2019年9月20日金曜日

猫村たたみ×熊沢健児 トークセッション



書評コンクール2019
猫村たたみ×熊沢健児 トークセッション 


猫村 センター構成員の皆さま、ご機嫌いかがですかにゃ。センター三文庫の守り猫、猫村たたみですにゃ。
熊沢 どうも、名誉研究員の熊沢健児です。
猫村 皆さま、この度は書評コンクールにご参加いただき、ありがとうございましたにゃ!
熊沢 ありがとうございました。それにしても、力作をご応募いただけて、本当に良かったね。投票してくださった皆さまにも、心より感謝を申し上げます。
猫村 嬉しくて、私…私…泣いちゃう…んなぁ~ごぉ~~!!
熊沢 な…なんだ、いきなり。君、猫またの声で叫ぶと怖いよ。
猫村 だってブログ開設以来、初めての試みだったにゃよ。
熊沢 確かにそうだね。でも、皆さんもともと文章力のある人たちだから、私は楽しみのほうが大きかった。
猫村 熊沢君は肝が据わっているにゃね。
熊沢 そうかな。『マリー・アントワネットの日記』(Rose/Bleu)を紹介する深民さんの書評(書評番号7)とか、さっそくアマゾンで注文して、作品(紹介されていた本)を読むのが楽しみで仕方がないと言って下さった方もいたよ。
猫村 そうそう、他にも「トワネットちゃんが、普通の女の子のように思えて、読みやすくて楽しそう」というコメントもあったのにゃ。本や雰囲気がよく分かる、素敵な書評だったにゃ~。
熊沢 そうだね。紹介している本の性格を正確に捉えた上で、必要最小限の引用をしている。
猫村 「性格を正確に」って、オヤジギャグにゃ?
熊沢 違うよ、たまたまだ。本文からの引用文と、書評の地の文に流れるスピード感とが見事に合致していた。自分が紹介した作品と歩調を合わせるような文体が、この書評の魅力だと私は思う。
猫村 そうにゃね。そして、こんなふうに文体ごと共鳴することができる本と出会えるって、幸せなことにゃ。
熊沢 うん。そういう本にこれから何冊出会えるかな。人生いろいろあるけど、どんなときにも寄り添ってくれる本があれば心が孤立してしまうことはないからね。
猫村 あ、ねえねえ、『へろりのだいふく』を紹介する歌音さんの書評(書評番号8)は、引用文なしで紹介しているにゃ。
熊沢 そうだね。ちょっとまじめな印象もある「である」調の文体で、ユーモラスな物語のあらすじを紹介している。
猫村 まじめさと面白さのギャップが、主人公のヤギマロ先生みたいだにゃ。それに、「へろりがみ」という紙の名前がすでに笑えるにゃ。
熊沢 へろりがみ…へろりがみ…へろり…へろ、へろ…はっはっは(笑)
猫村 ちょっと、熊沢君!大丈夫にゃ?
熊沢 いや、失敬。たしかに笑えるね。
猫村 私は最後の一文が好きにゃ。
熊沢 「もし自分もヤギだったら……」と思ったのは、きっと私だけではないと思う。――うん、いいね。
猫村 この本を読んで、ヤギに化けるときの参考にするにゃ!
熊沢 え? 君、化けられるの!? いやいやいやいや、参考にはしないほうがいいと思う。おなかが痛くなるよ。
 そうかにゃ~。
熊沢 そうだよ。この本は、読んで楽しければそれでいいんだよ。
猫村 まあ、そうにゃね。
熊沢 さて、沼本さんの『私を知らないで』の書評(書評番号5)は、先ほどのお二人とはガラリと雰囲気が変わるね。
猫村 そうにゃね。
熊沢 書評は自分自身に問いかけるような一文から始まっていて(「いつからだろう、がむしゃらに生きることを躊躇い、今日はまあいいやといい加減に生きるようになったのは。」)、主人公の「僕」のまなざしに自らを重ねながら読んだんだな、と、沼本さん自身の本の読み方が見て取れる。読んだことのない人にとっては、自分がどういう本の読み方をしたいかということにも合わせて本を選択することができるから、紹介者の主観がどこかから垣間見えることは、実は大事だよね。
猫村 たしかにそうにゃ。あと、本の内容を紹介しながら、タイトルの「私を知らないで」という言葉の謎を提示しているのにゃ。紹介文からも分かるとおり、この本はミステリーのようなテイストもあるにゃよね。
熊沢 謎に迫っていくときのヒリヒリした感触も連想させてくれる書評だよね。
猫村 同感にゃ!
熊沢 問いかけから始まる書評といえば、しあわせもりあわせさんの『コンチキ号漂流記』の書評(書評番号6)も、やはり問いかけから始まる。
猫村 「もし、誰も自分の学説を信じてくれなかったら? だれもが話を聞いただけで、論文を読もうともせずに否定してきたら? 味方だと思っていた友達の学者までもが、本当は信じてくれていないのだとわかったら?」…研究者にとっては悪夢のような状況にゃ!
熊沢 そう。研究に携わる者ならではの悪夢だよね。私もこの冒頭部分を読んで、ドキッとした。
猫村 熊沢君も、経験があるのかにゃ?
熊沢 うん、まあ…だって、ほら、私はぬいぐるみだろ?
猫村 人を見た目で判断してはいけないのにゃ!
熊沢 いや、人じゃないから…話を書評に戻そう。この本が児童文化研究センターで、構成員向けの書評として紹介されることに、大事な意味があると私は思うんだよ。
猫村 にゃ~む、どういうことにゃ?
