書評コンクール2021春 猫村たたみ×熊沢健児 トークセッション
猫村たたみ (三文庫の守り猫) |
熊沢:どうも、熊沢健児です。
猫村:今回の書評コンクールも、素敵な力作ぞろいにゃね~。
熊沢:そうだね。ご応募くださった皆さま・ご投票くださった皆さまに、心よりお礼申し上げます。
熊沢健児 (名誉研究員) |
猫村:ありがとうございますにゃ!
熊沢:早速、第4回コンクールの振り返りを始めよう。
猫村:「タンタンの冒険」シリーズを紹介したピアノさんの書評(書評番号1)、チャーミングだったのにゃ~。
熊沢:そうだね。ハドック船長についての、「この人と結婚したらかなり苦労しそうだけれども、親友だったら楽しそう」というコメントから始まるこの書評、ピアノさんがこの作品に抱く「好き」の気持ちが、最初にすーっと伝わってくる。
猫村:ハドック船長の人物像も思い描くことができるのにゃ。そして、作品の魅力の一つ、登場人物が交わす会話の楽しさについて、説明しているのにゃ!
熊沢:うん。ピアノさんはその中でも特に、ハドック船長の言葉遣いに注目しているね。「なんとナントの難破船」や「コンコンニャローのバーロー岬」という台詞は確かに面白い。決して上品とは言えないけれど、こっそり真似して呟いてみたくなってしまうね。
猫村:にゃんとニャントのにゃんぱせん(=なんとナントの難破船)! 楽しいのにゃ!
熊沢:いやいや、それじゃ地口になってないよ。「ナント」は地名だよ。「ニャント」と言ってしまったら、わけが分からないよ。
猫村:そうかにゃ? にゃ~む…にゃったら、私もフランス語を習いますにゃ!
熊沢:Bon courage!(がんばって!)
猫村:メルシーにゃっ。
熊沢:『チリンのすず』を紹介した勝又さんの書評(書評番号2)、お話の内容を丁寧に紹介しているけれど、結末が分からないよう、「人間の感情」というキーワードを用いて作品を考察している。まだ読んだことがない人のために工夫しているんだね。
猫村:そうにゃね~、さすがなのにゃ。
熊沢:羊のチリンが主人公ということで、ふんわりした暖かな物語を連想してしまいそうになるけれど、この『チリンのすず』はちょっと違うみたいだね。
猫村:にゃ!
熊沢:勝又さん曰く、登場する羊と狼には、人間と同じ感情(「人間の感情」)が与えられている。物語に登場する羊と狼が、人間さながらのドラマを繰り広げるんだね。主人公のチリンは母親の仇討ちと、仇である狼との師弟関係との間で、どんな決断を下すんだろう。
猫村:にゃ~む、気になるのにゃ。
熊沢:うん。でも、結末は言わないよ。
猫村:あとで図書館で借りて読むのにゃ。
熊沢:うん。
猫村:ところでにゃ、三井さんの『魔女がいっぱい』の書評(書評番号3)は愉快なのにゃ!
熊沢:そうだね。全7本の書評作品のうち、唯一、敬体(ですます調)で呼びかけるように書かれているね。読者参加型の書評だね。
猫村:にゃ! 私たちも参加するのにゃ。熊沢君は、「魔女」と聞いたらどんなイメージを思い浮かべますかにゃ?
熊沢:うーん。草木の茂る森の入り口に小屋を建てて暮らしていて、庭で薬草を育てたり、ときどき産婆さんみたいなことをしたり…民間医療の担い手というイメージかな。
猫村:にゃにゃ? 空飛ぶ箒や黒猫などではないのにゃね。熊沢君は、『魔女・産婆・看護婦―女性医療家の歴史』(バーバラ・エーレンライク+ディアドリー・イングリシュ著、長瀬久子訳、法政大学出版局、2015年)を読んだのかにゃ?
熊沢:え? あ、いや、民間医療というのは私の勝手なイメージで…『魔女・産婆・看護婦』か。そういう本があることは、知らなかった。
猫村:熊沢君は素直にゃ。
熊沢:実際、魔女は欧米の女性の歴史を語る上でも重要な主題の一つだけど、児童文学でもやはり、欠かせないモチーフだね。
猫村:そうにゃね。児童文学に登場する魔女も、バラエティに富んでいて興味深いのにゃ。
熊沢:『魔女がいっぱい』の魔女たちは子どもが嫌いで、国中の子どもを滅ぼすという恐ろしい計画を立てている。だけど、三井さんの文章はむしろコミカルで、「なんということでしょう!」などと、オーバーリアクション気味に慨嘆してみせる。
猫村:そうなのにゃ! 文章から、コミカルな身振りを感じられるのにゃ。
熊沢:ところで、2015年度に、児童文化研究センターで「子どもの本に描かれる魔女プロジェクト」が活動していたよね。
猫村:センター叢書に、『子どもの本と魔女(暫定版)』という冊子があるのにゃ。プロジェクトメンバーが魔女の登場する本を約300冊読破して、その中から子ども向けの作品256点を取り上げ、作品ごとの解題と「魔女スペック」を作品ごとに紹介しているのにゃ。
熊沢:うん。『魔女がいっぱい』の解題および魔女スペックも載っているから、センターにお立ち寄りの際にはぜひ確認してみてください。
猫村:三井さんの書評のおかげで、懐かしいプロジェクトを振り返ることができたのにゃ。
熊沢:うん。研究って、振り返ることが大事だよね。
猫村:にゃ!
