動物の村で習字教室を営んでいるヤギマロ先生の日課は、生徒たちが残した書き損じの半紙をこっそり食べることだった。しかし、きまりが悪かったので先生はこのことを生徒たちには秘密にしていた。
そんなある日、ヤギマロ先生は書き損じの中から半紙に似ている「へろりがみ」を見つけ、餡をくるんで大福のようにして食べてみた。その大福は、先生が今までに食べたものの中で一番おいしい味がした。
「へろりがみ」を使った大福をたいそう気に入ったヤギマロ先生は、その特別な紙を手に入れる口実として、生徒たちに「『へろりがみ』のみ使用可」という条件付きの特別な書道コンクールを開催することにする。大量に集まった「へろりがみ」に小躍りする先生だが、「へろりがみ」に思わぬ落とし穴があることを全く知らず、本人にとっても予想外の騒動を巻き起こしてしまう。
そこから先は事態収束に向けて、たたみかけるような描写が続き、思わず早く次のページをめくりたくなる。
物語の随所に散りばめられたユーモアも、この作品の魅力のひとつである。たとえば、特別コンクールで課題となっている3つの言葉からは、ヤギマロ先生の願望が見え隠れしており、クスリとさせられる。
ヤギマロ先生は、物語の冒頭では「先生」の威厳が前面に出ているが、物語が進行するにつれて「ヤギ」のユーモラスな特性の方が押し出されていくようになっていく。ヤギマロ先生のありのままがさらけ出されていくことによって、私たちは彼を身近な存在として感じるようになり、共感することができるのである。
ヤギマロ先生が病みつきになった「へろりがみ」の大福は、どれほどまでにおいしいのだろうか。「もし自分もヤギだったら……」と思ったのは、きっと私だけではないと思う。
この書評が紹介している作品
たかどのほうこ作、たかべせいいち絵、『へろりのだいふく』佼成社出版、2003年
この書評は2019年に開催した書評コンクールの応募作品です(書評番号8)