熊沢 はっきり言って、現代日本の大学で文学を研究するのはすごく厳しい。それを研究したからって、すぐに利益に直結するわけではないから、不要不急の、学問のための学問と判断されがちだ。
猫村 そうにゃね。
熊沢 でもね、私は文学が不必要なものだとはどうしても思わない。うまくいってもいかなくても、手を尽くして研究は続けていかなくっちゃ。ハイエルダールのしたたかさは、私たちが最も必要としているものだと思うね。
猫村 自分の手で自説を実証するというたくましさが、すごいにゃね。
熊沢 うん。それに、ユーモアを忘れないというところ。ストレスに強くて折れない心を持つということだけでなく、研究者として必要な客観性は、感覚的には「笑い」ととても近いところにあるからね。この書評では、「ユーモア」というポイントをしっかり押さえて、伝えようとしてくれている。
猫村 勇気をもらえる書評にゃ!
熊沢 その通り!
猫村 白百合の森のキィローさんの『みどりのゆび』を紹介する書評(書評番号4)からも、研究活動への愛が感じられるにゃ。
熊沢 そうだね。参考文献を選び、参照しながら書評を書いている。
猫村 1冊の本から、徐々に読書が広がっていく喜びがあるのにゃよ。
熊沢 うんうん。ここでは、『みどりのゆび』以外の本はあくまでも参考文献として扱われているけれど、1冊の本から出発して、45冊の本を組み合わせて紹介するというのも、今後、やってみたいね。
猫村 私、プネウマは得意にゃ。
熊沢 え…そ、そうなの?(いきなり何だ?)
猫村 にゃ! ※注 猫村が尻尾の先を手に持って回し始めています。
熊沢 (うーん…何かが違う気がするけれど…)
猫村 にゃにゃにゃ! ん~っ、にゃ! ※注 書評で言及される「プネウマ」についてお知りになりたい方は、『天使とは何か』(岡田温司著、中公新書、2016年)をご参照ください。
熊沢 あ、あの…ところで、遠藤さんの『ある奴隷少女に起こった出来事』の書評(書評番号3)だけど。
猫村 にゃ?
熊沢 「これは私の物語だ」と心から思える文学作品に出会えることは、きっと幸せなことなのだと思うけれど、日本での出版までの経緯を含め、ここで紹介されている本はちょっと重いね…。
猫村 そうにゃね。この書評の書き方は、他の書評に比べて具体性に欠けるのにゃけど、ショッキングな内容も含んでいるから、詳しい内容の紹介や本文からの引用はちょっと難しかったかもしれないにゃね。
熊沢 うん。それに、著者のハリエット・アン・ジェイコブズも、もともとプロの文筆家ではなかったからね。この本の文章には、やや生硬なところがある。
猫村 でも、言いづらいことやうまく言えないことも、表現しようと試みることは大事なことにゃよ。生硬な文章が悪文だという決まりがあるわけでもないのにゃし…。
熊沢 そのとおり。この本が最初に自費出版され、いったん忘れられてから再発見されることになった経緯も含め、読めば、重たい過去の現実と向き合うことになる。だけど、この本に書かれていることの重たさは、いま現在、自分自身の重たい現実と向き合う人たちにとっては救いにつながる。
猫村 自分自身が向き合っている現実とジェイコブズが向き合っていた現実とを照らし合わせて、静かな共感を寄せる人たちは、実はたくさんいるのにゃね。本の紹介を通じて、「あなたは一人ではないよ」と伝えられるのは、書評の良いところにゃ。
熊沢 ところで、君の書評(書評番号2『夕凪の街 桜の国』)、私は楽しく読んだよ。「(青春にゃ~)」のところがちょっとおばちゃんぽかったけど。
猫村 にゃにゃ! 失礼にゃ!
熊沢 いや、失礼。いい意味で、だよ。君の優しさがよく表れている書評だった。
猫村 おばちゃん呼ばわりされてから褒められても、嬉しくないのにゃ!
熊沢 ごめんごめん。
猫村 熊沢君は、ショーン・タンの絵本(書評番号1『セミ』)にゃね。この前、本屋さんに行ったとき、大人の絵本として紹介されていたのにゃ。辛酸を舐めながら働くセミに共感する大人は多いかもしれないのにゃ。
熊沢 私も、氷河期世代なので…
猫村 うん。閉塞感でいっぱいの石田徹也さんの絵画と結びつけて紹介していたにゃね。熊沢君も苦労しているのにゃね。よしよし…
熊沢 でも、書評にも書いたとおり、この絵本の魅力はやはり絵の力強さだと思う。
猫村 そうにゃね。
熊沢 さあ、これで全部の書評を見てきたけれど、どれも良かった。書評って楽しいね。
猫村 同感にゃ! 本は一人で孤独に読むものだけど、孤立して読んでいるわけではないのにゃ。
熊沢 コンクールに応募してくださった皆さま、投票してくださった皆さま、そして、いつも暖かく見守ってくださる皆さまに、改めて心よりの御礼を申し上げます。
猫村 ありがとうございますにゃ。今後とも、どうぞよろしくお願いいたしますにゃ。
熊沢 また来年の夏も第2回の書評コンクールが開けるよう、私たちも精進してまいります。
猫村 継続は力なり、ですにゃ。コンクールでないときの、普段の書評も、それ以外の投稿も、お待ちしておりますにゃ。
熊沢 ブログを利用して、文章の腕を磨きましょう。それでは、皆さま、またお目にかかります。
猫村 季節の変わり目に風邪などひかれませんよう、ご自愛くださいませにゃ!