ある書評にゃ!

熊沢:うん。私もこういう書評を書けるようになりたい。

猫村:愛といえば、しあわせもりあわせさんが紹介する図鑑も、愛に溢れているのにゃ。

熊沢:監修者の昆虫愛を読み取って、しあわせもりあわせさんもちゃんとそれに反応している。

猫村:コール・アンド・レスポンス!

熊沢:いいこと言うね。ある書物が読まれるとき、その書物の作り手とその受け取り手との間には目に見えない心の交流が生まれている。普段は目に見えない心の交流が、書評という形で可視化されると、なんだかすごく励まされるような気がするよ。

猫村:そうにゃね。

熊沢:特に図鑑の類は、その図鑑が扱っている分野が好きで好きでたまらない子どもたちが、それこそ隅から隅まで余すところなく熟読して、写真を見つめる。図鑑って、実はものすごく愛されている書物なんじゃないだろうか。

猫村:児童書界の人気者にゃ!

熊沢:そうかもね。

猫村:クマのプーさんも人気者にゃ。

熊沢:西大條さんの書評だね。展覧会の図録だから、展示風景にも触れてくれている。いいなあ、私も行きたかったよ。展示空間って、大事だよね。作品をどう見るかって、展示空間の設計次第だもの。まっさらな気持ちで観客を展示品に向かわせようとする白い壁も、テーマパークみたいに気分を盛り上げるための装飾や演出も、どちらも私は好きだな。

猫村:にゃ~む。PLAY! MUSEUMは気分を盛り上げてから原画に向わせてくれる展示にゃったみたい。

熊沢:うん。書物という形自体が独自の空間表現だから、展示がどんなだったのか気になるな。

猫村:にゃ! 西大條さんの書評を読むと、図録のデザインも展示空間のデザインと連動していることが分かってさらに興味深いのにゃ。

熊沢:遊び心たっぷりの図録。いいなあ。私も少し、遊びたい。

猫村:にゃにゃ! 何して遊ぶのにゃ? おはなし会で良ければ、いますぐにでも私が開くのにゃ。

熊沢:君が書評で取り上げた『いちじくのはなし』は、いちじくのおはなし会だったね。

猫村:そうなのにゃ。面白かったのにゃ~。

熊沢:人に読んであげたり、人から読んでもらったりするといいって?

猫村:私はそう思ったのにゃ。

熊沢:それってつまり…いちじくが語る本編とは関係のない、ということは、言語化されていない、絵による細部の描写から、さまざまな小さな物語を想像することができる…そういうこと?

猫村:そうなのにゃ!

熊沢:いいね。この振り返りが終わったら、ふたりで1話ずつ『いちじくのはなし』を読み合おう。

猫村:3話あるからそのうちの2話は私が読んであげるのにゃ。熊沢君には息抜きが必要にゃ!

熊沢:あはは…確かに。私はマンガが好きでよく読むけど、自分から好んで読む作品は、息抜きにはなりそうにない、重たい作品が多いかもしれない。

猫村:今回、熊沢君が取り上げた『光の子ども』もそうだったのかにゃ?

熊沢:う~ん。それは、読む人によると思う。

猫村:そうにゃね。感じ方は人それぞれにゃ。『光の子ども』読書会もしてみたいのにゃ~。

熊沢:そうだね。ほかの人がこの作品を読んでどう感じるか、知りたいな。

猫村:にゃ~む、してみたいことがたくさんあるのにゃ。

熊沢:うん。そうそう、遠藤さんが取り上げた『ちいさな労働者』だけど、この本に収められているのと同じ写真を、大学図書館の本で見ることができるよ。PHOTO POCHEシリーズのLewis W. Hine. (Centre National de la Photographie, Paris, 1992)という本。『ちいさな労働者』ではトリミングされていた写真もあるから、こうしてもう1冊、別の本を確認するとまた見え方が変わって面白いね。

猫村:インクの濃さによってだいぶ印象が変わってくるのにゃ~。

熊沢:ところで、以前、君は写真が好きだと言っていたよね。それなのに、どうして君のプロフィールはセンターの助手さんが描いた似顔絵なの? 写真にすれば良いのに。

猫村:私、猫またにゃから、写真にはもやっとした靄しか写らないのにゃ。にゃから、プロフィールは念写か、似顔絵にするしかないのにゃ。

熊沢:…え? 念写って、実在するの? 

猫村:妖怪仲間のみんなと風流踊りツアーに行ったときの集合写真を見せてあげるにゃ。(猫村、鞄から小さなアルバムを取り出す。)昔懐かしのレンズ付きフィルムで撮ったのにゃよ。

熊沢:ねえ、念写って実在するの?(お願い、答えて!)

猫村:(猫村、写真に夢中で聞いていない。)このオレンジ色っぽい靄が私、その隣の緑色っぽい靄が女学校からのお友達のろくろっくびさん、そのまた隣の青っぽい靄がお向かいのお家に住んでいる一つ目小僧君で、その上の紫色っぽい靄がぬりかべ先輩で…

熊沢:心霊写真(生まれて初めて見た…!)。

猫村:心霊写真にゃなくて、妖怪写真にゃ!

熊沢:…。

猫村:みんな、いいひとたちにゃよ。

熊沢:そうか…。

猫村:そうなのにゃ!

 

皆様、「児童文化研究センター主催 第6回書評コンクール」に最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました。次回の書評コンクールは来年、春頃に開催する予定です。皆様のご参加を、心よりお待ちしております。

第6回書評コンクール 結果発表

第6回書評コンクールの投票結果を発表いたします。


書評番号1 桐江さん(教職員)       得票数5

書評番号2 しあわせもりあわせさん(一般) 得票数2

書評番号3 西大條優香さん(学生)     得票数2

書評番号4 猫村たたみ(その他)      得票数2

書評番号5 熊沢健児(その他)       得票数0

書評番号6 遠藤知恵子(教職員)      得票数0

 

 最も得票数が多かったのは、書評番号1の『パールとスターシャ』の書評を書いた、桐江さんでした。おめでとうございます!

 ご参加くださった皆様、ありがとうございました。

2023年5月26日金曜日

第6回書評コンクール 応募作品を公開します


 第6回書評コンクールの応募作品を公開いたします。
 今回は6本のご応募がありました。ご応募、ありがとうございます。

【書評番号1】
アフィニティ・コナー著、野口百合子訳『パールとスターシャ』東京創元社、2018年

【書評番号2】
丸山宗利総監修『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』、学研プラス、2022年

【書評番号3】
『クマのプーさん展公式図録 百町森のうた』E. H. シェパード [画] 、安達まみ監修、ブルーシープ、2022年 

【書評番号4】
しおたにまみこ『いちじくのはなし』ブロンズ新社、2023年

【書評番号5】
小林エリカ『光の子ども』第1部、全3巻、リトルモア、2013年/2016年/2019年

【書評番号6】
フリードマン、ラッセル『ちいさな労働者 写真家ルイス・ハインの目がとらえた子どもたち』千葉茂樹訳、あすなろ書房、1996年


 優秀作品は投票で決定いたします。

 投票方法:GoogleForms 

 投票できる人:児童文化研究センター構成員と本学学生

 投票締め切り:2023年6月15日(木)

 結果発表:6月16日(金)

 投票は書評の執筆者名を伏せた状態で行い、結果発表のときに各書評の執筆者を発表いたします。

 ぜひご参加ください!