熊沢:赤坂恵里さんの『都会のトム&ソーヤ①』書評(書評番号4)は、この夏に公開予定の映画の原作。タイムリーだね。
猫村:タイミングって大事なのにゃ。
熊沢:うん。先ほどの三井さんと同様、赤坂さんの書評も「ご存知だろうか」と問いかけるような言葉遣いによって始まるのだけれど、赤坂さんの場合、コール&レスポンスのような読み方を意図しているわけではないみたいだね。
猫村:にゃ! 読者の意識を書評に向けてもらって、その上で、作品概要、主人公である内人と内人の相棒となる創也がそれぞれ抱えている課題、そして作品全体に流れるテーマを、テンポよくたたみかけるように述べているのにゃ。
熊沢:7本の書評の中で、最もスピード感のある文章だったと思う。
猫村:かっこいいのにゃ!
熊沢:そうだね。この作品のエンターテインメント性を、テンポの良い文章を通じて伝えつつ、主人公にとっての「冒険」の意味、すなわちこの作品の核心部分を、エリクソンを引き合いに出しながら過不足なく伝えているね。
猫村:あと、赤坂さんは映画の情報も記載してくれているのにゃ。
熊沢:そうそう、これは親切だと私も思った。
猫村:公開日に変更がないとも限らないのにゃけど、観たい人にとってはいつ頃に劇場情報をチェックすれば良いかの目安になるのにゃ。映画館に足を運ばれる方は、事前に公式サイトをお確かめの上、感染症対策をばっちりしてくださいませにゃ~。
熊沢:そうだね、事前確認と感染症対策はマストです!
猫村:次は熊沢君の書評にゃね(書評番号5)。ドリアン助川さんの『あん』なのにゃ。
熊沢:いきなりだけど、実は、私は明石海人の星や鉱石の短歌が好きなんだ。「涯もなき青空をおほふはてもなき闇がりを彫りて星々の棲む」という歌をアンソロジーの中に見つけて、一瞬で心を奪われた(アンドレ・ブルトンほか『書物の王国⑥ 鉱物』国書刊行会、1997年 p.111)。
猫村:そうにゃったの。
熊沢:うん。明石海人はハンセン病を患っていた歌人だから、それ以来、ハンセン病と文学について、時々機会を作っては少しずつ勉強しているんだ。
猫村:それで『あん』を取り上げたのかにゃ?
熊沢:うん。『あん』は現代の作品だったけど、これからは時代を遡って全集に収録されている作品は一通り読もうと考えている。戦時中のハンセン病文学については、プロパガンダに利用された側面が大いにあるから、一筋縄ではいかないけれど…。
猫村:にゃ~む。ゆっくり学んでいけば良いのにゃよ。じっくり取り組んでにゃ~。
熊沢:うん。より深く広く知っていくことで、『あん』に対する私の見方や感じ方も変化すると思う。
猫村:そうにゃね。
熊沢:次の『怪談・骨董』の書評(書評番号6)だけど、センター助手の遠藤さん、怪談が好きだったんだ…。
猫村:私、怖い話は苦手なのにゃよ~。
熊沢:え…でも君、猫またじゃなかったっけ? 妖怪トンネルを使って時間旅行もしているよね?
猫村:妖怪トンネルを使っているのは気心の知れたご近所さんばかりなのにゃ!
熊沢:そうなんだ。
猫村:私だって、怨霊は怖いのにゃ(ブルブル…)。
熊沢:そうか。でも、君の『おおかみと七ひきのこやぎ』を取り上げた書評(書評番号7)だって、怖かったよ。
猫村:そうかにゃ?
熊沢:おかあさんやぎとこやぎたちがおおかみの腹に石を詰め込むシーンは、君の言う通り確かに楽しそうで、和気あいあいとした雰囲気の中、おおかみを死に追いやろうとしている。だけど、どうしてそういうところにピントを合わせるのだろうかと、疑問に思った。
猫村:にゃ~む、言われてみれば…どうして私はその場面に注目したのかにゃ? もしかしたら、『マイリトルゴート』を踏まえて、書評を書いたからかもしれないのにゃ。
熊沢:そうか。映像作品は原作の読み方にも作用するからね。
猫村:映像化された作品を見る前と後では、原作との向き合い方も変化するのにゃ。
熊沢:そうだね。一つの作品に対する、自分の読み方が変わっていくことはすごく楽しいし、大事なことでもあるね。さて、ここまで、全7作品を振り返りました。
猫村:楽しかったのにゃ! 皆さま、最後までお付き合いいただきありがとうございましたにゃ。
熊沢:ありがとうございました。
猫村:書評コンクールは夏にも開催するのにゃ。
熊沢:皆さま、どうぞふるってご参加ください。
猫村:よろしくお願いいたしますにゃ!