2025年7月10日木曜日

次回研究会のお知らせ

 第74回「児童文化研究センター研究会 前期発表会」


 今回の発表会では、「修士論文中間発表」と「構成員研究発表」を行います。

 学内(白百合女子大学の学生と教職員)の方は予約なしでご参加いただけます。学外の方は、7月28日(月)17時までに児童文化研究センター(jido-bun@shirayuri.ac.jp)までメールでお申込みください。


修士論文中間発表 10:30~14:30(予定)

構成員研究発表  14:40~16:10(予定)

 ※12時から1時間程度の休憩を挟みます。


「構成員研究発表」プログラム

伊藤かの子氏

「上橋菜穂子作品における〈食〉―越境を象徴する食べ物―」


原田優香氏

「親を求める旅から真理に向かう旅へ―『鋼の錬金術師』における「子ども」と「真理」」


鈴木あゆみ氏

「長谷川版欧文図書の製造工程とカレンダーから見える日本の子どもと文化について」


日時:2025年7月29日(火)10:30~16:10(予定)

場所:9012教室(本館地下)


 発表順や開始・終了時刻は当日変更になる場合もございます。ご了承くださいませ。

 皆様のご参加を、お待ちしております。


お誘いあわせの上、お越しください。

2025年6月20日金曜日

センター入り口の展示替え

ルイス・キャロル『シルヴィーとブルーノ・完結篇』


ルイス・キャロル『シルヴィーとブルーノ・完結篇』(『ミッシュマッシュ』特別号第1巻)平倫子訳、日本ルイス・キャロル協会、2016年7月

展示中も借りられます。ぜひお手に取ってご覧ください。

 今回は、普段は閉架になっている資料のご紹介です。
 『シルヴィーとブルーノ・完結篇』は、『シルヴィーとブルーノ』の続編。商業的出版物としては、まだ出版されていません。『シルヴィーとブルーノ』は、白百合女子大学図書館で柳瀬尚紀氏訳の1976年れんが書房新社版を読むことができます。

2025年6月12日木曜日

新着資料のお知らせ

 『鬼ヶ島通信』804号(2025年春号)が届きました。今号では、SFの特集記事が組まれています。

石川宏千花、河合二湖、北川佳奈、くまあやこ、佐竹美保、柴田勝茂の寄稿に加え、はやみねかおるのインタビュー記事も掲載。豪華すぎて、どこから読もうか迷ってしまいますね。

 また、ひこ・田中さんの連載記事では、『メアリ・シェリー「フランケンシュタイン」から〈共感の共同体〉へ』(シャーロット・ゴードン著、小川公代訳、白水社、2024年)からの引用をまじえてメアリ・シェリー『フランケンシュタイン』の制作背景に思いを馳せつつ、ル・グウィンの「ゲド戦記」シリーズに鋭い批判を加えます。

『鬼ヶ島通信』最新号は本日から1週間程度、センター入り口の展示スペース(メールボックスの上)に置きますので、ぜひお手に取ってご覧ください。

2025年5月29日木曜日

ムナーリとレオーニ(51)

1962年


 毎日の慌ただしさに負けて、ムナーリとレオーニの年譜をひたすら読み続け、書く、というこの連載も、しばらくお休みしてしまっていた。前回は昨年11月末頃に投稿した第50回。半年ぶりに再開したい。