【書評番号1】 アフィニティ・コナー著、野口百合子訳『パールとスターシャ』東京創元社、2018年


 家畜運搬車の扉が開く。中にはやせ細った老人と女性、そして背丈も顔立ちもそっくりな二人の少女。警備兵が居丈高に祖父に質問し、母と娘たちは震えている。

 一家のすぐそばで、三つ子の少年たちが白衣の男に安全を請け合われ、他の人々とは別の場所へ進まされる。怯えていた母親の目に光が戻り、兵士に詰め寄るように尋ねる。

「ここでは−−双子なのはいいことなんですか?」


 家族が連れて来られたのはアウシュビッツ絶滅収容所。双子や三つ子を選別していた白衣の男はヨーゼフ・メンゲレ。ナチスで非道な人体実験を繰り返し、戦後も逃亡して罪を償うことのなかった人物である。

 主人公の双子の姉妹、12歳のパールとスターシャはメンゲレの手に引き渡され、「動物園」と呼ばれる施設へ入れられる。実験材料として保護されるとはいえ、その環境は悲惨だ。衛生面は酷く、食事も十分ではない。息を引き取る者がいれば、周囲は悲しむのではなく我先にと身ぐるみをはがしにかかる。

 物語は姉妹のそれぞれの視点から交互に語られる。過酷な状況だが、二人の語りは決して暗いものではない。互いへの愛情。収容者との間に芽生える絆。人が人として扱われない環境でも、人間性までは奪えない。

 特に妹のスターシャは想像力が豊かで、現実に空想を重ねることで自分を保つすべを知っている。人体の標本を見たショックを蝶の標本を連想することで和らげたり、ジャッカルになりきって苦境を凌いだり、スターシャの想像はしばしば動物と結びつく。これらの発想の源になっているのは全て、生物学者だった祖父から教わった知識だ。スターシャにとって空想は離れ離れになった家族との繋がりを確認する手段でもある。

 一方で、現実主義のパールは空想に逃げることができず、残酷な状況を直視し、疲弊していく。姉を自分の「最良の部分」と考え、全く同じ存在でありたいと願うスターシャの思いとは裏腹に、パールは収容所を生き延びられる可能性が高いのは妹だと判断し、彼女を生かそうと画策するようになる。

 そしてついに、姉妹が離れ離れになる日が来る。引き離された二人はどんな運命を辿るのか。つらく長い道のりになるが、希望ある結末が待っているので、ぜひ実際に読んでみてほしい。

 なお、パールとスターシャは架空の人物だが、物語には実在の人物がモデルとなったキャラクターも多数登場する。特に、多くの妊婦を苦渋の選択によって助けたユダヤ人女医のジゼラ・パールがモデルとおぼしきミリ医師の悲嘆は、我が子を奪われた全てのユダヤ人女性の嘆きが凝縮されているかのようで胸が引き裂かれる。

 この本を読み終えたときに覚えたのは、なんて美しい物語だろうという感動だ。被害者を美化しているわけではなく、描かれているのはおぞましい所業ばかり。それでも、パールとスターシャの目を通して見える世界は光に満ちている。人間の「最良の部分」を信じようと思わせてくれる力強い作品である。



***第6回書評コンクール 投票方法***

センター構成員の方と本学学生の方は、投票にご参加いただけます。

投票は、Google Formsでお願いいたします。

皆様のご参加を、心よりお待ちしております。


【書評番号2】丸山宗利総監修『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』、学研プラス、2022年


 読んでいてこれほど胸の熱くなる、図鑑の監修者前書きもそうそうあるまい。昆虫への思いはもちろん、図鑑というものに対する思いがひしひしと伝わってくる。優れた図鑑は子どもたちを夢中にさせ、ボロボロになるまで毎日くり返し読まれるものなのだ。本書は明確にそれを目指している。


 出版界において、学習図鑑は長らく小学館と学研の二強体制が続いていた。だが、2000年から小・中学校と高等学校で「総合的な学習の時間」がはじまると、新しい様相を見せるようになる。最新情報や写真図版の収録に力を入れた「小学館の図鑑NEO」や「ポプラディア大図鑑WONDA」、家庭の本棚に収まりやすいサイズで動画のDVDを付録とした「講談社の動く図鑑MOVE」など、出版各社が工夫を凝らした新シリーズを展開する中、学研はどうにも出遅れている感じが否めなかった。


 しかし、本書はあまたある昆虫図鑑の中で群を抜いてすばらしい。収録されている昆虫などの種類が他社の学習図鑑よりも圧倒的に多いだけでなく、生きたものの写真だけを使っているところが、これまでの昆虫図鑑と異なっている。


「昆虫がいちばんきれいに見え、みなさんが手にとってみたときの印象で調べられるよう、生きたものだけをのせることにしました」


 さらっと書いてあるが、2,800種以上を収録している昆虫図鑑でそれを実現するには、どれほどの時間と労力がかかったことだろうか。死後の標本の写真で済ませれば、もっと楽であったろうに。約50名もの研究者たち(助手や学生を含めると、何百人にもなるだろう)が手分けして虫を探し、写真を撮影する日々。さらに友人・知人に広く声をかけ、情報や生体などを提供してもらって、この図鑑はできあがっているのだ。


 例えば、「カマキリのなかま」のページを見てみる。どのページのカマキリも、同じ角度で、同じポーズをとっている。きっと、カマキリの生態が一番よくわかり、一番美しく見える角度とポーズなのだろう。その瞬間になるまで、撮影チームはカメラを構え、固唾をのんで見守っていたのだ。逃げられない工夫も必要だっただろう。相手は生きているのだから。


 自分は昆虫にはさほど興味のない人間だが、この図鑑は面白い。何気なく開いたページを眺めているだけで、「オオセンチコガネは生息する地域によって色がこんなに違うのか。嘘みたいに違うな」など、思いもよらなかった知識が入ってきて、「昆虫ってすごいな」「生き物ってすごいな」「もっと知りたいな」という気持ちにさせられるのだ。昆虫好きな子どもなら、貪るように読むだろう。できれば本書を子どもの頃の自分に見せてやりたいという総監修者の言葉には、納得と尊敬と感動しかない。



***第6回書評コンクール 投票方法***

センター構成員の方と本学学生の方は、投票にご参加いただけます。

投票は、Google Formsでお願いいたします。

皆様のご参加を、心よりお待ちしております。


【書評番号3】『クマのプーさん展公式図録 百町森のうた』E. H. シェパード [画] 、安達まみ監修、ブルーシープ、2022年


 また、会えたね。

 子どものころ『クマのプーさん』を読みふけった人も、そうでない人も、ついそう口に出してしまうような空間が、2022年の夏、立川に広がっていた。赤い布張りの表紙が金文字で飾られ、プーとなかまたちが慰労会をしている場面が描かれた、豪華な装丁のこの本は、2022年7月16日から10月2日まで東京・立川のPLAY! MUSEUMで、次いで10月8日から11月27日まで名古屋市美術館で開催された「クマのプーさん」展の公式図録である。

