2021年11月5日金曜日

ムナーリとレオーニ(6)

 1926-1929年 ②カンパリとレオーニ


 ムナーリとレオーニは二人とも、未来派の陶芸作家の工房で陶芸を学んだり、作品を制作したりしていた。未来派の一員となったときムナーリはすでに広告デザインの仕事をしており、ムナーリより3歳若いレオーニは、まだ高等学校を卒業していなかったけれど、カンパリ社に広告作品を持ち込んでいた。

アルコールを嗜まないため、私自身は「カンパリ」と言われても全くピンとこないのだが、手元にある電子辞書の『デジタル大辞泉』に「カンパリ(Campari)」の項目があった。カンパリはビターオレンジと薬草を原料とするリキュール。苦味が強くて、鮮やかな赤い色と柑橘系の香りが特徴なのだそうだ。食前酒として飲んだり、カクテルにしたりするという。

「ブルーノ・ムナーリ」展図録のキャプションによれば、カンパリの発売開始は1862年。2代目経営者ダヴィデ・カンパリのときに、広告デザインに同時代の前衛芸術家を起用し、カンパリ社は世界的な大成功をおさめていた。未来派の芸術家たちも、カンパリ社の仕事をしている(p.49 担当:盛本直美)。

レオーニが持ち込んだとされる広告デザインは、2020年の「だれも知らないレオ・レオーニ」展で展示され、図録にも3点が収録されている。そのうちの1点は、半ズボンや短いスカートを穿いた子どもたちが、ついさっきまで楽しんでいた大道芸人のパフォーマンスそっちのけで、カンパリの入ったコップを持った紳士の元に走り出すというもの。子どもの飲酒を誘っているように見えて、「今日から考えるとあまり教育的ではなかったかもしれません」という図録の解説(p.21 担当:森泉文美)にはただただ頷くばかりである。だが、現代の日本人としての規範感覚から少し距離を取り、レオーニの広告デザインを改めて見てみると、画面の右から左へと流れていくストーリーが読み取れる。子どもたちがコップに入ったカンパリを目指してまっしぐらに走っていく様子は、人々の欲望を商品に向けて誘導する広告デザインのもつ性質のひとつを、率直に物語っているようにも感じられる。

 

【書誌情報】

l  奥田亜希子編「ブルーノ・ムナーリ年譜」(『ブルーノ・ムナーリ』求龍堂、2018年、pp. 342-357

l  「レオ・レオーニ 年譜」(森泉文美・松岡希代子『だれも知らないレオ・レオーニ』玄光社、2020年、pp. 216-219) ※執筆担当者の表示なし

 

遠藤知恵子(センター助手)