 1962年5月、ムナーリはモスクワへ旅行している。5月から6月にかけて、モスクワのソコーリニキ公園で開催された「イタリア工業の実現物展」の展示プランを監修したとのこと。国際的な活躍をみると気になってしまうのが国際情勢だが、この旅行から約5か月後の10月にキューバ危機が起きている。2024年にアメリカで製作されたA Complete Unknown(ジェームズ・マンゴールド監督、邦題:名もなき者)にも、当時のアメリカ国内に広がる核戦争への恐怖が生々しく映し出されていた。ムナーリはどんな気持ちでキューバ危機のニュースに接していたのだろう。あるいは、もしかして、芸術運動に忙しくて、ニュースなど気にする暇もなかったのだろうか。年譜だけでは分からないことが、たくさんある。
 まあ、それはとにかくとして、この年もムナーリは忙しい。1回の個展と4回のグループ展を行なっているのだが、グループ展のうちの1つ、「アルテ・プログランマータ、キネティック・アート、マルチプル、開かれた作品」展は、アルテ・プログランマータ運動のきっかけと位置づけられるものだ。ジョルジョ・ソアーヴィとともに企画した作品展示で、5月15日からミラノのオリヴェッティ店舗で開始し、7月から8月にかけてはヴェネツィアで、10月にはローマ、翌年6月15日から7月14日にはドイツのデュッセルドルフでも開催している。
この展示に関して、ムナーリはマルチェッロ・ピッカルドとともに記録映像『アルテ・プログランマータ』を製作している。ピッカルドとはその後、1969年の『余波』まで、様々な短編フィルムを共同制作したとのこと。ピッカルドとの製作物は実験映像や広告映像など。年譜に「各地の映画祭などにも参加する」(p.348)とあるので、その後の出来事を少し読んでみたのだけれど、「各地の映画祭」って、どれのことだろう?(わからない。)
 個人的には、オリヴェッティで開催されたグループ展のタイトルにある「開かれた作品」という言葉が気になる。『開かれた作品』と言えば、同年刊行されたウンベルト・エーコの著書である。この辺のことは熊沢健児氏の関心領域なので、彼にこの本についてのリポートを頼もう。最近、体調が思わしくないそうだが、読書や執筆活動が大好きな彼にとって、研究生活を充実させることが一番の薬である。頼めば3~4週間で書いてくれるはずだ。
 なお、この年のレオーニは、タイム・ライフとモンダドーリが共同出版する月刊誌『Panorama』の編集コンサルタントとなっている。役職については、1962年から1963年は編集コンサルタント、1964年から1965年は編集長とある。モンダドーリはミラノの出版社で、1945年にムナーリが子どものための絵本を7冊刊行していた。

【書誌情報】
奥田亜希子編「ブルーノ・ムナーリ年譜」『ブルーノ・ムナーリ』求龍堂、2018年、pp.342-357
「レオ・レオーニ 年譜」『だれも知らないレオ・レオーニ』玄光社、2020年、pp.216-219 ※執筆担当者の表示なし

遠藤知恵子(センター助手)

2025年5月8日木曜日

センター入り口の展示替え

 春から初夏へと移ろいつつあるこの頃、センター入り口のミニ展示も本を入れ替えました。

展示テーマ 少女をめぐる本6選

森下みさ子『娘たちの江戸』筑摩書房、1996年

シャーリー・フォスター+ジュディ・シモンズ『本を読む少女たち ―ジョー、アン、メアリーの世界』川端有子訳、柏書房、2002年

遠藤寛子『『少女の友』とその時代 ―編集者の勇気 内山 基』本の泉社、2004年

中川裕美『少女雑誌に見る「少女」像の変遷 ―マンガは「少女」をどのように描いたか―』出版メディアパル、2013年

岩淵宏子+菅聡子+久米依子+長谷川啓 編『少女小説事典』東京堂出版、2015年

図書の家 編、石堂藍 編集協力『少女マンガの宇宙 SF&ファンタジー1970-80年代』立東社、2017年


 展示中も貸し出すことができます。お気軽にお手に取ってご覧ください。
 帯をつけたままにしている資料もあります。貸し出し時、帯を破いてしまいそうで怖い人は、センタースタッフにお声がけください。返却まで、センターにてお預かりいたします。

本を鑑賞してみる 後編

児童文化研究センターのゆるキャラコンビ、猫村たたみと熊沢健児は『祖父江慎+コズフィッシュ』(パイインターナショナル、2016年)で紹介された本のなかから、大学図書館で借りられる本をピックアップし、本の鑑賞を始めました。ブックデザインの勉強です。いま、ふたりは2冊の学術書が気になっているようです。

(なお、本記事はキャラクターの対話によって成り立っております。猫村につきましては語尾に「にゃ」のつくいわゆるキャラ語を使用しておりますが、記事の性質をご理解の上、お楽しみいただけましたら幸いです。 )

熊沢健児「ところで、猫村さん」

  
 