 私は立川のほうにしか足を運んでいないのだが、PLAY! MUSEUMでの展覧会は、3部構成になっていた。まず、「Pooh A to Z」と題された、AからZまで順にプーのぬいぐるみや、クリストファー・ロビンの防水マントや長ぐつといったちょっとした展示とともにプーとなかまたちに関する紹介がなされたものがあり、次に、ぐるりと一周するスクリーンに物語の舞台であるアッシュダウンの森の景色が映されたインスタレーションを見ることができる。そしてそれからやっと、まるで昨日描かれたかのように鮮やかなシェパードの原画と向き合うのだ。

 本書は、本の性質上シェパードの絵が中心となるわけだが、展覧会での「A to Z」の展示は、展覧会を監修した安達まみによる「プー辞典」として引き継がれている。「もっとプーが好きになる50のお話」と題されたそれは、展覧会と同じくAから、ただし展覧会よりも分量を増やして、AはAlice、ミルンの詩「バッキンガムきゅうでん」に登場する乳母の名前、Zはzoo、ウィニー=ザ=プーの由来になった本物のクマの話、といったように丁寧に綴られている。終盤にあるたった15ページほどのもので、一見おまけのように見えなくもないのだが、これらのことを知ってからお話と絵に向き合うと、また違った景色が見えてくる。本当に辞典として、気になる項目を探して読んでもおもしろい。

 昨年展覧会には足を運べなかったという人も、この夏は本書を通して、プーとなかまたちに会いに、百町森に足を踏み入れてみてはいかがだろうか。



***第6回書評コンクール 投票方法***

センター構成員の方と本学学生の方は、投票にご参加いただけます。

投票は、Google Formsでお願いいたします。

皆様のご参加を、心よりお待ちしております。


【書評番号4】しおたにまみこ『いちじくのはなし』ブロンズ新社、2023年


 皆さまは、「おはなし会」はお好きかにゃ? 私はおはなし会を開くのも、聴きに行くのも、どっちも同じくらい大好きですにゃ。

 しおたにまみこさんの『いちじくのはなし』では、くだものかごのいちじくさんがおはなし会を開催するのにゃよ。いちじくさんのお話を、台所のみんなが聴きにいくのにゃ。三夜連続のスペクタクル、楽しみにゃね~。前作『たまごのはなし』の主役、たまごさんも、お友達のマシュマロさんと一緒にこのおはなし会に行くのにゃって。

 夕方、果物かごの前に蝋燭を灯したら、大冒険の、はじまりはじまり〜! キッチンのみんなの前で、いちじくさんが話す冒険譚、もちろん主人公はいちじくさんなのにゃ。いちじくさんは自分の大活躍を自信たっぷりに話すのにゃけど、さてさて、これってほんとのお話かにゃ?

 たまごさんやいちじくさんたちが暮らしている台所は、タイルに汚れがはねていたり、小さくひびが入っていたり、台にはちょっぴりごみが散らばっていたりして、生活感があるのにゃ。ぴっかぴかに綺麗で新しそうにゃった前作から、だいぶ時間が経ったように見えるのにゃ。たまごさんもマシュマロさんも、台所のみんなとすっかり打ち解けてお友達になっているみたいなのにゃよ。本に書かれた物語は終わっても、物語の中の時間は流れ続けているのかにゃ~?

 でも、変わっていないこともあって、第一作でたまごさんにかじられたマシュマロさんの頭、歯の跡がそのまま残っているのにゃよ。細部まで丁寧に描きこんであるから、一通り物語を辿り終えたら、ぜひ再読してにゃ。じっくりと絵だけ観察してみたり、前作と読み比べて違いを探したり、遊んで欲しいのにゃよ(私、家の間取りを想像してお絵描きをしたのにゃ!)。

 絵が繊細で細かいぶん、集団での読み聞かせに向いているとは言えないのにゃけど、二人か三人くらいでの読み聞かせにはおすすめにゃ。誰かに読んでもらうと、絵をじっくり見る余裕ができて楽しさ百倍にゃし、いちじくさんや台所の仲間たちになり切って読んであげるのも良い感じにゃ。

 ちなみにこの本、淡いいちじく色のジャケットを外すと、表紙見返しに船の舳先に立って望遠鏡を覗くいちじくがいるのにゃ。ということは、裏表紙の方は…にゃふ〜ん、教えてあげないのにゃ!



***第6回書評コンクール 投票方法***

センター構成員の方と本学学生の方は、投票にご参加いただけます。

投票は、Google Formsでお願いいたします。

皆様のご参加を、心よりお待ちしております。


【書評番号5】小林エリカ『光の子ども』第1部、全3巻、リトルモア、2013年/2016年/2019年


 1896年、日本では北海道から宮城にかけて大地震と津波が襲い(明治三陸地震津波)、ヨーロッパではヴィルヘルム・コンラート・レントゲンが発見したX線の存在に人々が夢中になった。それから115年後の日本に、このマンガの主人公、光が生まれる。東日本大震災と津波による福島第一原子力発電所の事故が起きた年に生まれた光に、母親は「ほんとうに、あなたは光みたいだったの」(第1巻、11ページ)と言う。光には「光」が見えた。

 「光」を帯びた雨が街に降り注ぐある日、光は猫のエルヴィンを追って1900年のパリに行き、マリ・キュリーとピエール・キュリーの娘、イレーヌと出会う。このときから、現在と過去、日本とヨーロッパを行き来して「光」を追う旅が始まる。

 12年前の震災を覚えている私たちは、光が見る「光」とはおそらく放射能のことだとすぐ気づくことができるのだが、物語のいわゆる設定に関する言及が極端に少ないため確かなことは言えない。この作品の作者が読者に示すものはおもに事柄の断片、歴史的事実に関する説明や図版、図表といったものであって、それらの資料の合間を縫うように、光と「光」の物語が進み、100年前を生きた実在の人々の物語が同時並行で進んでいく。それら、いくつもの物語を一冊の本の中に「まとめ上げよう」とする意思は、この作品からは感じ取れない…というより、「まとめてたまるか」という反骨精神すら、あるような気がする。複雑なことを一つの大きな物語に統合するような野蛮な真似はせず、十分に複雑であるように物語る。

 同じ時代に、異なる地域でどんなことが起きていたのか。その時代・その地域を生きた人々はどんな一生を送ったのか。世界を覆う大きな出来事である戦争や科学の進歩に、彼ら・彼女ら、一人一人、どんな意味を見出していたのか。1900年代初頭の人々は、存在を確認されたばかりの放射性物質が人類にもたらすかも知れない「進歩」に胸を躍らせ、放射能の危険性を理解している光はキュリーらの研究をなんとかして止めたいと願う。二つの願いは物語の中でぶつかり合う。

 物語の中で放射能を暗示する「光」にも、二面性がある。作者の小林は「光」に「過去の時間を伝えてくれる」(第1巻、12ページ)という能力を与えている。物語の登場人物を死に至らしめるかも知れない危険な「光」に、この物語のプロットを可能にする重要な役割を持たせているのだ。高村光太郎や吉本隆明、あるいは手塚治虫ならまだしも、21世紀の作家がこのような「光」のメタファーを用いて物語を書くとは。レントゲン博士やキュリー夫妻による研究は後続の研究者たちに引き継がれ、医療やエネルギー、そして軍事に「応用」された。その推移は私たちも知っている通りであるが、小林は既に知っていることを新鮮な物語にして語り起こしてくれる。第2部はどうなるのか、続きが気になる。



