2019年10月24日木曜日

熊沢健児の気になる企画展


創刊50周年!


 福音館の月間絵本「かがくのとも」創刊50周年を記念した展覧会「あけてみよう かがくのとびら展」が、今年の夏に開かれていた。いつものように会期終了直前になって駆け込むように見に行った。

会場のアーツ千代田3331は、旧錬成中学校を利用して作られた文化施設だ。ギャラリーやオフィス、カフェレストラン、書籍や様々なグッズを買えるミュージアムショップなどがあり、フリースペースも広く取ってある。お金を使っても、使わなくても、のびのびと過ごすことができるのが魅力の施設である。
また、鑑賞者として訪れるだけでなく、レンタルスペースを使って文化活動をすることもできるし、会議室を借りてビジネスの話をするのもいい。「アーツ(ARTS)」と、複数形の名を冠しているのも伊達じゃないのだ。

そんな、自由な雰囲気の会場でひらかれた、「あけてみよう かがくのとびら展」には、子どもたちの元気が満ちていた。


※乗り物に弱い方は、VRの動きに酔わないようご注意ください。

 ホームページの「展示の様子をパノラマVRでご紹介」で展示会場の様子を見ることができるが、入り口にはそれまでに刊行された「かがくのとも」の表紙画像ずらりと並び、壁には五味太郎『みんなうんち』(1981年)の絵が大きく描かれていた。
パノラマVRを見ても分かる通り、ほとんどがこの展覧会のために設置されたインスタレーションである。

展示されていた原画作品は、鎌田歩『どうろせいそうしゃ』(200910月号)、横溝英一『はしる はしる とっきゅうれっしゃ』(199910月号)、みねおみつ『ちいさなひこうきのたび』(20075月号)、谷川夏樹『かもつせんのいちにち』(20183月号)の4作品。額縁に入った原画のわきに、その絵が印刷されて出来上がった本が置いてあり、壁には拡大された乗り物の絵が直接プリントされていた。原画の干渉もやはり、動き回りながら体感する、ダイナミックな展示だった。

だが、最も特徴的だったことは、すべての展示物が子どもたちの身体のスケールに合わせて作られているということである。身長30cm足らずのぬいぐるみである私からすればそれでも充分すぎるほどに大きいのだが、子どもたちが展示物の間を歩き回り、探検できるように設計されていた。大人たちの多くは、そんな子どもたちを見守りながら、ちょっと背中を丸めたり腰をかがめたりして展示品を見てまわっていた。

 広い世界を知るための展示スタイルである。じっくり落ち着いて作品を味わうより、身体を使って体験することに主眼が置かれていて、意識は常に外へ外へと向かう。
そんな展示スタイルに応じるように、この展示の特設サイトには「かがくのとも+1」というページがある。


ここでは、ハードカバーになった「かがくのとも」109冊の内容に合わせて、出版社にかかわりなく、読書の広がりを楽しむことができる。展示会終了後も、好奇心は広がり続ける。

 子どもたちには、不思議に満ちたこの世界への入り口を、大人たちにはさらなる広がりと奥深さを見せてくれる。面白さの持続する、忘れがたい企画展となった。

熊沢健児(ぬいぐるみ・名誉研究員)