猫村たたみ
「どうしたのかにゃ? 熊沢君」








〈ふたりが見ている学術書〉

ヒューバート・L・ドレイファス+ポール・ラビノウ『ミシェル・フーコー 構造主義と解釈学を超えて』山形頼洋ほか訳、筑摩書房、1996年
中沢新一『精霊の王』講談社、2003年

熊沢:同じ学術書でも、対照的な2冊だね。
猫村:ま…眩しいのにゃ!
熊沢:『ミシェル・フーコー 構造主義と解釈学を超えて』の表紙は、蛍光色の、ピンク寄りの赤色だ。確かに、眼に染みる色だね。
猫村:本文を印刷する紙も、まばゆいばかりの白にゃ!
熊沢:うん、柔らかなオフホワイトやクリーム色の用紙に慣れた眼には、少々刺激的な白だ。
猫村:本文のレイアウトもドラマティックにゃ! しっかり余白を取るところと、文字で四角くビシィッと埋めているところとのコントラストがはっきりしているにゃ~。
熊沢:コントラスト。確かにそうだね。文字の大きさは定規で測ってみたら3ミリちょっとだった。もう一方の学術書、『精霊の王』は3.5ミリにわずかに届かないくらいかな(※)。
猫村:『精霊の王』の印象は穏やかにゃね。
熊沢:うん。
猫村:でも、本文に行き着くまで、ページを何枚もめくるようにできているのにゃ。一筋縄ではいかないのにゃね。
熊沢:『祖父江慎+コズフィッシュ』によると、表紙を開くと、遊び紙、プロローグ、目次、欧文捨て扉、和文飾り扉、巻頭口絵、大扉と続くんだって。
猫村:扉だらけにゃ!
熊沢:欧文捨て扉はフランス語。
猫村:Le Roi du Monde Caché…「ル・ロワ・デュ・モンド・カシェ」…直訳すると「隠された世界の王」ってとこかにゃ? 日本語の『精霊の王』というタイトルとは微妙に違うのにゃ。
熊沢:慣れ親しんだ日本語とは違うニュアンスを付け加えることで、ちょっと謎めいた感じになるね。
猫村:いくつも扉を用意して、本文までの物理的な距離を持たせているのにゃけど、それだけにゃなくて意味の上でも、慣れ親しんだ言葉の世界から、ちょっと遠く感じさせるような工夫をしているのかにゃ?
熊沢:そうかな…うん、そうかもしれないね。ところで、猫村さん。
猫村:どうしたのかにゃ? 熊沢君。
熊沢:なんか…気持ち悪い…。
猫村:にゃっ、にゃんと!?
熊沢:いや、吐くほどひどくはないんだけど、さっき見た『ミシェル・フーコー 構造主義と解釈学を超えて』の表紙の色合いが、私には刺激が強すぎたようだ。蛍光色の表紙を観察しているうちに、気分が悪くなってしまった。
猫村:それは大変にゃ! 今日はもうおしまいにして、ちょっと横になった方が良いのにゃ!
熊沢:申し訳ない。
猫村:ノープロブレムにゃよ! また日を改めて、一緒に本の鑑賞をしようにゃ~。
熊沢:うん。次は、図書館で、トーベ・ヤンソンコレクションとムーミン・コミックスを見よう。それから、『金曜日の砂糖ちゃん』(酒井駒子作、偕成社、2003年)も!
猫村:にゃ! 私たちは、私たちのペースで、鑑賞して、勉強すれば良いのにゃ。
熊沢:ありがとう。また、ブックデザインについて、学ぼうね。
猫村:約束にゃ!