***第6回書評コンクール 投票方法***

センター構成員の方と本学学生の方は、投票にご参加いただけます。

投票は、Google Formsでお願いいたします。

皆様のご参加を、心よりお待ちしております。


【書評番号6】 フリードマン、ラッセル『ちいさな労働者 写真家ルイス・ハインの目がとらえた子どもたち』千葉茂樹訳、あすなろ書房、1996年


 豊富な写真図版が特徴である本書は、写真家ルイス・ハイン(Lewis Wickes Hine. 1874-1940)の生涯を、彼の代表的な仕事のうちのひとつ―働く子どもたちの姿を写し、児童労働の実態を告発した写真群―を中心に紹介する、ノンフィクション作品である。図版の1枚1枚が、見る者を見つめ返す力に満ちている。

 カメラマンとしてのハインの仕事は、いくつかの職業を経て師範学校と大学で学んだあと、ニューヨーク市立エチカル・カルチャー・スクールの教師として、地理と科学を教えていた頃に始まる。きっかけは、学長フランク・マニーに、学校の記録写真を撮影するよう説得されたことだった。学校行事を写したハインの写真が評判を呼ぶようになると、マニーは写真を教材として利用することに決め、移民局があるエリス島で移民の家族を撮影するようハインに指示する。ハインはそこでの200枚を超える写真撮影を通じ、撮影者としての心構えや撮影技術を身につけると、児童福祉連盟、全米消費者連盟、全米児童労働員会などの仕事を引き受け始める。そして教師を辞め、全米児童労働委員会の専属カメラマンとなる。

 ハインの撮影は、それまで隠されてきた児童労働の現実を白日のもとに晒し、当時のアメリカ全体に児童労働禁止の機運をもたらした。本書に収録された写真はどれも力強く、「ハイン式」とでも呼びたくなるような一定の調子を帯びている。本書によるとハインは被写体となる子どもたちの名前、年齢、労働時間、賃金、就学状況などを克明に記録したという。撮影者の意図を明確に押し出したイメージと正確無比なデータの組み合わせが当時のアメリカ人にもたらした衝撃は大きかったに違いない。また、ハインは児童労働についてのパンフレットやブックレットをデザインしたり、写真展を企画したりするにあたり、写真につける説明文も自分で書いていた。このときに用いた、写真と文章を組み合わせる表現方法を、彼は「フォトストーリー」と名付けたという。

 写真を文章と組み合わせて伝達する表現方法は汎用性が高く、分かりやすい説明を必要とするさまざまな場面で用いられている。もちろん児童書も例外ではなく、そうした表現を効果的に用いた読み物や写真絵本などを数多く見ることができる。

 膨大な取材データや、表現者の内部に構築された確かな手触りのある世界観を前提とする、写真と言葉による表現の最前線にいた人物としても、ハインは興味深い。本書は子どもの人権や労働問題などについて知りたい中学生・高校生に適しているだけでなく、児童書における写真の表現について学びたい大人の初学者にも示唆を与えてくれる。子どもの本について共に学ぶ仲間たちと、ぜひとも共有していたい1冊である。



***第6回書評コンクール 投票方法***

センター構成員の方と本学学生の方は、投票にご参加いただけます。

投票は、Google Formsでお願いいたします。

皆様のご参加を、心よりお待ちしております。


2023年4月28日金曜日

【作品募集】第6回書評コンクールのお知らせ

 第6回書評コンクール(書評コンクール2023)を開催いたします。


 書評コンクールは、ブログ上で開催するコンクールです。児童書、絵本、ヤングアダルト文学、ライトノベル、または関連する研究書などの書評を書いて、児童文化研究センターまでお送りください。お送りいただいた書評はブログにて公開し、優秀賞を投票で決定いたします。構成員であれば、どなたでもご応募いただけます。
 
【応募要項】
応募資格:応募時点で白百合女子大学児童文化研究センターの構成員であること
書評の分量:800~1200字
応募方法:Wordファイルで作成した書評を、センター宛てのメールに添付して送信
 
送り先: jido-bun@shirayuri.ac.jp
 
メール本文には次のことを記載してください。 
1. 応募者氏名(ペンネームでも可。本名に併記してください)
2. 応募区分(学生/一般/教職員/その他から一つ選んで記入してください)
3. 取り上げる本の書誌情報(タイトル・著者名・訳者名・出版社・出版年など)
4. 冊子収録の可否(在学院生および翌年の新入院生に配布)
 
応募締め切り 5月25日(木)正午
※センター構成員と本学学生の投票により、優秀賞を決定します。投票方法については、追ってお知らせします。
 
応募された書評の公開・使用範囲  
①     ブログに公開・保存。
②     (あらかじめ了承を得た分のみ)冊子にして、児童文学専攻の教職員・応募者・在学院生・翌年の新入院生に配布。
③     冊子はセンターに保存し、閲覧もセンターのみ。
※書評の著作権は執筆者に帰属します。

2022年6月16日木曜日

猫村たたみ×熊沢健児 トークセッション

第5回書評コンクール 猫村たたみ×熊沢健児 トークセッション

猫村たたみ
(三文庫の守り猫)


猫村
:皆さま、ご機嫌いかがかにゃ? センター三文庫の守り猫、猫村たたみですにゃ!
 
熊沢:どうも、熊沢健児です。
 
猫村
:書評コンクールが開催できて、嬉しいのにゃ!
 
熊沢:うん。私も嬉しいよ。ご応募くださった皆さまと、投票に参加してくださった皆さまに、心よりお礼申し上げます。

熊沢健児
(名誉研究員)
 
猫村:いつも見守って下さる皆さまにも、ありがとうございますにゃ! それではさっそく、第5回書評コンクールの振り返りを始めましょうにゃ~。
 
熊沢:最初の書評、深見けいとさんが紹介してくださった東君平さんの「おはようどうわ」シリーズは、幼年童話だね。
 
猫村:恥ずかしながら、私、東君平さんという作家さんのことを知らなかったのにゃよ。にゃけど、心惹かれるシリーズにゃね~。
 
熊沢:うん。今まで知らなかった作品や資料のことを知ることができて、嬉しかったり、知らなかった自分が恥ずかしくなってドキドキしたり…でも結局、心惹かれて楽しいんだ。書評って面白いよね。
 
猫村:そうにゃね~。それに、書評で紹介された本を実際に手に取るとき、紹介してくれた人のこともちょこっと思い出すから、読書タイムが心温まる時間になるのにゃよ。
 
熊沢:そうだね。
 
猫村:ところでですにゃ、深見さんの書評にある、「消えゆくものへの優しい視点」という一言で、東さんの作風を知らないなりにも想像してみることができるような気がするのにゃよ。「生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける」を裏側から捉えたみたいな一言だと思ったのにゃ。
 
熊沢:古今集の仮名序だね。
 
猫村:にゃ! 季節の移ろいが主題になっているというところもまた、日本の古典文学と深いところで感覚的に繋がっていそうにゃよ。
 
熊沢:もしかして、勅撰和歌集などの「部立(ぶだて)」のことを考えてる? 確かに、歌集は季節で分類されていたりするね。
 
猫村:にゃ!
 
熊沢
:書評からずいぶん想像を膨らませるね。でも、実際に本を手に取るときは、まっさらな気持ちで読むんだよね?
 
