みんなのレオ・レオーニ展
展覧会タイトルにデジャヴを覚えつつ、行ってきました。「みんなのレオ・レオーニ展」。小学生のとき教科書に載っていた、あの『スイミー』の原画。普段はスロバキア国立美術館に所蔵されているそうです。本展を逃したら、見る機会はもうないのではと、重い腰をあげたのでした。
東京会場は、新宿駅からほど近い高層ビルの42階(※1)。1階には、レオ・レオーニのグッズショップが開設されていました。グッズの多さに驚きつつ、エレベーターホールの方を向くと、そこにはすでに行列が。開館直後の時間帯でしたが、会期末も近い三連休の中日だったからでしょうか。来館者の二割ほどは親子連れで(※2)、老若男女、幅広い客層です。10分弱で高速エレベーターに乗り、会場へ。
会場入口には、レオーニのアニメーション作品を座って鑑賞できるエリアがありました。後でわかったのですが、出口付近にも、同じ映像を音声なしの字幕付きで立ち見できるスポットがあります。入口には他にも、著名人がレオーニの絵本を一作選び、コメントを寄せたボードが。特に、映画『万引き家族』で少年に『スイミー』を音読させた、是枝裕和監督のメッセージが印象的でした。これらのコメントは図録に載っておらず、ここでしか読めません。
エレベーターが入場制限代わりになっているのか、中に入ってからは混雑を感じませんでした。小さなお子さんも静かに作品を観ていて、ゆったりと鑑賞できます。作品リストにメモをしていると、スタッフの方が「下敷き代わりにどうぞ」と、クリップボードを貸してくださいました。書きやすく、ありがたかったです。
実は、前日に図書館でレオーニの絵本を読み、予習してきたのですが、その必要はありませんでした。展示内容に合わせて絵本が置いてあり、自由に読むことができたからです。読書スペースや壁際で、大人も子どもも無言で読みふけっていました。
原画は絵本よりも色がかなり濃く、鮮やかです。これまでも展覧会に行くたびに、原画と印刷物の色が違うことに驚いたものですが、今回もそれを強く感じました。レオーニ自身が制作したアニメーションも、作画素材によるコラージュと比べると、かなり淡い色調になっています。
本展の見どころは三つ。一つ目は、『スイミー』の原画。絵本の写真と並べて展示されているため、原画と絵本の色やタッチが全然違うのが一目瞭然です。なぜそんなことが起こり得るのか? その謎を、レオーニが好んだ版画技法「モノタイプ」の解説映像を交えた展示で、解き明かしていました。
二つ目は、レオーニのインタビュー映像及び、孫娘アニー・レオーニとエリック・カールとの対談映像。エリック・カールが「ニューヨーク・タイムズ」のグラフィック・デザイナーとして就職したのは、レオ・レオーニの紹介があったからなのです。レオーニに電話し、「ぼくはあなたの作品が大好きだから、あなたもぼくの作品を気に入るに違いありません」と言ったエリック・カールに、度肝を抜かれました。
三つ目は、最初の絵本作品『あおくんときいろちゃん』(1959年)が生まれたきっかけについての解説。孫娘アニーによると、きっかけのひとつが、ブリュッセル万国博覧会のパビリオン閉鎖事件でした。レオーニは「周囲と一人だけ違う」主人公をよく描きます。中でも、周囲との違いが「色」にあるのが、『スイミー』(1963年)、『チコと きんいろの
つばさ』(1964年)、『みどりの しっぽの ねずみ』(1973年)。なぜ色の違いにこだわるのだろうかと疑問でしたが、この解説を読み、理解できました。レオーニは人種差別や戦争を憎み、作品を通して平和を訴え続けたのです。本展のタイトルにある「みんな」は、平和を求める世界中の人々を意味しているのだと納得しました。
ミュージアム・ショップでは、一部のポストカードが品切れに。会期末近くに来たことを悔やみつつ、図録を購入して、家路につきました。
〔敬称略〕
展覧会に行った日:2019年9月15日
文責:出不精ながら
※1:この美術館は、隣に建設中の建物に移転するため、42階の会場は次回の企画展が最後になります。入口付近からの眺望も魅力に感じていたので、少々残念です。移転後も、ゴッホの『ひまわり』をはじめとする収蔵品コーナーの三作は、常設展示されることを願います。
※2:子どもの来館者を意識してか、会場内にはレオーニの作品をモチーフにした、楽しいしかけもいくつかありました。
◆展覧会情報
「みんなのレオ・レオーニ展」
兵庫会場 伊丹市立美術館 2018/8/11(土・祝)~9/24(月・祝)
新潟会場 新潟県立万代島美術館 2018/10/6(土)~12/16(日)
広島会場 ひろしま美術館 2019/4/20(土)~6/2(日)
東京会場 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
2019/7/13(土)~9/29(日)
鹿児島会場 長島美術館 2019/12/7(土)~2020/1/19(土)
沖縄会場 沖縄県立博物館・美術館 2020/2/28(金)~5/10(日)