 蛍光色の刺激の強さに、すっかり参ってしまった熊沢健児。それでも抱き始めたブックデザインへの興味は消えないようで、ゆっくり、自分のペースで学ぶことを心に決めたのでした。

※『祖父江慎+コズフィッシュ』によると、本文の活字の大きさは『ミシェル・フーコー 構造主義と解釈学を超えて』が12.5級、『精霊の王』は13.5級です。

2025年5月2日金曜日

連休中の閉室日

 児童文化研究センターの、ゴールデンウィーク中の閉室日は、5月5日(月)と6日(火)です。ご不便をおかけいたしますが、ご了承くださいませ。
竹とんぼのような、モミジの種子です

2025年5月1日木曜日

本を鑑賞してみる 前編

児童文化研究センターのゆるキャラコンビ、猫村たたみと熊沢健児は、今年度、書誌学やブックデザインなどについて学ぶことにしました。前回、熊沢が『祖父江慎+コズフィッシュ』(パイインターナショナル、2016年)を手に取ったことをきっかけに、ふたりは祖父江さんとコズフィッシュがデザインした本を図書館で借り、鑑賞してみることになりました。

(なお、本記事はキャラクターの対話によって成り立っております。猫村につきましては語尾に「にゃ」のつくいわゆるキャラ語を使用しておりますが、記事の性質をご理解の上、お楽しみいただけましたら幸いです。 )


猫村たたみ
熊沢健児
猫村 熊沢君、おかえりにゃー。
熊沢 ただいま。猫村さんがリストアップしてくれた書籍のうち、シリーズものは1冊だけピックアップして借りて来たよ。全部じゃなくて申し訳ないけれど、さすがに、貸し出し冊数の上限を超えちゃうから。あと、『金曜日の砂糖ちゃん』(酒井駒子作、偕成社、2003年)はリザーブブックだったから、今回は遠慮してきた。
猫村 それでも6冊もあるのにゃ。重かったのではないかにゃ? ありがとうにゃ~。
熊沢 こちらこそありがとう。猫村さんのおかげで、こうして、いつもとは違った観点から本を鑑賞できるんだ。
猫村 にゃふっ、照れるにゃ~。
熊沢 借りてきた本を、テーブルに広げてみるよ。

〈テーブルに置かれた6冊の本〉
トーベ・ヤンソン『軽い手荷物の旅』トーベ・ヤンソン・コレクション1、冨原眞弓訳、筑摩書房、1995年(※)
ヒューバート・L・ドレイファス+ポール・ラビノウ『ミシェル・フーコー 構造主義と解釈学を超えて』井上克人+北尻祥晃+高田珠樹+山形頼洋+山田徹郎+山本幾生+鷲田清一訳、筑摩書房、1996年
アン・スウェイト『クマのプーさん スクラップ・ブック』安達まみ訳、筑摩書房、2000年
トーベ・ヤンソン+ラルス・ヤンソン『彗星がふってくる日』ムーミン・コミックス第9巻、冨原眞弓訳、筑摩書房、2001年(※)
小野不由美『くらのかみ』講談社、2003年(※)
中沢新一『精霊の王』講談社、2003年
※のついているものは、シリーズものです。

熊沢 ほとんどの資料のカバー(ジャケット)は外してあるね。バーコードシールや請求記号シールが貼ってあるし、蔵書印も捺してある。愛着のある大学図書館の蔵書だから普段は気にならないというか、むしろ、こういうシールや印影があるおかげでますます大事にしたくなるのだけど、今回は、ちょっと…。
猫村 そうにゃね~、できる範囲で見てみようにゃ~。
熊沢 そうだね。『祖父江慎+コズフィッシュ』の説明書きや写真図版を見て、補いながら鑑賞しよう。
猫村 この中で唯一、カバーが残っているのはトーベ・ヤンソンさんのコミックにゃ。
熊沢 カバーを外すと、オリジナルと同じイラストの表紙が出てくるんだって。
猫村 はにゃ~、カラフルにゃね~。
熊沢 『祖父江慎+コズフィッシュ』には、「日本でふつうに使われているプロセスインキって重すぎるので、カラーバランスをくずしたインキで印刷」(p.94)って書いてあるよ。
猫村 色のバランス感覚は国によって異なるのかにゃ~。
熊沢 そうだね。私にはよく分からないけれど…。
猫村 たしかに、色彩の表現って、比較対象がないと違いがよく分からないのにゃ…。
熊沢 それと、いま気づいたことなんだけど、もしかして、この巻の表紙絵は別の巻の表紙絵とつながっているんじゃ…ほら、同じポーズを取ったムーミンが、別々の表紙にいるよ。『祖父江慎+コズフィッシュ』の、この図版とこの図版なのだけど…。
猫村 本当にゃ! 絵の続きが、別の巻にあるのにゃ!
熊沢 本を読むときは1冊単位だから、シリーズものであったとしても、そのなかの1冊を手に取ってじっくり見れば良いのだと思っていたよ。でも、こうして1冊を単体で見るのって、なんだかもどかしいね。
猫村 にゃ~む。そうにゃね~。シリーズものについては、あとで一緒に図書館に行ってその場で見ようにゃ。そのときに、日本の絵本やコミックのカラー印刷と、祖父江さんが手がけたトーベさんのコミックとを比べようにゃ~。
熊沢 うん。それじゃ、連休明けにでも、一緒に図書館に行こう。
猫村 にゃ! 
(続く)