猫村
:もちろんにゃ! にゃけど、本を手に取るまでのこの想像タイムも楽しいのにゃよ。
 
熊沢:なるほどね。
 
猫村:早く図書館に行きたいのにゃ!
 
熊沢:まあまあ、慌てずに。まずは書評コンクールの振り返りを最後までしようよ。次の、しあわせもりあわせさんが紹介する『いろんな国のオノマトペ』(世界のことばあそび⑤)は知識の本だね。小学生向けの補助教材を探していらしたのだろうか。書評から、CDや音筆などの音源を求めて苦労したことが分かる。外国語の発音は日本語と根本的に異なることもあるから、音源は大事。どうしたって必死になってしまうよね。生活環境や文化の違いも、言語には如実に表れるし。なんだかすごく共感してしまった。
 
猫村
:にゃ~む、大変なのにゃ…。
 
熊沢:うん。それから、純粋な好奇心というのもあるかもしれないね。
 
猫村
:そうにゃね~。研究者は好奇心の下僕(しもべ)にゃからね~。
 
熊沢:いやいや、下僕はちょっと言い過ぎだよ(苦笑)。…ただただシンプルに、知りたかったものを知るということや、見たかったもの・聞きたかったものを見聞きするということが、すごく幸せなんだよ。
 
猫村
:しあわせもりあわせさんも、熊沢君も、根っからの研究者気質なのにゃね。
 
熊沢:そうかもね。そして、欲しかった本や音源を実際に手に取り、聴くことで、新たな好奇心が生まれる。しあわせもりあわせさんの書評も、最後の方がそんな感じだった。
 
犬の鳴き声が平安時代には「びょうびょう」だったことや、ニワトリの鳴き声が全国で「コケコッコー」に統一された経緯が書かれており、国内のオノマトペの時代性や地域性について調べてみたいと思わせる。
 
諸外国の言語における気候風土による違いも気になるけれど、日本国内でも時代や地域によってオノマトペにどんな違いが出てくるのか…興味深い問題だね。
 
猫村:にゃ! 熊沢君の眼が爛爛と輝いているのにゃ。
 
熊沢:だって、面白そうなんだもの!
 
猫村
:こんなにウキウキしている熊沢君、久しぶりに見たのにゃ。書評コンクールが開催できて、本当に良かったのにゃ~(しみじみ)。にゃけど、熊沢君の書いた『キュリー夫人』の書評は、ちょっと翳りがあるのにゃね? この本自体はとっても素敵な伝記にゃのに。
 
熊沢:マリー・キュリーは20世紀初頭に活躍した人物だけど、20世紀は科学の世紀でもあり、戦争の世紀でもあったからね。現代を生きる者のひとりとして、科学技術の進展を素直に喜べないようなところが、私にはあるのかもしれない。
 
猫村:にゃ~む…。
 
熊沢:テクノロジーが世界にもたらす影響は、いつも、私たちの予想をはるかに上回る。光吉夏弥先生は、どんなことを思いながらこの伝記を翻訳していたのだろうか。
 
猫村:それは、私も知りたいのにゃ~。
 
熊沢:もっと研究を進めていかないと。
 
猫村
:そうにゃね。『キュリー夫人』はセンターにも蔵書があって借りられるから(「光吉夏弥先生翻訳作品」のコーナーにあります)、まだ読んでいない方はぜひお手に取っていただきたいのにゃ。
 
熊沢:うん。ところで、君は三文庫に所蔵しているフランス語の絵本に挑戦したんだね。
 
猫村:そうなのにゃ。金平文庫と光吉文庫の両方に所蔵が確認できるのにゃ。
 
熊沢:「どう受け止めれば良いのか、分からない」って、すごいコメントだと思った。
 
猫村:にゃにゃにゃ、批評にゃなくて、ただの感想になってしまったかにゃ~。
 
熊沢:いや、「分からない」も作品の一部だもの。それに、正直なところが君らしくて良いと思ったよ。
 
猫村:正直は人生の宝なのにゃ!
 
熊沢:そうだね。さて、最後の遠藤さんの書評は、14年前に開催された展覧会の図録を扱っているね。
 
猫村:図録も人生の宝なのにゃ!
 
熊沢:うん。書籍として書店でも入手可能な展覧会カタログは最近ますます増えているけれど、その時・その展示会場でしか手に入らないというものもあるから、必要だと思ったら迷わず買うようにしておきたいよね。まあ、無理のない範囲で良いと思うけれど。
 
猫村:にゃ! 無理は禁物にゃ。
 
熊沢:遠藤さんは少し批判めいたことも書いているけれど、会場で手に入れた一期一会の図録だからこそ、批判したくなるのだろうね。それだけ思い入れのある一冊なのだから。
 
猫村:そうにゃね。批判するにしても、動機はいつだって愛がいいのにゃ!
 
熊沢:『きらり』(藤井風さんの楽曲)の歌詞みたいなこと言うね。
 
猫村:私、この歌にシンパシーを感じるのにゃ! …んーふふーふふーふーふー、んーふふーふふーふーふーふふー…(猫村、『きらり』のメロディをハミングしながら踊り出す)
 
熊沢:あー…(また、始まっちゃったよ。踊り出すと止まらないんだよなあ)。
 
猫村:んーふふーふふーふーふー、んーふふーふーふーふーふーふふー…
 
熊沢:これにて、第5回書評コンクールの振り返りを終わりにします。皆さま、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
 
猫村
:ありがとうございましたにゃ。私はこれから図書館へ参りますにゃ。んーふふーふーふーふーふー、んーふふーふーふーふーふーふふー…(猫村、踊りながら歩きだす。※危険ですので決して真似をしないでください)
 
熊沢:おーい、踊りながら歩くと危ないよ! ちゃんと周りを見て!
 
次回の書評コンクールは来年の春頃を予定しております。皆さま、どうぞふるってご参加ください。
ありがとうございました。

第5回書評コンクール 結果発表

 

書評コンクールの投票結果を発表いたします。

  • 書評番号1 東君平『おはようどうわ』全10巻、サンリオ、1992-2000年

   深見けいと(学生)・・・・・・・得票数4

  • 書評番号2 『いろんな国のオノマトペ』(世界のことばあそび⑤)、こどもくらぶ編、旺文社、2008年

   しあわせもりあわせ(一般)・・・得票数5

  • 書評番号3 エリナー・ドーリィ『キュリー夫人』光吉夏弥訳、岩波少年文庫、1974年

   熊沢健児(その他)・・・・・・・得票数0

  • 書評番号4 de Brunhoff, Laurent, Bonhomme. Hachette, 1965(ド・ブリュノフ、ロラン『ボノム』アシェット、1965年)

   猫村たたみ(その他)・・・・・・得票数2

  • 書評番号5 『無垢の眼 稲田萌子 枝松直子 成瀬麻紀子 宮田佳代子』大谷芳久・丹尾安典 図録編集、早稲田大学會津八一記念博物館、2008年

   遠藤知恵子(職員)・・・・・・・得票数1

 (敬称略)


