絵本研究者の澤田精一氏による評伝、『光吉夏弥 戦後絵本の源流』が岩波書店より刊行されました。この記事は、刊行されてすぐに本書を読んだ助手の呟きです。
光吉夏弥(1904-1989)は『ひとまねこざる』の翻訳者として知られている人物ですが、若い頃は新聞や雑誌に舞踊評論を寄稿し、舞踊評論家として活動を開始していました。鉄道省外局国際観光局に就職し、その後、東京日日新聞、大阪毎日新聞、国際報道工芸社などに勤務。また、戦中より児童書の編集や翻訳を手がけ始めます・・・と、このように、本書からごく簡単に光吉の経歴を抜き書きしてみましたが、従来あまり知られていなかった戦前・戦中の足取りを追う本書を読み、児童文化研究センターが管理している光吉文庫のかつての持ち主、光吉夏弥のことをもっと知りたくなりました。
光吉というと、もう一つ、忘れてはならないのが写真関連の仕事。本書を通じ、さらにその重要さを考えずにはいられませんでした。光吉は戦後、「岩波の子どもの本」シリーズを終えて、「世界写真全集」全7巻(1956-1959)、「世界写真家シリーズ」全14冊(1957-1958)、「世界写真年鑑」(1958-1974)の刊行に携わっています。写真関連のこれらの仕事の背景には、国際観光局勤務時代に培った人脈や経験があることがうかがい知れます。
光吉が働き始めた26歳から敗戦を迎えた41歳までは、誰もが様々な形で変節を余儀なくされた時代でしたが、どの時代の光吉も、過去の自分を捨てずに保ち続けていたのではないか・・・そんな気がします。
【書誌情報】
澤田精一『光吉夏弥 戦後絵本の源流』岩波書店、2021年