2025年4月17日木曜日

熊沢健児の読書日記より

この記事は、児童文化研究センター名誉研究員(ぬいぐるみ)の熊沢健児が執筆を担当したものです。就職氷河期に青春期を過ごした熊沢は、非正規の仕事をいくつか経験したのち、本センターにて住み込みで働くようになりました。熊沢のおもな業務は、児童文化研究センター入口で待機し、ご来室される方々をお迎えすることと、ブログの記事を通じて情報発信をすることです。以後、お見知りおきくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

熊沢健児

 朝、猫村たたみさんから「本についての本」を読もうというお誘いを受けた。猫村さんが「三文庫(非)公式ガイド」で取り上げていた『本づくりの匠たち』(グラフィック社編集部編、グラフィック社、2011年)が面白そうだったので、まずは手に取ってみた。猫村さんの言うとおり、冨田文庫の資料がこの本には登場する。これは、ちょっと、嬉しい。

 私は、本はテキスト(文章も、絵も含めて)が命、内容が一番大事だと思っているけれど、開き具合や手触りといった、(長く読んでいても嫌にならないという意味での)デザインや読みやすさも、読書の楽しみを大きく左右する要素である。見た目よりも中身と実用性を重視したくなる私は、『本づくりの匠たち』に登場するスペシャリストたちの仕事ぶりには、ただただ感謝と尊敬の念を抱くばかりである。

 彼らは私のような合理主義的な読者のニーズばかりでなく、ときに無理難題を持ちかけてくるデザイナーの要求にも応えていかねばならない。『本づくりの匠たち』では、祖父江慎さんというブックデザイナーの名が出てきた。この方は非常に斬新なデザインで知られているのだそうだ。本づくりの現場をグラフィック社編集部とともに取材する名久井直子さん(名久井さんご自身もブックデザイナーである)は、祖父江さんのお仕事を「印刷や加工のことをよくご存知の上で、綿密な計画がなされていて、とても勉強になります」(p.60)と評する。これを読み、ああ、そうなんだと思い、実用一辺倒の自分を大いに反省した。本がどんな姿かたちをしているか、鑑賞しようと思った。

 丁度よい具合に、大学図書館に祖父江さんの作品画像を数多く収録した資料があるのを見つけた。『祖父江慎+コズフィッシュ』(パイインターナショナル、2016年)である。ウキウキしながらこの本を借り、センターに持ち帰ってページをぱらぱらとめくる。そのとき、思わず「ギャッ」と悲鳴を上げてしまった。むき出しの人体が生々しく写された写真画像を見てしまったのである。私にはちょっと無理かもしれない。こういう画像、実はすごく苦手なのだ。でも、勉強はしたいんだよなあ…。今度、猫村さんに相談してみよう。

~後日~

猫村 熊沢くん、こんにちにゃ!

猫村たたみ
「相談って、何かにゃ?」

熊沢 祖父江慎さんのブックデザインの本を見て、本がどんな姿かたちをしているか、鑑賞してみようと思ったんだ。

猫村 それは良い考えにゃ!

熊沢 でも、この本には私の苦手なタイプの写真画像があって…。

猫村 そうにゃの? どれどれ…にゃ~む、荒木経惟さんや、沢渡朔さんの写真集かにゃ?