 最も得票数が多かったのは、書評番号2、『いろんな国のオノマトペ』(世界のことばあそび⑤)の書評を書いた、しあわせもりあわせさんでした。

 作品応募や投票にご参加くださった皆さま、いつも見守って下さる皆さまに、心よりお礼を申し上げます。


2022年6月1日水曜日

第5回書評コンクール 応募作品を公開します

  第5回書評コンクールの応募作品を公開いたします。

 今回は5本の応募がありました。

【書評番号1】東君平『おはようどうわ』全10巻、サンリオ、1992-2000年

【書評番号2】『いろんな国のオノマトペ』(世界のことばあそび⑤)、こどもくらぶ編、旺文社、2008年

【書評番号3】エリナー・ドーリィ『キュリー夫人』光吉夏弥訳、岩波少年文庫、1974年

【書評番号4】de Brunhoff, Laurent, Bonhomme. Hachette, 1965(ド・ブリュノフ、ロラン『ボノム』アシェット、1965年)

【書評番号5】『無垢の眼 稲田萌子 枝松直子 成瀬麻紀子 宮田佳代子』大谷芳久・丹尾安典 図録編集、早稲田大学會津八一記念博物館、2008年

 ご応募くださった皆様に、心よりお礼を申し上げます。


 優秀作品は、構成員による投票で決定いたします。メールでご投票いただくか、あるいは、5月27日にメーリングリストにてURLをお送りした投票フォームをご利用ください。

投票締め切り 6月15日(水) 投票結果の発表 6月16日(木)

 センター構成員であればどなたでも、お1人につき1票、ご投票いただくことができます。ぜひご参加ください。


※5月27日に公開した記事(書評)の掲載順等に訂正があったため、本日6月1日、再掲いたしました。書評の内容は27日公開時と同じです。ご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ございませんでした。また、ご指摘くださった方に、この場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございました。

【書評番号1】東君平『おはようどうわ』全10巻、サンリオ、1992-2000年

 

短編童話集で、見開き一ページで一つの作品となっている。漢字を使われずに書かれたこの童話は、作品ごとにユーモラスな白黒の切り絵が一枚ついていて、絵と物語とがあいまって温かみのある作品になっている。柔らかい言葉の響きが連なる様子は童謡や詩の雰囲気を醸し出しつつ、童話の物語性も併せ持つ、童話というものの定義を問い直させる一作。そしてそうした定義にとらわれないそのままの、一つの作品として受け止めることの大事さを考えさせる作品でもある。

この童話集の作品は、日常の出来事や季節の一場面が人間や動物、時に雨などの無生物を視点として描かれており、どれも劇的な出来事が起きることはない。それにもかかわらず、読み終えてしまうことを惜しみながらページをめくる手が止まらないのは、クスッと笑ってしまうおかしみがありつつ、普段見落としている何気ない日常が、とてつもなく愛おしいものに感じられるような温かみのある作品になっているためでもある。

平易な言葉で語られながら、人の心の真髄を示す一文、消えゆくものへの優しい視点で語られる、温かみがありながら寂しい場面。思い出がふと蘇る瞬間の懐かしさとともに感じる一抹の寂しさ、そしてそのままの世界を受け止める温かな視点。そうしたもの全てがギュッと詰まっている。

おすすめは、7巻の「アサリ」という話。猫がアサリをつつく様子や、スズメにアサリが似ているとする描写は、猫好きな人なら場面を思い浮かべて思わずクスッと笑ってしまう。私は、この話を読んで以来、アサリを見るたびに猫とスズメとが思い浮かぶようになってしまった。

息をつかせぬ展開の物語ももちろん面白いが、一方でこういった日常の中の小休止となるような作品は、言葉で紡がれた物語だからこそ表現し得たと思う。音楽や絵といった他の芸術と比べ、自ら読み、考えることでしか意味すら持たない文学という形を持つからこそ筋の面白さだけでなく、作品全体に漂う柔らかい空気や温かみがゆっくりと伝わってくる。

元々新聞に連載されていたこともあり、季節の移ろいがよく主題となっていて、その描写もとても興味深い。しかし、それだけではなく、普段私たちが見落としてしまうもの、目を背けているものに気づかせる視点は、金子みすゞの詩を彷彿とさせる様な、ハッとさせられるものがある。

魅力を説明しようとすると、光がこぼれ落ちてしまうような一作。何が特別というのではないが、落ち込んでいる時でも、ふとした拍子に何度でも読みたくなり、読むと心にストンと落ちてくる。しかも読み進めるうち、心を前向きにしてくれる、いつも手元に大切に置いておきたくなる宝物のような作品となっている。

 作者が若くして亡くなったこともあり、あまり知られていないが童話を愛する人にぜひ読んでほしい作品。



***第5回書評コンクール 投票方法***
 
 センター構成員であればどなたでも投票にご参加いただけます。
 次のどちらかの方法でご参加ください。
 
①良いと思った書評を一つ選び、書評番号を本文に記入してメールを送信
 メール送り先: jido-bun@shirayuri.ac.jp
②メーリングリストでURLをお送りした投票フォーム(GoogleForms)にアクセスし、良いと思った書評を一つ選択
 
 投票締め切り: 2022年6月15日(水) 
 皆さまのご参加を、心よりお待ちしております。

【書評番号2】『いろんな国のオノマトペ』(世界のことばあそび⑤)、こどもくらぶ編、旺文社、2008年

 

 こんな本がほしいな、と思っていたら、望んでいた以上の本に出会えて感動した。それが、この『いろんな国のオノマトペ』だ。英語のオノマトペを集めた本がないものかと探していて、手に取ることができた。

英語だけでなく、韓国語、中国語、タイ語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ロシア語の計9か国語のオノマトペがまとめられている。小学生の調べ学習や外国語学習用に作られたらしく、収録語数こそ少ないものの(約360語)、動物の鳴き声や風雨等の自然音、生活音など、項目別に一覧にされていて、国ごとの違いが一目瞭然だ。

何よりすばらしいのは、各言語のネイティヴが発音を収録した付録のCD。シリーズ5巻分が、CD1枚に収められている。カタカナ表記では限界のある各国語の発音が、CDのおかげで非常によくわかる。さらに、同シリーズは「音筆(おんぴつ)」対応になっており、各単語に添えられたマークに音筆で触れると、音筆がその単語を読み上げてくれるらしい。

 最初に図書館で本書を借りたときには、当然のようにCDが付いていた。ところが、再度借りたときには、これまた当然のようにCDが付いていなかった。CDポケットの跡もない。司書の方に調べていただいても、その自治体所蔵の同シリーズには、いずれもCDは付いていないという。きつねにつままれた思いで、都内にある図書館の蔵書を検索した。検索しても、オンラインデータでは、CDが付属しているかどうかまではわからない。しかも、他の自治体との相互貸出では、CDは扱っていないという。

 なかば絶望して、音筆の購入を考えた。本書が税別2,500円なのに対し、音筆は税別で12,000円もする。だが、背に腹は代えられない。本書は絶版なのだから。それなのに、無情にも音筆は「在庫切れ」。どうやら、近年ずっとこの状態らしい。

結局、先ほどとは別の自治体が所蔵している同シリーズ3セットのうち、ある館の第1巻にだけCDが付属していることがわかり、直接出向いて借りることができた。音声資料のありがたさを味わいながら聴く。ああ、ニワトリの鳴き声ひとつとっても、国によって聞こえ方がこんなにも違うのだなぁ。ロシア語の発音は、ヨーロッパの他の言語と比べてかなり独特な感じがするけれど、やはり寒さが関係しているのだろうか。