熊沢 そ、そうなのかな。ちょっと気圧されてしまって、よく見ていなかったから。表現に携わる者としては、作品集に載った図版を正視できないなんて情けない限りだけど…。

猫村 にゃ~に、気にすることはないのにゃ! 作品としての裸体像と、すっぽんぽんの裸の画像や煽情的に演出された肉体の像との境界線は、人によって違うのにゃ。熊沢君の境界線が、祖父江さんや荒木さんや沢渡さんの境界線と違っていただけにゃよ!

熊沢 ありがとう。でも、いやしくも作品として提示されている画像なのに、拒否感を覚えてしまう私には、この本を読む資格はないんじゃないかって思うんだ。でも、勉強はしたいんだよ…。

猫村 本を読むのにシカクもサンカクもないのにゃよ! 私がお手伝いするから、ちょっと待っててにゃ! (猫村、『祖父江慎+コズフィッシュ』をパラパラとめくりながら高速で手を動かし、スマホで検索を始める。)

熊沢 猫村さん、あいかわらず早いな…。

猫村 にゃっへん! 私、情報検索のプロにゃもの、これくらいは朝飯前にゃよ。…へいお待ちにゃ!

熊沢 あ、付箋が挟んである。

猫村 児童書や学術書の書影があるページや、書容設計がわかるページに、付箋を挟んだのにゃ。そして、大学図書館に所蔵のある本は、これと、これと、これと…。

熊沢 すごい! 実物を見ることができるんだね。

猫村 検索しているうちに、私も祖父江さんデザインの本を見てみたくなったのにゃ。

熊沢 うん。一緒に見てみよう。今から図書館に行って、借りてくるよ!

猫村 ありがとうにゃ!


【書誌情報】

『祖父江慎+コズフィッシュ』パイインターナショナル、2016年

2025年4月10日木曜日

猫村たたみの三文庫(非)公式ガイド

この記事は、白百合女子大学児童文化研究センターオリジナルキャラクター「猫村たたみ(ねこむら・たたみ)」によるものです。猫村は、児童文化研究センターの貴重書庫「三文庫」を図書館司書として守り、その魅力を広く伝えるという職務遂行上の理由から、語尾に「にゃ」をつけたいわゆる「キャラ語」を用います。本ブログ記事をお読みくださる皆様におかれましては、キャラクターの性質をご理解の上、猫村たたみの世界観をお楽しみくださいますよう、お願い申し上げます。
猫村たたみ
 皆さま、ご機嫌いかがかにゃ?
 三文庫の守り猫、猫村たたみですにゃ。いよいよ新学期が始まったのにゃね。新学期の大学は賑やかで、私もなんだか楽しいのにゃ~。
 私がお守りする「三文庫」は、白百合女子大学児童文化研究センターの貴重書庫なのにゃよ。三文庫は、「金平文庫(かねひらぶんこ)」「冨田文庫(とみたぶんこ)」「光吉文庫(みつよしぶんこ)」という三つの文庫で構成されていて、それぞれにユニークな来歴と蔵書をもっているのにゃ。世界中でここにしかない資料もあるのにゃよ!
 
 ところで、皆さまはもう、2025年度の目標を立てられましたかにゃ? 私の2025年度の目標は「原点回帰」ですにゃ! 今年度は本についての本をたくさん読んで、司書としての知識に磨きをかけるのにゃ。
 この前、図書館で素敵な本を見つけたのにゃ。タイトルは『本づくりの匠たち』。本づくりに関わるさまざまな「匠」の技を、デザイナーの名久井直子さんが見学して、本を作ったり修理したりする、いろんな名人のお話を聴くのにゃよ。印刷や製本や函作りなどの現場で名人がどんなふうにお仕事しているかを知ることができる、興味深い本なのにゃ。
 たとえば、「小口印刷」。小口(こぐち)って、本の「背(せ)」以外の、紙の切り口が見えるところにゃよ。上の小口を「天」、下の小口を「地」とも呼ぶから、背の反対側の部分を特に指して「小口」と言うことが多いにゃね。辞書などの小口に、「あかさたなはまやらわ」って書いてあるの、あれ、便利にゃね~。ああいうのが小口印刷。小口印刷をする現場の人たちや、そこで使われている機械などを写真で見ながら、名久井さんのチャーミングかつ本づくりの勘所を踏まえた発言や、匠の皆さまとのやり取りを読むのがとっても楽しいのにゃ!
 本を書いた人や装丁をした人、編集した人や出版社などの名前は奥付に書いてあるけれど、インクの色を調節した人や製本をした人、特殊な印刷や加工をした人たちは「縁の下の力持ち」にゃからね~。『本づくりの匠たち』では、滅多に見られない、貴重なお仕事風景を覗き見できちゃうのにゃ!
 そんなわけで、私、この本をとても面白く読み進めていたのにゃ。すると、にゃ…にゃんと! 冨田文庫の資料がこの本のなかの写真に写っていたのにゃよ! 東京修復保存センター(TRCC)さんへの取材なのにゃ!
 この本の83ページで、TRCCの修復現場を見学する名久井さんが「あっ! かわいい表紙がいっぱい!」と声を挙げ、ペーパー・コンサバター(歴史文書保存修復家)の安田智子さんが「白百合女子大学から預かったものですね。明治・大正から昭和にかけての児童書や雑誌です」と応じるのにゃ。そして、89ページの写真には、『小鹿のはなし』の表紙が! これ、冨田文庫の資料にゃよ。
 そうそう、思い出したのにゃ! 文庫の整備をするときには、TRCCさんにたくさんの資料を修復していただいたのにゃよ。錆びてしまったステープラー(ホチキス)の針を外し、放っておくとボロボロになってしまう酸性紙に脱酸性化処理を施したり、クリーニングしたりしたあとで丁寧に綴じ直す、集中力と根気の要る作業をしていただいたのにゃ~。おかげさまで、修復から10年以上経ったいまも冨田文庫の資料は元気に、皆さまの研究のお役に立っているのにゃ。
 
 こんなふうに、三文庫はいろんな人の助けを借りて、大事にだいじに整備された貴重書庫なのにゃ。どうかどうか、皆さまも大切に、そして存分にこれらの資料を活用していただきたいのですにゃ。いっぱい使ってにゃ~!

【書誌情報】
グラフィック社編集部編『本づくりの匠たち』グラフィック社、2011年(※)。白百合女子大学図書館蔵書。
小山賢市『小鹿のはなし』新興出版社、1948年。冨田文庫資料ID:T08440 / T08441。

  • 2015年に、グラフィック社編集部と名久井直子さんがタッグを組んで作った『ブックデザイナー・名久井直子が訪ねる紙ものづくりの現場から』(グラフィック社)が出版されています。『ブックデザイナー・名久井直子が訪ねる紙ものづくりの現場から』では、『本づくりの匠たち』で訪れた活字鋳造の株式会社中村活字と活版印刷の株式会社弘陽に2度目の見学をしており、さらに、東日本大震災を経験した製紙工場での話など、本好きならばぜひとも読んでおきたいトピックがたくさんあります。
皆様も、2025年度は猫村と一緒に、本についての本を読みませんか?

2025年4月2日水曜日

新刊本のお知らせ

『ちりめん本 海を渡った日本昔ばなし Japanese Fairy Tales

尾崎るみ監修 浜名那奈訳 東京美術 2025年4月

 一家に一冊は持っておきたいような、愛らしいちりめん本の影印本が出版されました。長谷川武次郎が明治18(1885)年に刊行したちりめん本「日本昔噺」シリーズより『桃太郎』『舌切雀』『猿蟹合戦』『花咲爺』『勝々山』『鼠嫁入』『瘤取』『浦島』『因幡の白兎』『竹箆太郎』の英訳版を選び、これら十作品の表紙・表題紙・本文・奥付など広告と裏表紙を除いたページが影印され、各作品の主要な登場人物を紹介する扉が新たに付け加えられています。

 実物よりも一回り大きい、125パーセント程度の拡大印刷がなされており、文字が読みやすくなっているのもこの本の良いところ。匡郭の使い方を工夫した、遊び心あるちりめん本の絵柄が、少し大きめに印刷されてとても見やすくなっています。じっくりと楽しみながら見ているうちに、新たな発見があるかもしれませんね。各作品のイメージカラーを背景色として、和紙のテクスチュアで印刷しているところも、まるで縮緬紙の肌合いを視覚的に再現しようとしているかのようで新鮮です。