各国の比較ができるだけでなく、日本国内の違いにも思いを致せるのが、本書の優れている点のひとつだ。犬の鳴き声が平安時代には「びょうびょう」だったことや、ニワトリの鳴き声が全国で「コッケコッコー」に統一された経緯が書かれており、国内のオノマトペの時代性や地域性について調べてみたいと思わせる。正直に言って、本書は小学生だけに読ませるには惜しい。もっと大人の目に触れるところに置いてしかるべきだろう。そうすればおのずと需要が高まり、シリーズが復刊するかもしれない。そうなる日を待ち望んでいる。



***第5回書評コンクール 投票方法***
 
 センター構成員であればどなたでも投票にご参加いただけます。
 次のどちらかの方法でご参加ください。
 
①良いと思った書評を一つ選び、書評番号を本文に記入してメールを送信
 メール送り先: jido-bun@shirayuri.ac.jp
②メーリングリストでURLをお送りした投票フォーム(GoogleForms)にアクセスし、良いと思った書評を一つ選択

 投票締め切り: 2022年6月15日(水) 
 皆さまのご参加を、心よりお待ちしております。

【書評番号3】エリナー・ドーリィ『キュリー夫人』光吉夏弥訳、岩波少年文庫、1974年

 

 原題はThe Radium Womanとあって少々ぎょっとさせられるが、アメリカのラジウム・ガールズは本書には登場しない(とはいえ、マリー・キュリーも彼女たちと同じように放射線によって健康を脅かされていた)。作者のドーリィは1939年にこの伝記を書き、同年のカーネギー賞を受賞している。本書は1962年に岩波少年少女文庫のために翻訳したものを全面的に改めた新訳版である。

 内容に関しては、私たちがよく知っている「キュリー夫人」の伝記そのものと言っていいかもしれない——帝政ロシアの支配下にあったポーランドでの少女時代、フランスで苦学した青年期、結婚し、夫ピエールとともに研究に打ち込みラジウムを発見、夫婦でノーベル物理学賞を受賞。不慮の事故でピエールを失った後もマリーは研究を続けノーベル化学賞を受賞。マリーとピエールの研究は放射線医療に大きく貢献した。そうした功績を、マリーの人柄とともに知ることができる本だ。

キュリー夫妻の発見を当時の人々がどのように受け止めていたかをうかがわせる、次のような記述がある。

 

そのころ、パリにロイ・フラーというアメリカ人の踊り手がいて、その踊りをいっそう美しく見せるために、ふしぎな照明を使っていた。その舞姫が、マリーに手紙をよこして、チョウの衣装のはねを光らせるのには、ラジウムをどう使えばいいか、聞いてきた。(189)

 

マリーとピエールはこの申し出を面白がり、ラジウムについて親切に説明したそうだ。

20世紀の前半は、科学の発達やそれがもたらす新しい可能性をまだ素直に喜ぶことができ、科学の進歩を信じることもできたのだろう。そんな無邪気な眼差しに、ラジウムの光はとても美しく映ったのではないか。まっすぐに研究へと突き進むマリーもまた、人間としての、あるいは科学者としての思慮深さとは別に、そうした無邪気さを秘めた人だったのではないだろうか。そんなことをふと考えさせられた、1冊だった。



***第5回書評コンクール 投票方法***
 
 センター構成員であればどなたでも投票にご参加いただけます。
 次のどちらかの方法でご参加ください。
 
①良いと思った書評を一つ選び、書評番号を本文に記入してメールを送信
 メール送り先: jido-bun@shirayuri.ac.jp
②メーリングリストでURLをお送りした投票フォーム(GoogleForms)にアクセスし、良いと思った書評を一つ選択
 
 投票締め切り: 2022年6月15日(水) 
 皆さまのご参加を、心よりお待ちしております。

【書評番号4】ド・ブリュノフ、ロラン『ボノム』アシェット、1965年

 

  原題はBonhomme(de Brunhoff, Laurent, Hachette, 1965)にゃ。

 ふにゃっとした輪郭の、不思議なひとが登場するお話の絵本にゃよ。その名も「ボノム(男の子)」にゃ。山の上の、木の隣にいて、ぽちゃっとしていて、頭の後ろに棘が生えているのにゃよ。

望遠鏡で山の上のボノムを見つけたエミリーは、ボノムがどうしてたったひとりでそんなところにいるのか気になって、山登りを決行するのにゃ。山の上にたどり着いたエミリーがお近づきになろうとして声をかけると、ボノムは木の周りをぐるぐる回り出すのにゃ。チャーミングにゃね~(にゃけど、ボノムは何をしたかったのかにゃ~?)。はじめは警察に捕まえられて動物園の檻に入れられてしまうボノムなのにゃ。でも、エミリーの必死の説得のおかげで、棘の先に栓をすることを条件に出してもらって、エミリーのお家に行くのにゃよ。さてさて、ボノムはエミリーのお家でどんなふうに過ごすのかにゃ? エミリーはボノムと仲良しになれるのかにゃ?

ところでですにゃ、実はこの本、日本語訳が出ているのにゃけれど、あまり多くを語らない謎めいた作品にゃったから、金平文庫にあった原書に挑戦したのにゃよ(あ、ちなみに光吉文庫にもあるのにゃ!)。にゃけど、原書を読んでも結局、この絵本の結末をどう受け止めれば良いのか、分からないのにゃよ…ま、それはそれで味わい深いと言えるかもしれないにゃね。

Bonhommeの作者、ロラン・ド・ブリュノフは「ぞうのババール」シリーズの作家ジャン・ド・ブリュノフの息子さんなのですにゃ。お父さんが亡くなった後はこちらのロランさんが「ぞうのババール」シリーズを引き継いでいるのにゃけど、こんな作品もつくられていたとは知らなかったのにゃ! ボノムには俳画っぽい雰囲気があって、たいへん興味深いのにゃ! ボノムとエミリーの関係も、お互いに自立していて、粋ですにゃよ。



***第5回書評コンクール 投票方法***

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 投票締め切り: 2022年6月15日(水) 
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【書評番号5】『無垢の眼 稲田萌子 枝松直子 成瀬真紀子 宮田佳代子』大谷芳久・丹尾安典 図録編集、早稲田大学會津八一記念博物館、2008年

 

柔らかな宝石——そう呼びたくなるような、濁りのない色彩の作品図版が収録されている。この本は2008年に早稲田大学會津八一記念博物館で開催された「無垢の眼」展の図録である。この展覧会の出品作家は稲田萌子さん・枝松直子さん・成瀬麻紀子さん・宮田佳代子さんの四人。稲田さん・枝松さん・宮田さんはともに町田養護学校を卒業したあと、「クラフト工房 ラ・まの」のメンバーとなっており、成瀬さんは高校を卒業後、詩集のための絵を描いたり、画集を刊行したりしている。(美大卒ではないという意味で)アカデミックな美術教育を受けていない作者の展覧会という点で、いわゆるアール・ブリュットと呼ばれるカテゴリーに分類される展覧会なのだろうけれど、ここに収められた作品を「無垢」と形容するには少しためらいを感じる。