 本書に収録された3つのコラムと5つのメモは児童文化研究センター研究員の尾崎るみさんが担当し、「日本昔噺」シリーズ誕生の経緯や、その立役者となった武次郎、このシリーズで活躍した絵師たち・翻訳者たちについて解説しています。日本語訳は同じく本研究センター研究員の浜名那奈さんが担当しています。日本の昔話を異なる言語で読むときの新鮮な感じが、浜名さんの訳文からも伝わってきます。

 本書は4月2日(水)発売。センター入り口にさっそく展示しました。ご来室の折には、是非、お手に取ってご覧ください。

2025年3月14日金曜日

春期閉室のお知らせ

 児童文化研究センターは、3月16日(日)から23日(日)まで閉室とさせていただきます。何卒ご了承くださいませ。

白百合を飛び立ち、新たな道に進まれる皆様に
心より、「おめでとうございます!」


論文集を発行しました

 今年度も論文集発行の季節がやって参りました。ご投稿いただいた皆様に、心より感謝申し上げます。昨今の郵便事情はなかなか厳しくなっておりますが、関係者の皆様のお力添えをいただきまして、発送作業を終えることができました。

 当方で把握している範囲では、都内では発送(2/27)から約9日、東京以外の首都圏の都市部では約11日、関西圏の都市部では約12日程度で届いているようです。万が一、まだ届いていない方がいらっしゃいましたら、ご一報くださいませ。
 なお、センターの春期閉室期間は3月16日(日)から23日(日)とさせていただいております。お問い合わせへのお返しに少々お時間をいただくこともあるかとは存じますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

2025年2月20日木曜日

ミニ展示 2月21日~3月14日

センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。

とても すてきな わたしの 学校

ドクター・スース と J・プレラツキー 文

レイン・スミス と ドクター・スース 絵

神宮輝夫 訳 童話館出版 1999年

展示中も借りられます。お手に取ってご覧ください。

2025年2月7日金曜日

ミニ展示 2月7~21日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。


バレエ物語集 あこがれの代表作10

ジェラルディン・マコックラン 著 

井辻朱美 訳、ひらいたかこ 絵、偕成社、2016


 展示中も借りられます。お手に取ってご覧ください。

2025年1月24日金曜日

現在開催中の企画展

 埼玉県東松山市の埼玉ピースミュージアム(埼玉県平和資料館)で、企画展「児童文学のなかの戦争」が開催されています。この企画展には、児童文化研究センター三文庫の資料が使用されています。

【埼玉ピースミュージアム(埼玉県平和資料館)】
https://www.saitama-peacemuseum.com/

テーマ展「児童文学のなかの戦争」観覧料無料
2025年1月18日(土)~3月9日(日)
※休館日はホームページでご確認ください。
9時~16時半(入場は16時まで)

 なお、この企画展を知った助手の一人が、「同じ東松山市にある丸木美術館にも行きたいな。1日で回れるかな」と、調べたところ、思いのほか距離があることが分かりました(車で15分程度、徒歩では1時間半程度)。どこでお昼ご飯を食べるかといったことも含め、予め計画を立ててから行くのが良さそうです。

2025年1月10日金曜日

ミニ展示 1月10~2月7日

 センター入り口で、センター蔵書のミニ展示を行っております。展示中も借りられます。お手に取ってご覧ください。

動物裁判 西欧中世・正義のコスモス
池上俊一 著、講談社現代新書、1990年

思考する動物たち 人間と動物の共生をもとめて
ジャン=クリストフ・バイイ 著、山口俊洋 訳
出版館ブック・クラブ、2013年

階級としての動物 ヴィクトリア時代の英国人と動物たち
ハリエット・リトヴォ 著、三好みゆき 訳、国文社、2001年

 今回は展示期間が長くなるため、動物をテーマに3冊同時に展示することにしました。
 いずれも興味深い切り口で、動物と人間の関わりを論じています。