稲田さんの作品はどれも〈無題〉とある。水彩だけで仕上げたものは柔らかに滲む色の面がさまざまなものの形に見えて、見る者に空想を誘う。水彩と貼り絵を併用したものは、とりどりの色彩のかけらが画面にひしめき、ひそひそ話をしているようでもある。枝松さんの作品は布を染料で染めたもので、〈火の鳥がとんでくる〉や〈太陽が光って月にかわってくる〉などのタイトルがついている。オーロラのような染料の滲みが稲田さんの水彩と同じく空想を誘うのだけれど、言葉が添えられることで、その連想は物語へと向かっていく。だから画面は、抽象的な色面が具象へと変容する直前をすっと掬い上げたような感じがする。宮田さんの作品は、たとえば〈イギリス夕日の海〉の丹念なドローイングに引き込まれる。水彩絵の具の淡い色が、夕刻の潮風を表しているのだろうか、よく見ると縦のしましまになっていて、ちょっと可愛い。成瀬さんは水彩絵の具やクレパスを使った具象的な作品が収録されている。水彩画の〈虹のなかにみつけた〉は、淡い色の帯のなかに赤と緑の小さな植物が描かれる。若い樹木に見えるのだが、その二つからは金色のつぶつぶ(光?)が立ち昇っていく。何か素敵な予感を抱かせてくれるつぶつぶだ。

これらの作品はいずれも、作者の視覚的な経験や、物語の受容や、日々の思索の足跡として、そこにあるのだろう。そして、ドローイングをする手の動きはその一つひとつが造形的な経験そのものだ。手を動かし描くという行為の経験を積み重ねて、作品は出来上がる。この図録に収められた作品を「無垢」と形容することをためらってしまう理由は、そこなのだ。

ウィリアム・ブレイクは詩集Song of Innocence and Experienceで、「無垢」と「経験」とを対置した。「無垢」の反対側に「経験」があり、一人の創作者として立つとき、人はもう無垢ではいられない。この本に収録された作品の濁りのなさは、創作者としての経験に裏打ちされたもの。それは、無垢であることと同じくらい尊いことなのではないのだろうか。



***第5回書評コンクール 投票方法***
 
 センター構成員であればどなたでも投票にご参加いただけます。
 次のどちらかの方法でご参加ください。
 
①良いと思った書評を一つ選び、書評番号を本文に記入してメールを送信
 メール送り先: jido-bun@shirayuri.ac.jp
②メーリングリストでURLをお送りした投票フォーム(GoogleForms)にアクセスし、良いと思った書評を一つ選択
 
 投票締め切り: 2022年6月15日(水) 
 皆さまのご参加を、心よりお待ちしております。

2022年4月28日木曜日

児童文化研究センター第5回書評コンクールのお知らせ

 

 第5回書評コンクールを開催いたします。
 児童書、絵本、ヤングアダルト文学、ライトノベル、または関連する研究書などの書評を書いて、児童文化研究センターまでお送りください。お送りいただいた書評はブログにて公開し、構成員の皆様の投票により、優秀作品を決定いたします。
 センター構成員であれば、どなたでもご参加いただけます。ふるってご応募ください。
 

【応募要項】

応募資格:応募時点で白百合女子大学児童文化研究センターの構成員であること

書評の分量:800~1200字

応募方法:Wordファイルで作成した書評を、センター宛てのメールに添付して送信

送り先: jido-bun@shirayuri.ac.jp

メール本文には次のことを記載してください。

1. 応募者氏名(ペンネームでも可。本名に併記してください)

2. 応募区分(学生/一般/教職員/その他から一つ選んで記入してください)

3. 取り上げる本の書誌情報(タイトル・著者名・訳者名・出版社・出版年など)

4. 冊子収録の可否(在学院生および翌年の新入院生に配布)

応募締め切り 5月26日(木)正午

※構成員の投票により、優秀賞を決定します。投票方法については、追ってお知らせします。

2021年11月12日金曜日

旅する窓の記録

  皆さま、ご機嫌いかがかにゃ? センター三文庫の守り猫、猫村たたみですにゃ。

 書評コンクールが成立しなくて残念だったのにゃ~。ちょうど今の時期は学会もあるし、忙しい時期にゃからね。仕方ないですにゃ。今回の反省を生かし、来年度は熊沢君と一緒に頑張って、コンクールを盛り立てますにゃ。

 

 ところで、皆さまは窓はお好きですかにゃ? 私は大好きですにゃ。明るくて温かくて、風が通り抜けて、お空と挨拶ができる場所にゃね~。コンクールはなくなってしまったのにゃけど、1冊だけ、本を紹介させていただきたいと思いますにゃ。

 『Window Scape 窓のふるまい学』は、窓の研究がもとになってできた本ですにゃ。その研究では、世界中の窓を現地で実測・聞き取り調査して、窓のまわりで人がどんなふうにふるまうかを観察したのにゃって。この本は、建物とその用途、建っている都市や国の名前、気候区分などを、寸法を書き込んだスケッチと写真とともに収録していて、スケッチには、窓の前で憩ったり、お仕事したりしている人の姿も描き込まれているのにゃよ。窓だけ見るのではなくて、その窓がどんなふうに人の暮らしや街や自然環境に溶け込んでいるのか、窓にまつわるいろんな「ふるまい」から窓を見ているのですにゃ。

この本では、調査して観察した窓を「光と風」、「人とともに」、「交響詩」と大きく三つに整理し、それをさらに細かく分けて窓の記録を収めているのにゃ。その、窓を分けて整理するための言葉がとても素敵にゃから、ここに紹介しておきますにゃ~。 

・「光と風」:「たまりの窓」「にじみの窓」「彫刻する窓」「光の部屋」「影の中の窓」「風の中の窓」「庭の中の窓」

・「人とともに」:「はたらく窓」「通り抜けの窓」「座りの窓」「眠りの窓」「物見の窓」

・「交響詩」:「連なりの窓」「重なりの窓」「窓の中の窓」

(すべて目次より)

 「光と風」の分類では、自然光や外気と窓がどんな風に関わり合っているかという視点からいろいろな窓を配列しているのにゃ。例えば、「たまりの窓」の写真を見ると、窓が光をそっと抱き込むような不思議な空間を見ることができるのにゃよ。「人とともに」はその名の通り、窓と人とがどう関係しあっているか、人のふるまいをもとに分けているのにゃね。「眠りの窓」にゃんて、うっとりしてしまうのにゃ~。「交響詩」は、窓と窓との関係を音楽に喩えているのにゃね。いくつも連なったり、二重窓になったり、さらに複雑に配置されたりすることによって、調和的な空間が生まれるのにゃ。

 人の心と同じように、閉じたり開いたりする窓にゃから、関係性によって窓を見ていくというのは面白いにゃね。

この本のはじめのほうに書いてあったのにゃけど、気候風土によって異なる個性を持った窓の観察は、少しずつ地域を移動しながら見ていくと、窓どうしの似ているところや違っているところが分かりやすくなるらしいのにゃ。だから、この本は、土地から土地へとちょっとずつ移動していく、旅人の視線で窓を記録していった本なのにゃね、きっと。

児童文学作品にも「窓」が重要なモチーフになっているものは少なくないのにゃ。いろいろな窓を眺めにゃがら、好きな作品に登場する窓をあれこれ想像してみようにゃ~。

 

【書誌情報】

東京工業大学塚本由晴研究室編『Window Scape 窓のふるまい学』フィルムアート社、2010年